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Vol.109-1

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回は、デジタル業界でいま話題のメタバースを取り上げる。

↑メタバース(Metaverse)は、「Meta」と「Universe」を組み合わせた造語。人間がアバターという分身に化けてネット上に構築された仮想空間でさまざまなやりとりができるようになる。Meta社のVR会議アプリHorizon Work rooms(写真)ではアバターで会議に参加可能だ

 

110兆円の市場にビジネスの中心を移行

「メタバース」という言葉が急速に注目を集めている。もうここ2年くらい続いているのだが、やはりニュースとして大きく取り上げられるきっかけとなっているのは、10月28日、Facebookがメタバース事業への注力を宣言し、社名を「Meta」に変えたからだろう。

 

社名変更のいきさつについて、特に海外ではかなり辛辣な評価も多い。このところ同社は、プライバシーや政治的発言のコントロールなどで多数の問題を抱えている。それによってブランド価値が下がることを防ぎ、次のビジネス価値が大きくなるまで時間を稼ぐには、社名変更で批判をかわすのが一番……という話だ。そんな面もあるだろう。

 

だが、同社が文字と写真をベースにしたSNSの次の存在として、メタバースを有望な存在と考えるのは本心中の本心だ。

 

同社のマーク・ザッカーバーグCEOは「メタバースに1兆ドル(約110兆円)の市場価値がある」と語っている。そして、メタバース関連技術の開発を担当する「Reality Lab」に、毎年100億ドル(約1.1兆円)の投資を行っている。Reality Labのトップであるアンドリュー・ボスワース氏は、2022年よりMeta(Facebook)全体のCTO(最高技術責任者)になる。

 

デジタル空間とリアルをシームレスに結びつける

なぜメタバースにそこまで大きな可能性があるのか? シンプルに言えば、メタバースがSNSに続く、「コンピュータを介した人々の生活の場」になる可能性があるからだ。

 

メタバースとは何なのか? 正直なところ、定義は曖昧だ。多くの場合、メタバースは「ネットの中に作られた3Dの空間で、自分をキャラクターとしてコミュニケーションするサービス」と定義されることが多い。ヘッドマウントディスプレイを使い、VRの中に入って使うもの、というイメージだろう。実際、それがひとつの形であるのは間違いない。MetaもVR機器であるOculus Questを開発・発売しており、こちらの名前もMeta Questに変更される。

 

だが、単純に「いま存在するVRの中で楽しむもの」と考えるのは正しくない。多数の課題があり、いまのままでは大きな市場にはならないのである。

 

ゲームだけでもない。対話だけでもない。ショッピングだけでもない。SNSは、現在リアルに存在するビジネスから地続きのデジタル・サービスとして根付いたからこそ大きなビジネス価値を生み出した。

 

メタバースが狙うのは、そうした可能性である。デジタル“空間”のなかで行える活動とリアルな社会で行う活動の境目をより小さくし、人々の活動領域を広げることが、メタバースの本質だ。ARのようにリアルな空間に3Dの物体を重ねたり、ネットを通じて自分が別の現実の場所へと視覚・聴覚を移動させたりすることが可能になれば、確かにそれはある種「新大陸発見」のような経済的インパクトを生み出す可能性がある。

 

だが、繰り返しになるが、そのためには技術的や社会的な課題が多数あり、1年や2年で解決できるものではない。では、その課題とはどういうものか? それは次回で解説していく。

 

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