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男児を第一子にもった若い男性は犯罪率が低下
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ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン経済学部(UCL Economics)の研究により、15〜20歳の若い男性は、男の子を第一子とした場合に、犯罪率が低下することが判明しました。

また重要なことに、長男を持った男性の犯罪低下により、近隣に住む同世代の若者男性の間でも犯罪の減少が見られたのです。

この結果は、犯罪行動における「波及効果」を実証した初の証拠となります。

犯罪における波及効果とは、最初の犯罪が周囲に伝播して、さらなる犯罪を引き起こし、その犯罪がさらに多くの犯罪を引き起こすもの。

逆もまた然りで、誰かの犯罪を防ぐことが、周囲の犯罪率の低下にもつながるようです。

研究は、10月19日付けで学術誌『Journal of Political Economy』に掲載されています。

目次

  • 第一子が「男児」なら犯罪率が減少

第一子が「男児」なら犯罪率が減少

研究チームは今回、デンマークにおける過去数十年間の犯罪記録と行政データを分析し、犯罪率がピークに達する15〜20歳の間に、初めて父親になった男性に焦点を当てました。

子どもが生まれた後の数年間に犯した犯罪歴を調べた結果、女児でなく男児を第一子とした男性に大きな変化が見られています。

父親になる前の犯罪率に差はありませんでしたが、男児が生まれた後の最初の1年間で、女児をもうけた男性に比べ、犯罪率が17%も低下していたのです。

さらに10年後のデータでも、男児を第一子とした父親は、犯罪件数の蓄積が明らかに少ないことが分かりました。

研究主任のクリスチャン・ダッツマン(Christian Dustmann)教授は、これについて、「若い男性が男児を育てる場合、ポジティブなロールモデル(要は、子どもにとっての良い父親像)となるために、より責任ある行動を取るようになるのでしょう」と説明します。

「犯罪率の減少」は周りにも波及

チームは次に、女児でなく男児が生まれた場合、その男性の同級生(子どもを持つ前に近隣に住んでいた同年代の若者)の犯罪行動に変化があるかどうかを調べました。

すると、女児の場合は特に変化がなかったものの、男児を持った男性の周囲では、犯罪率の低下が見られたのです。

しかも、これらの効果は時間の経過とともに大きくなり、少なくとも10年間は有意に残っていました。

これは、同地域の犯罪者が周りの人を犯罪に誘う「波及効果」によって説明できるという。

さらに、この波及効果は、人口密度の低い地域に比べて高い地域で2倍になっており、これは「犯罪レベルが農村部よりも都市部で高くなる理由を説明するのに役立つ」と指摘されています。

効果は周りの男性にも波及
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本研究の成果は、犯罪の波及効果のメカニズムを理解することで、犯罪防止政策の設計を改善し、犯罪にかかるコストをより大きく削減できることを示すものです。

ダッツマン教授は、次のように述べています。

「今回の調査結果は、将来の犯罪防止政策にとって重要なものです。

この結果は、ある若者が犯罪に走るのを止めることで得られる利益の総額が、特定の個人の犯罪を抑止することによる直接的な効果よりも数倍大きいことを示唆しています。

この試算は、その若者の周囲にいる人々の犯罪行為の減少を考慮したものです」

今回は、男児を第一子とした若い男性を対象としており、女児を第一子とした若い女性では、どうなるのか分かっていません。

その点の調査が今後の課題となるでしょう。

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参考文献

Child’s gender influences crime rates in young fathers and their peers
https://www.ucl.ac.uk/news/2021/nov/childs-gender-influences-crime-rates-young-fathers-and-their-peers

元論文

Child’s Gender, Young Fathers’ Crime, and Spillover Effects in Criminal Behavior
https://www.journals.uchicago.edu/doi/10.1086/716562