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INTERVIEW & TEXT BY ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)
PHOTO BY 橋本憲和

斬新かつダンサブルなサウンド、メッセージ性を感じられるクリエイティブな言葉の数々。

つねに、音楽シーンへ刺激を与えながら自らをアップデートし続けてきたシンガーソングライター のReolがミニアルバム『第六感』をリリース。

リード曲は、先行リリースされスマッシュヒットした「第六感」。パンデミックな不安定な時代だからこそ大事にしたい攻めの姿勢、前に進んでいく気持ちの強さ。

そんな能動的なテーマを感じ同曲に加え、イギリスのマンチェスターを拠点に活動するサウンドクリエイターGeek Boyを迎えて取り組んだ「ミュータント」「Nd60」「Boy」など、ネクストステージを予感させる7曲が揃っている。

■Reolの基盤を作れた今、次は広げていくためのトライ

──Reolさんの2020年はLINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)での無観客ライブ『Reol Japan Tour 2020 ハーメルンの大号令 -接続編-』があって、ライブはもちろんスーパーチャットの仕組みとともに盛り上がりました。

Reol:ありがとうございます。それこそ、スタッフがリスナーと一緒になってスーパーチャットで思いをコメントしてくれるという。あの盛り上がりは胸熱でした。コロナ禍でなければあの一体感は体験できなかったと思います。

──そして、リベンジとなったLINE CUBE SHIBUYAでの有観客ライブ『Reol Installation Concert 2021「音沙汰」』という貴重な経験を経て、本作『第六感』をリリースするのは、心機一転、心情として大きな変化があったのではないですか?

Reol:アルバム『金字塔』が出来た後から、次の作品はもっとマスの世界へ向かって行きたいと思っていたんです。ソロアーティストとしてフルアルバムを2枚作ってみて、Reolの基盤は作れたところがあったので、ここから先は聴き手を意識して、より広げていくためのトライをしたいと思って。

これまでもリードトラックはそうだったんですけどね。アルバム曲は本当自分がやりたい曲のプレゼンテーションだったので(笑)。ミニアルバム収録曲、7曲すべてにそんな思いを込めて作っています。

■デジタリーなトラックに“THE 日本人”な私のマインドを乗せる

──“ネット発カルチャー”という言葉があり、Reolさんはその代表格でもあって。そして、“ネット発”のあり方が、今やそれがどんな表現者であっても普通の時代となりましたよね。

Reol:それこそ、“ネット発カルチャー”から音楽を聴き始めた新世代が世に現れ始めましたから。私も、様々なクリエイターと関わっていくなかで「以前から聴いてました!」とか、そのうえで一緒にお仕事する機会が増えて。不思議な感覚ですね。

──ちょっと話がそれますが、今、面白いと思っているのがボカロ文化圏を横断するソーシャルゲーム『プロジェクトセカイ』で、新旧ボカロ文化圏のサウンドが初期ファンはもちろん、今のティーンエイジャーにも伝わっていて。

さらにヒップホップシーンの『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』では、Reolさんはスペシャルにオリジナル作品を発表されていますよね。

大人が気づかない間に音楽シーンでは新しいマーケットが生まれているなって。あれって今ITシーンで、バズワードとなっている“メタバース”の先取りでもあると思うんですよ。

Reol:そういったグラデーションが出来たし。私たちがいたニコ動全盛期を知らない今の思春期世代が、ネットやボカロ文化を介して音楽を楽しんでいるという不思議な時代になったなと思っています。

──この10年の間に、ほんと音楽シーンは細分化しつつシーンが多様化しながら広がっていて、コロナ禍であっても、音楽を楽しむ機会は広がっていると思うんですよ。

Reolさんは、ロックフェスシーンはもちろん、様々なフィールドで闘っていて。最新ミニアルバム『第六感』は、よりヒューマンな方向に進んでいるんじゃないかなと思ったんです。

Reol:血の匂いが強い音楽が好きだし、そういうのを聴き育っていることもあって。サウンドメイクやビート感はデジタリーであるがゆえに、そんなトラックの上に“THE 日本人”な私のマインドを乗せることがいちばんの売りだと思っているんです。

そこを色濃く出しつつ、でもちゃんとポップに。ポップというのは、みんながわかる感情を書きたいんです。それは共感を得にいくだけじゃなくて。自分が感じて経験したこと、そんな思いが重なることを書きたいっていう。

──リスナーが「あ、自分が聴きたかったこと考えていたことってこれなんだ!」ってハッとする。そういう体験を提供できる音楽ということですよね。

Reol:と、言いながらも歌詞はリズムに合ってさえすればどうでもいい節もあるんですよ。あ、なんでもいいワケではなくて、刺さる音楽であることが大事なので。音としての美しさが大前提ですね。そんな言葉が持つリズムを突き詰めていきたいと思っています。

■レコーディングさえしなければ、前へ進めるんですよ

──それ、いちばん訊いてみたかったところで、言葉が持つリズムがアップデートされているかされていないかで、今の時代感を奏でているかどうかって、明確に分かれますよね。Reolさんは確実にアップデートされているんですよ。

Reol:それはありがたいです。そこを特に突き詰めた新曲が「Boy」のAメロとBメロで。リズム先行で組んで、いかに言葉をはめるかにこだわって。職人のように作りましたね。

──その環境は、自宅スタジオにこもって?

Reol:そうです。歌録りも家でやったんですけど、そろそろ(外部)スタジオで録ってもいいかなと思っていて。それは環境が、とかではなくて、自宅だといつまでも録らない(苦笑)。

──ははは(笑)。

Reol:なんか、ブラームスとかも交響曲書くのに21年かけたじゃないですか? 人って完成形まで持っていくのって、なかなか億劫だと思うんです。私も、いつまでも完成しない、いつまでも同じ油絵を描くことになってしまいそうで。

レコーディングさえしなければ、前へ進めるんですよ。あはは(苦笑)。でもそれって、その先の行程のスケジュールが厳しくなってくるんで、そろそろまわりの監視下で録らないといけないなって思いました。

──スタジオで録ることで、そこでまた広がる新しい経験となるかもしれないもんね。

Reol:宅録が良いのはわかったうえで、自宅で録るのと同じような感覚で今だったら録れるような気がするんですよ。もう最後にスタジオ入ったのが6年前で(苦笑)。あの頃は“人前で歌うの?”って感じだったんです。ライブの経験もそんなになかったので。

──Reolさんはボーカリゼーション、節回しのこだわりが個性となっているから、あまり人が多くないほうが集中できそうだもんね。

Reol:スタジオのブースに入るときも無人でやりたいんですよ。セッティングのみしていただいて。今回、ミックスをお願いした小森(雅仁)さんに「それもできるよ」って提案されて。「あ、それができるならやりたいです」みたいな。

■ちゃんとReolらしさのある曲がターニングポイントとなるありがたさ

──なるほどね。それも、ある種チームワークってことですよ。では、曲について。「第六感」は、テレビCM「(BOAT RACE 2020)イメージソング」で世に流れまくったナンバーとなり、ひとり歩き感で広がっていますよね。

Reol:新しい人と会うときに“「第六感」の!”みたいにはなりますね。自分にとってのターニングポイントとなる曲って何曲かあって。数年前だったら「サイサキ」がそうで。でも、ずっと聴いてくださっている方からすると「第六感」もちゃんと自分っぽい曲だと思うんです。

──「第六感」は、アッパーなトラックでありながら和テイストを織り交ぜるなどReolらしさ満載のナンバーとなりました。サビで加速する、すっと入ってくる思いの強さがグッときます。

Reol:ボートレースのタイアップ曲だったので楽曲の打ち合わせをした際に、駆け抜けていく感じや湿度のあるイメージがあって。だけど、ウェットな感じというよりは水しぶきを連想するサウンドで。

わりと早いBPMや四つ打ち感、そしてボートが6レーンあることだったり、ギャンブルってまさに感覚だよねって。そこはタイアップでなければ生まれなかった発想もあったと思います。サビからできて最初からこんなノリの曲でした。

──2曲目「Q?」は、『デジモンアドベンチャー』エンディング主題歌。Reolさんはデジモン世代でしたっけ?

Reol:ドンピシャではないんですけど、弟がいるので一緒に観ていて。無印のデジモンから知ってました。

──軽快なビートにラップが折り重なっていく切なき感情がはち切れんばかりの表現をされていました。

Reol:好きなように作ってほしいというオーダーだったので、ドラムンベースをやりたかったんです。まずビートから決まって曲は作れたんですけど、歌詞が書けなくて。

ちょうど2020年の5月ごろだったのかな? 緊急事態宣言などでちょっと世の中が暗かったんですよ。あと、日本でもBlack Lives Matter(※アフリカ系アメリカ人のコミュニティに端を発した、黒人に対する暴力や構造的な人種差別の撤廃を訴える、国際的な積極行動主義の運動)のデモ活動が盛んになった時期で。

SNSを見ると気持ちが落ちちゃって…でも、SNSを見ないとみんなとの接点がなくなっちゃう時期というか。

──ああ、その感覚、たしかによくわかります。

Reol:外出もできないし、ツイッターデモが起こったり。SNS視聴率みたいなものが高かった時期ですよね。みんな人との接点をデジタルに求めてたなと。

そんななか、どうしても差別意識というか。自分以外の思想を除外する考え方が強まってるなというのを考えていましたね。重いテーマを描いたなと思いつつ、でも、ちゃんとアニメ尺で出す90秒はポップさを意識しました。2番以降は重いけど。

■恋愛を知ると、人として違う人間になる

──3曲目「Ms.CONTROL」はアニメ『MUTEKING THE Dancing HERO』挿入歌。不可思議な世界が醸し出す、Reolさんならではのパワーあるオーラのようなものを感じられるナンバーですね。

Reol:電脳世界の歌姫オーロラというキャラクターがこの楽曲をリップシンクして踊るという設定が先にあったので、それって私とGigaがやってきた初音ミクだなって。なので書きやすかったですね。

──そして、4曲目はKOTONOHOUSEをアレンジャーに迎えたダウナーなポップチューン「白夜」。KOTONOHOUSEをアレンジャーに迎えたのは理由があったのですか? 

Reol:前作アルバム『金字塔』までって、私もそうなんですけどサウンドクリエイターのGigaも駆け抜けてくれていて。正直、尋常じゃないカロリーで作っていたんです。

そんな流れもあって一緒に作ってみたいなと思っていたケンモチヒデフミ(水曜日のカンパネラ)さんやMasayoshi Iimoriくんを呼んだりしていたんですけど、今後組んでみたいトラックメーカーとしてKOTONOHOUSEくんをチェックしてたんです。

大事なのは、いろんな人を呼びたいというよりは、自分の音楽とシンパするに近しい人を呼びたいと思って、完成形の想像が出来ました。

──なるほど。新録「ミュータント」は“変異”という、今の時代のキーワードでもあると思います。変わらないと生きていけないというのは昔からの定めであり。本作でReolさんが表現したいと思った“ミュータント”とは?

Reol:コロナ禍という状況になり、いろいろと考えあぐねて作った曲が「Q?」や「白夜」だったので、違う考えで作りたいなと思って。そんな時、ふと人が変異するのって恋愛なのでは? と思って。

恋愛を知ると、人として違う人間になるんですよね。ミクロな世界を見るというか。そこだけにピントが合っていく感じというか。それが、ある種の変異だなと思って作りました。

■国境を超えた、Geek Boyとのクリエイティブ

──サウンドクリエイターに迎えたGeek Boyは、どんな方なのですか?

Reol:私、2014年ぐらいからK-POPをチェックするようになってf(x)という女性グループをめちゃくちゃ聴いていたんです。そのクレジットを見返していたら、Geekが作っていたトラックがあって。最近のプロデュースを調べたらSF9の「Now or Ever」という曲のサウンドプロデュースもしていて。音が面白いなと思って、お声がけしたら受けてくださって。

──それって、ストリーミング時代に相応しい国を超えたクリエイティブですごく面白いですよね。接点が広がるなあ。

Reol:まさか、2014年の頃から考えるとEXOの曲を手がけているトラックメーカーが自分の曲を作ってくれるという発想が浮かばなかったけど、今まで自分たちが作ってきた曲を聴いたうえでやってくれたのでうれしいですね。

──それは自信を持てるよね。

Reol:ありがたいことです。しかもGeekの音作りが丁寧すぎてびっくりしました。デモがレベルを超えていて、完成されているんですよ。

──さらに、新録「Nd60」は軽快なビートで展開していくポップソング。タイトルはどんなところから?

Reol:ネオジム磁石という世界最強のなんでもくっついちゃ磁石があるんですけど、その存在を知って、なんか覚えていたんですよ。このトラックが軽快でK-POPっぽさがあったので、そんなアプローチなのに敢えて暗いテーマを歌いたいと思って。

人がくっ付いちゃう、惹かれてしまうものってなんだろうと思った時に、私はタナトス(※死を擬人化した神)だと思ったんですよ。

──ああ、なるほどねえ。

Reol:あきらめとか、そういうことについて歌っていて。でも、めちゃラフにあまり考えさせずにネガティブなことを歌うという。

──楽曲のテーマが、創作のトリガーになるのですね。

Reol:トリガーとなるきっかけって実は普通に生きていて出会うことだったりするんです。Wikipediaとかネットサーフィンが大好きだから、そんなうちに見つけていくというか。この文字列なんだろうとか。わからないことがあるとすぐに検索するんですよ。インターネット脳だから(笑)。

──面白いなあ。曲は、Geek Boyとのコライトになってますがどんなやり取りをされたのですか?

Reol:「Nd60」に関しては、最初に私がサビメロを作って。「こんな感じどう?」とかやっていたんですけど。最初はもっと言葉が詰まっていたんですけど、余白が欲しいなと思って、Geekに「サビを一緒にコライトしない?」って言って、この骨組みが生まれて。英語でメロが乗ってきたものを日本語に変えてこれに落ち着いた感じですね。

■自分でも制御できない感覚を表現したアートワーク

──「Boy」は、新しいテイストを感じられるサウンドテイスト。ポジティビティ触れる言葉が力強いナンバーに仕上がりました。

Reol:Geekとは3曲とも全然違ったアプローチで。「Boy」は、トロピカルっぽいんだけどダンサブルで四つ打ちな感じだったので、いちばんリードっぽくなるかなと思ってアルバムのラストになりました。

トラックの持つ、前へ前へ感がすごくて。シンガロングを入れたくなったりしたから。送られてきたものからは構成は、Dメロを加えたり結構やり取りをしましたね。

──この曲、メロディのセンスとか好きなんですよ。

Reol:トロピカルっていうと、まさにMajor Lazer & DJ Snakeの「Lean On (feat. MØ)」とかだと思うんだけど。

──うんうん。

Reol:あれを日本的なポップなメロディにトライしたらどうなるんだろうって。なので、日本のポップスを聴いて研究して、このメロディをアウトプットしました。

──こうやって7曲を聴いていると次に繋がっていく作品、それがミニアルバム『第六感』の本質だと思いました。

Reol:そんな感覚があって。歌詞の終わり方も「Boy」は、他の楽曲より続きを気にさせるようなものになっていますね。

──あと、氷をテーマにしたアートワークも素晴らしくって。

Reol:ありがとうございます。毎回ジャケ写を撮ってもらっている磯部さんに撮り下ろしていただいて。『事実上』と『金字塔』で赤、黄色と来ていたので青にしようと。

あとは『第六感』というテーマだったから、アートディレクターと話した時に、本来凍るはずでない食虫植物が凍ったり、ブックレットでは私の髪の毛が凍っていたり。自分でも制御できない感覚を“第六感”になぞらえて視覚的に表現しています。

『第六感』ジャケット(写真左から初回限定盤A/B、通常盤)

■あの頃を共に駆け抜けた同志として、積もり積もった話をできる今

──コロナ禍でReolさんが自分は成長できたな、自分と向き合う時間が増えた結果、新しい発見があったことなどありましたか?

Reol:こうやって他者と関わることに何らかの制限がつくと天邪鬼だから、逆に他者と関わりたくなるんですよ(苦笑)。今まで他者と関わらないようにしてきたクセに、こんな状況になってから人と関わりたくなるという(笑)。

なので、アーティストの人と話す機会が増えたかもしれません。Ayaseくんとか須田景凪くんとか、ちょっと前に知り合ってクリエイティブについて話をしましたね。

やっぱり、インターネットシーンを飛び出したばかりの頃は、自分がいちばんカッコ良いと思っているし、意外と関わり合いはなかったけど、数年経つと自分以外のことにも目を向けられるようになって「あいつ、頑張ってんな」ってお互い自然と話始めるみたいな(笑)。積もり積もった5年間ぐらいの話をしたり。

──良い意味で大人になったんだね。

Reol:ニコニコ動画の頃の話をしたりして。「わかるわかる! 観てた!」みたいな(笑)。同世代っぽい会話や、それこそフェスやテレビで楽屋が隣だったのをきっかけにLiSAさんや、UNISON SQUARE GARDENの田淵(智也)さんともお話ししました。

──なんか広がりを感じますね。それこそ続けていくことの大事さというか。

Reol:数年前では考えられなかったことが起きていると思いますね。人見知りなわけではないんですけど、以前は自分に自信がなかったんだと思います。確固たるReolが出来ていない時期は、優しく接してくれても「その優しさには裏があるんじゃないか?」と疑ってしまったり(苦笑)。

──ねじれてるなあ(笑)。でもわかりますね。表現者たるアイデンティティーの在り方ですね。

Reol:ようやくそれが自信を持って話せるようになってきました。

──成長だねえ。

Reol:そうですね。この作品を作ったことで、次の作品を作りたくなってきたんですよ。『金字塔』の時は、アルバムを作ってツアーをやってそのカタルシスを解消するはずのツアーがなくなっちゃったので、戸惑ってしまったのですが、今はとてもポジティブな気持ちになっているので。2022年こそは、コンスタントに攻めていきたいと思っています。


リリース情報

2021.12.15 ON SALE
MINI ALBUM『第六感』


プロフィール

Reol

レヲル/1993年11月9日生まれ。シンガーソングライター。自身のアーティスト活動全般をセルフプロデュースする、マルチクリエイター。2012年頃よりインターネットを通じ音楽制作始動。

Reol OFFICIAL SITE
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Reol OFFICIAL YouTube
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Reol OFFICIAL Twitter
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