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自分という存在は、自分の目にどのように映っているか。自分は、自分という存在をどれだけ肯定しているか。読み手にそんな疑問を投げかける『ドイツ人はなぜ「自己肯定感」が高いのか』という本が話題になっている。

 

著者はキューリング恵美子さん。ドイツ企業の日本支社で働いているときにドイツ人男性と出会って結婚しドイツに移住、以来20年以上が経過している。かつては他人の視線ばかり気にしながら生きていたが、ドイツに渡ってから自己肯定感の基準の決定的な違いに気づいた。自分基準の自己肯定感を手に入れたきっかけは、大病を克服したことだった。久しぶりに里帰りしたキューリング恵美子さんに、日本とドイツの文化の違いについて、お話をうかがう機会を得た(全2回の1回目)。

●キューリング恵美子(キューリングエミコ) /埼玉県出身。大学卒業後、大手靴メーカー、旅行会社を経て、ドイツ企業の日本本社に勤務。ドイツ人との結婚を機に、30代でミュンヘン近郊に移住。長男長女を出産し異文化の中で子育てに奮闘。ドイツ在住は20年を超える。また、バレエ留学生のコーディネイトやライフアドバイザーなど、起業家としての顔も持つ。50歳で大病に見舞われたのをきっかけに、ドイツ人の自己肯定感の高い生き方を見直すようになる

 

小学4年生で人生が決まるドイツの教育システム

——久しぶりの日本、いかがですか。

 

キューリング恵美子(以下キューリング) 最初は楽しかったのですが、そろそろ疲れてきました。電車が一番疲れます。あとはお店に行くと、とても丁寧なので…。

 

——ドイツで暮らし始めたばかりのころ、ノーメイクの女性の方が多かったことに驚いたとおっしゃっていますが、そのほかに、日常生活レベルで驚いたということはありますか?

 

キューリング スーツを着てネクタイを締めて通勤している男性がいないことですね。たとえば銀行員であっても、人と対面する職種の人はそれなりの格好をしていますが、スーツにネクタイは日本ほど多くありません。

 

公務員も全然ラフで、タトゥーやピアスもしています。ビザの手続きなどで外人局に行くと、Tシャツにジーンズ、タトゥーとピアスという人に当たることがあります。そういう人に対応してもらう方が楽ですよね。ビザの申請はとても緊張する場面なので、相手がそういう感じだと、手続きをゆっくり進められる気がします。

 

——本書にもあるように、小学4年生で将来の進路が決まってしまうドイツの教育システムは、日本とかなり違いますね。たとえば職業訓練コースに進んだ子どもが、中学校くらいで勉強を頑張るようになって大学進学コースに変更したくなったとしても、それは不可能なのでしょうか? また、親は子どもの進学ついてどの程度関わるのでしょうか?

 

キューリング 遠回りにはなるでしょうが、それは可能です。ドイツの職業訓練コースというのは、日本で言えば中学卒です。15歳くらいなら、もう自分の意思があります。一般的には、親がああしなさいこうしなさいということはありません。

 

もちろん個人差があるので100%そうであるということはできませんが、基本的にはすべて子どもに任せます。ただ、4年生で人生が決まってしまうのは早いと思っている人もいて、その時期をせめて6年生くらいまでに引き上げようという話も出ています。子どもたちは、自分ではどうしようもないので、やるしかないという気持ちになるようです。

 

——大学受験コースに入るための私塾のようなものはありますか?

 

キューリング 私がドイツに行った20年ほど前には、まったくありませんでした。息子が小学校4年生くらいの時から、プライベートの塾のような施設が少しずつできてきました。それに、スペイン語・ラテン語・英語といった教科別の塾はあります。ただ、実際に通っているのは数パーセント程度だと思います。

 

最近いいなと思ったのは、学校で高学年の生徒を募集して、上の学年の生徒が下の学年の家庭教師をするというシステムです。ドイツでは幼稚園くらいの年代から年下の子を助けるという習慣があって、それが大人になっても続くので、困っている人を見かけたら手を差し伸べるのがごく普通です。私も、子どもが小さかったころはしょっちゅう手伝ってもらっていました。男性でも女性でも、ドアを押さえて後ろの人を先に通すのもごく当たり前です。日本では、そうする人は少ないですね。

 

——ドイツのお母さんが、他の子どもと自分の子どもを比べることはありますか?

 

キューリング ドイツのごく普通の家庭のお母さんは、他人がどうこうということを基準にしません。自分の子であれ他人の子であれ、子ども自身の能力なので、比べても仕方ないからです。私が知っているお母さんたちは、子どもの学業成績が悪くても、あなたが好きなように生きなさいというスタンスで、文句を言うことはないですね。

 

自分と子どもは別の存在なので、子どもを自分のもののように考えることもありません。あなたはあなた、私は私という感じです。お互いが尊重し合っているということになるでしょう。あなたも私も個人。そういう位置づけです。日本ほど他人と自分を比べたり、他人を気にしたりする習慣がないというか、そういう風には生きていません。それに、小さいころから子どもの意見を尊重します。

 

ドイツ人には「合コン」が理解できない?

——働く独身女性の典型的な1日を教えてください。

 

キューリング 朝会社に行って、時間通りきっちり仕事を終えて退社し、ビーチバレーであったりコーラスであったり、友達と一緒に趣味に充てる時間を過ごします。

 

——合コンとか女子会とか、そういうニュアンスの集まりはありませんか?

 

キューリング ない…ですね。アルコールは飲みますが、そういう時は気の合う友達同士で集まります。合コンはありませんね。ドイツで流行らせましょうか(笑)。ドイツ人は、合コンの意味が分からないと思います。出会いに関しては、インターネットでのマッチングが流行っています。

 

——合コンの主旨と仕組みを説明したら、理解してもらえるでしょうか?

 

キューリング 「あー、そうなの」で終わりでしょう。「どうしてみんなで行くの?」と尋ねられるでしょうね。「個人的な関係を作ろうとするのに、みんなでするのはなぜ?」と、 説明されてもわからないと思います。ドイツ人は、お見合いも理解できないと言います。前提として結婚があって、ただ引き合わされる意味がわからないのです。マッチングアプリだったら様子を見ながらお付き合いして、最終的は結婚につながればいいよねという感じでしょうか。

 

——日本では忘年会、アメリカではオフィスでのクリスマスパーティーなどがありますが、ドイツでもこういう種類のイベントはありますか?

 

キューリング あります。ドイツに移住して主人が初めて務めた会社では、家族全員で参加してくださいという主旨で、大きな会場を貸し切ってバンドも呼んで、盛大なクリスマスパーティーがありました。最近も、従業員だけということなら、いろいろな企業で行われていると思います。クリスマスは特に大切なので、パーティーはします。

 

決算期にもパーティーが開かれることが多いですね。「今期の業績はよかった。乾杯!」という感じです。あとはオクトーバーフェストのときに会社がテーブルを貸し切ってお客さんを呼んだり、社員が行ったりして騒ぎました。頻繁ではないですが、年に何回かはこうした機会がありますね。

 

私は日本にいたときにドイツの会社で働いていて、そこで夫と出会いました。その時も会社のクリスマスパーティーがあって、プレゼントまで出してくれたり、女性には社長から花束が贈られたりしました。これはドイツ風です。働けっていうだけじゃなく、たまには緩くみんなで楽しもうということです。メリハリですね。

 

——ちなみに、ドイツに、ミスコン的なイベントはありますか?

 

キューリング ありますね。ただ、日本ほど盛り上がりませんし、それほど大がかりなものでもありません。最近では背が高くて痩せていることがトップモデルの条件ではなくなってきています。ちょっとぽっちゃりしている“カービーモデル”や、障害があるモデルさんもチャンスを貰えるようになってきています。

 

日本には美魔女コンテストというのがありますよね。日本では細くてキレイなまま年齢を重ねていかなきゃならないんだなと思います。ドイツにいると、ぽっちゃりでも太っていても自分に合っている服を着てさっそうと歩いている人がたくさんいます。そういうほうが生き易いと思います。

 

男性にとっては、キレイな女性がたくさんいたほうがいいかもしれないので、違う意見があるかもしれませんね。いつもキレイにしておしゃれに過ごしているのもいいかもしれないけれど、自分がそうするとしたら苦しくなってしまいます。私はドイツ女性特有の、のびのびと生きている姿がいいなと思います。

 

【後編につづく】

 

【書籍紹介】

ドイツ人はなぜ「自己肯定感」が高いのか

著者:キューリング恵美子
発行:小学館

「残業しない」「メイクはしない」「ビールを注ぎ合わない」「子どもの成績が悪くても責めない」-。ドイツ人にとっての“常識”は、「空気を読む」のが当たり前の日本人には違和感を覚えることも多い。しかし、「ありのままの自分」を重視し、国民の9割が「自分には長所がある」と答えるドイツ社会では、シンプルで無駄のない自分たちの生活への満足度が高く、人生を満喫している。“EUの優等生”ドイツを支える人々の最強メンタルの秘訣を明かす。

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