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【公式】アニメ「ポケットモンスター ダイヤモンド・パール」第1話「旅立ち!フタバタウンからマサゴタウンへ!」(アニポケセレクション)

ある日、子どもが通う学童のお迎えの帰りのこと。今まさに『ポケットモンスター ブリリアントダイアモンド』を毎日遊んでいる娘(9歳)に「アニメの『ダイパ』って覚えてる?」と聞いてみました。彼女は幼児の頃、当時ファミリーレストランのデニーズとコラボしていたポケモンに大変な興味を抱き、Amazon Prime Videoなどでアニメを観ていました。ゲームこそまだできなかったものの、それはもうすごいハマりようで、初代から始まって全てのポケモンのテレビアニメを網羅し、『XY』と『XY&Z』などは、あの長い長いシリーズを4週もするというアニポケエリートとしての幼少期を過ごしました。

とはいえ、言葉もたどたどしかった幼児時代の視聴、シリーズごとにちゃんと覚えているかは怪しいと思いましたが「覚えてるよ! ぽっちゃまがいつまでたっても進化しないの! あと、シンジが悪いヤツ!」と、娘の記憶は鮮明でした。いや待て、シンジが悪いやつ?

シンジはアニポケ『ダイパ』におけるサトシのライバルです。ポケモントレーナーとしての信念の違いからサトシと何度も衝突し、確かに幼い子どもには悪いヤツに映ったかもしれません。しかし、大人から見たシンジは、そんな単純な役周りのキャラクターではありません。『ダイパ』はアニポケの中でも屈指の名作と呼び声高い作品ですが、シンジはそこになくてはならない重要な存在です。

今ちょうど、ニンテンドースイッチ版の『ダイパ』を遊んでいる人も多いと思います。アニメの放送が開始されたのはなんと今から15年も前の1996年。当時は子どもだったという人もいるでしょう。今の時代は、Amazon Prime Videoや、公式のYouTubueなどでも一部観ることができます。せっかくなので、アニメ『ダイパ』の名シーンを振り返ってみたいと思います。

■第3話 「ライバルバトル!三対三!!」

シンオウ地方に旅立ったサトシは、ロケット団の手によってピカチュウと離ればなれになってしまいます。ピカチュウを探すサトシの前に現れたのが、シンジでした。シンジとサトシは共にムックルを捕まえていますが、サトシに対してシンジはこういいます。「お前そのムックルでいいのか」

実はこの時シンジは、ムックルを捕まえてはポケモン図鑑でスキャンして技を確認、気に入った技のムックルが手に入るまでゲットしてはリリースを繰り返していたのです。これ、シンジは技を確認と言っていますが、元になっているのは強いポケモンを育てる時にプレイヤーが個体値や性格などを見る“厳選”ですよね。

シンジがつばめがえしを覚えているムックルだけを手元に残して他を手放すと、サトシは「育て方次第でどんなポケモンだって強くなるんだ!」と言ってこれに激怒。「試してみるか? ポケモンバトルで」と挑発するシンジに3対3のバトルを挑みます。結局バトルは引き分けとなりますが、両者納得がいかない様子。トレーナーとして全く価値観の違う2人の因縁は、この後約190話、4年もの時間を費やしてじっくりと描かれていくことになります。

■第53話 「ヒコザルの涙」

しばらく時間が経ってヨスガシティにたどり着いたサトシたちが、タッグバトル大会に出る時のお話。物語の中でとても重要な、シンジのポケモン、ヒコザルの物語が50~53話の4話を使ってたっぷりと描かれます。

タッグバトル大会は、まずペア決めから始まりました。参加者の中からランダムでペアの相手が決まる方式で、サトシのタッグパートナーはなんとシンジです。1回戦に勝ったサトシとシンジですが、シンジは自分のヒコザルに無茶な戦わせ方ばかりを要求し、サトシはそれが気に入りません。試合が終わった後、夜になっても、多数のポケモンでヒコザル1体に攻撃を浴びせるような特訓を繰り返すシンジ。見かねたサトシがボロボロのヒコザルをポケモンセンターに運びます。

何故シンジはそんな無茶ばかりするのか。シンジはヒコザルと出会った時に、ザングースの群れに襲われ、絶体絶命のピンチに、強力な“もうか”を発揮する様子を目撃した話をします。その見たことのないもうかに心惹かれヒコザルをゲットするも、以来同じ能力は発動しません。そして、初めて会った時のもうかを再現するために極限まで追いつめていると言うのです。

翌日も、ボロボロのヒコザルを試合に出すシンジ。さらにはうまくいかないと見るや最後は「ここまでだな」と吐き捨てるように言って、試合中にもかかわらず指示を放棄。試合自体はサトシの機転で勝利するも、結局シンジは厳選をしていたムックルと同じようにヒコザルを手放します。シンジのあまりの仕打ち、うつむきながらトボトボとどこかへ歩き出すヒコザル。その様子を見たサトシは「俺たちと行こう、ヒコザル!」と言って自分の仲間に誘います。

タッグバトル大会は最後までギクシャクしながらもサトシとシンジのペアが優勝。シンジと別れたサトシはヒコザルを仲間に加えて旅を再開します。旅を始めると、ヒコザルは驚きます。みんな一緒の楽しい食事、バトルの特訓で失敗しても怒られず、そればかりかたくさんの応援に包まれ、良いところを褒めてもらえます。サトシに抱きかかえられると、思わず涙があふれだし、止まらなくなるヒコザルでした。

■73話 「さよならドクケイル!」

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【公式】アニメ「ポケットモンスター ダイヤモンド・パール」第73話「さよならドクケイル!」(アニポケセレクション)

サトシとシンジの物語とは離れますが、どうしても紹介しておきたいのが、この『さよならドクケイル』。これは初代アニポケの21話で、サトシとバタフリーの別れを描いた名作「バイバイバタフリー」のセルフオマージュとなっていて、ロケット団のムサシとそのポケモン、ドクケイルがお別れする話です。

恋人を見つけたドクケイルに対して、自分の少女時代の失恋を重ねて、恋に生きろと促すムサシ。しかしドクケイルはムサシとの別れを惜しみ、決断できずにいます。ドクケイルはケムッソの時にゲットして、マユルド、ドクケイルと進化させて長く旅した大事な仲間。一緒にコンテストバトルにも出ています。ムサシだって別れは辛いのです。

しかし、ムサシはドクケイルが入っていたモンスターボールを取り出すと、なんと粉々に壊してしまいます。「もう、お前の帰るモンスターボールはないのよ!」と言い放つムサシ。泣きながら「分かった!? 分かったらさっさと行きなさい!」と叫びます。ドクケイルを想うムサシの気持ちが伝わる、とても切ない、名シーンです。

■128話 「バトルピラミッド!シンジVSジンダイ」

シンジがバトルピラミッドという施設に挑戦する話です。バトルピラミッドは、ゲームでは『ポケットモンスターエメラルド』に登場するクリア後のやりこみ要素、バトルフロンティアの施設の1つです。アニメではフロンティアブレーンのジンダイに挑戦することができ、サトシは前シリーズとなる『アドバンスジェネレーション』で3回挑戦し、やっとクリアしていました。

シンジは実は兄がバトルピラミッドに挑戦して惨敗する姿を見て、自分が攻略することを目標にしていました。しかしシンジの挑戦も惨敗に終わります。あろうことか、ジンダイのポケモンを1匹たりとも倒すことができませんでした。いつも強さにこだわり、弱さを軽蔑するシンジの決定的な敗北。

「過去と兄にこだわり、ではお前は何の為にポケモン共に歩む、何のために戦う」「少年よ、果たして今のバトル、本来のお前のバトルか」ジンダイに問われたシンジは無言でしたが、何かを感じ取ったようでした。

その10日後、サトシとシンジは再び対決することとなりますが、それまで徹底的にサトシを否定していたシンジの様子はそこにはありませんでした。そう、シンジも変わり始めていたのです。この、ライバルシンジの心の成長により、物語はぐっと深みを増していきます。

■決着ライバルバトル!サトシ対シンジ

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【公式】アニメ「ポケットモンスター ダイヤモンド・パール」第188話「決着ライバルバトル!サトシ対シンジ!!」(アニポケセレクション)

さあ、最後は第186~188話、シンオウリーグ準々決勝でぶつかるサトシとシンジのバトルです。このバトルこそ、アニポケ史上でも最高の名勝負の1つと数えられ、ダイパを名作たらしめている1戦です。それは、様々な思いが交錯する、アニポケ『ダイパ』4年間が凝縮されたバトルでした。

その中でもやはり心に刺さるのは、シンジがはじめからずっと育てていたエレキッドと、シンジが捨て、サトシが仲間に迎えたヒコザル、その進化した姿であるエレキブル対ゴウカザルによる最後の勝負です。エレキブルはエレキッドの頃、シンジがヒコザルに課していた過酷な特訓で、何度も攻撃を浴びせていたポケモンでもあり、因縁を感じざるを得ません。

激しいくぶつかりあう2匹ですが、それまでのバトルで多くダメージを受けているゴウカザルがやや不利な状況。ついにはエレキブルのカミナリでゴウカザルは倒れてしまいます。審判が戦闘不能を宣言しようとしたその時、エレキブルが制止するように鳴き、かかってこいと言わんばかりに挑発します。そしてシンジが「こんなものだったのか、お前の力は。何度も俺を失望させるな」と言い放つと、ゴウカザルの目に光が宿り、同時に巨大な炎の柱が天を突きます。そう、シンジが初めてヒコザルと出会った時の特別なもうか、いや、それ以上のすさまじい炎です。両者渾身のかみなりパンチとフレアドイライブが炸裂し、最後まで立っていたのはゴウカザルでした。

エレキブルの挑発と、シンジの辛辣な言葉は、まるでヒコザルを捨てた時に戻ったかのようでしたが、表面上の言葉と、その中身は全く違いました。シンジはヒコザルを認め、その全ての力を発揮させる為にわざと昔のように振る舞い、そしてゴウカザルのもうかが発動すると、エレキブルで真っ向から挑みました。バトル終了直後、シンジがゴウカザルに「強くなったな」と言いかけるシーンがあります。シンジに捨てられたヒコザルは、サトシとともに本当に強くなり、そしてヒコザルを捨てたシンジはヒコザルを認められる強さを手に入れていました。

サトシとシンジの別れは、サトシが激怒し、シンジが認めなかった最初の頃とは全く違う、お互いを高めあうライバルとして再バトルを約束しての別れとなりました。

この記事を書くにあたり、アニポケ『ダイパ』を改めて色々と観直してみました。流石に15年前にスタートしたアニメですから、映像的表現に古臭さは否めません。しかし、それでも物語は色あせません。実はここには紹介しきれないぐらい、いいエピソードがいっぱいあって絞り込むのに困ったほどです。年月を経ても、依然として輝きは衰えぬアニポケ『ダイパ』。今「シンジは悪いヤツ」と思っている9歳の娘が、もう少し大人になったらもう一度観て欲しい、そんな風に思えるアニメでした。