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Innovative Tech:

このコーナーでは、テクノロジーの最新研究を紹介するWebメディア「Seamless」を主宰する山下裕毅氏が執筆。新規性の高い科学論文を山下氏がピックアップし、解説する。

 奈良女子大学と甲南大学の研究チームが開発した「A sharing system for the annoyance of menstrual symptoms using electrical muscle stimulation and thermal stimulations」は、月経症状を体験できるVRシステムだ。電気刺激による月経痛と、温度刺激による血の漏れ感覚を再現する方法で月経症状を再現する。

システムの概要

 月経に伴う身体的な不快感や、月経症状によって行動が制限されることによる精神的な煩わしさを、男性に理解してもらうのは難しい。女性同士でも、月経の症状や程度は多様であるため、辛さを理解し合うことは困難である。そこでこの研究では、電気的筋肉刺激(EMS)による月経痛と、温度制御ができるペルチェ素子による月経時の経血の漏れ感覚をシミュレートするシステムを提案する。

 EMSを使った月経痛システムは、2枚の電極パッドをユーザーの腹直筋下部に装着して使用する。各電極パッドの最大電流は23mA。刺激周波数は皮膚インピーダンスを安定させるために150Hzに設定し、最大電圧を一定時間持続するような波形とした。

 出血感システムでは、水より粘度が高い血液が皮膚上を移動する感覚を再現するために、ペルチェ素子を使って温かい液体が太ももの上をゆっくりと移動する感覚を再現した。ユーザーは、3つのペルチェ素子を服の上からゴムバンドで両内股に装着。それぞれのペルチェ素子が内股の上部から下部に向かって温められると、血液が足を伝ってじんわりと漏れるような感覚を錯覚的に体験できる。

血液が太ももの上をゆっくり下に移動する感覚を再現

 月経時の出血は、例えば座りっぱなしから立ちっぱなしへの姿勢変化によって血液が漏れるように、意図せず生じる突発性が特徴の1つ。このような日常生活に支障を来すような不快感を再現するために、体験中にユーザーが立ったり座ったりする椅子にひずみゲージを設けて、ユーザーの姿勢の変化に応じてペルチェ素子が作動するようにした。

 体験デモでは、 駅で電車を待つシーン、電車内の椅子を座ったり立ったりするシーン、満員電車で人に挟まれるシーンの3つのシチュエーションを用意。ひずみゲージにより検出する座ったり立ったりの姿勢の変化をトリガーに出血を再現し、その際はEMSは停止し出血の感覚に集中してもらう。

 立った状態が続くと、再びEMSによる月経痛が始まる。満員電車では、両側から人に挟まれ行動が制限されている中で、月経症状の多様な不快感やそれを言葉にすることの難しさが直感的に感じられる。痛みを伴う体験であるが、エンターテインメント性をもたせることで体験の敷居を低くした。体験を通して月経症状を考えるきっかけとなることを期待している。

デモ体験で用意した3つのシチュエーション

Source and Image Credits: Chihiro Asada, Kotori Tsutsumi, Yuichi Tamura, Naoya Hara, Wataru Omori, Yuta Otsuka, and Katsunari Sato. 2021. A sharing system for the annoyance of menstrual symptoms using electrical muscle stimulation and thermal stimulations. In Proceedings of the 27th ACM Symposium on Virtual Reality Software and Technology (VRST ’21). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, Article 50, 1-2. DOI:https://ift.tt/3En2PlU

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