Suchmosのギタリスト、TAIKINGが1st EP『RAFT』をリリースした。
2019年に地元・横浜スタジアムでワンマンライブを開催するなど、大きな成功を手にしたSuchmos(現在は活動休止中)。ギタリストとして強烈な存在感を発揮してきたTAIKINGは、藤井風、RADWIMPS、オカモトコウキ(OKAMOTO’S)のサポートギターをつとめると同時に、2021年夏からソロ活動をスタートさせた。
本作『RAFT』には、作詞・作曲、ボーカル、ギターはもちろん、ドラム、ベース、鍵盤まで自ら演奏し、構築した4曲を収録。軽快なギタープレイ、等身大の歌を軸にした、心地よく、リラックスした音楽世界が楽しめる作品に仕上がっている。
『RAFT』の制作プロセスを中心に、ギタリストとしてのルーツ、ソングライティングのこだわり、ソロアーティストとしての未来などについて、TAIKING自身に語ってもらった。
INTERVIEW & TEXT BY 森朋之
PHOTO BY 大橋祐希
■“今のところ”ですけど、ギターソロを入れるのもルール
──1st EP『RAFT』、素晴らしいです。気持ちよく聴ける作品だし、リピートするたびに深みが増すような手触りもあって。
うれしいです!ありがとうございます。
──やっぱりギターのことから聞きたくて。影響を受けたギタリストっていますか?
よく聞かれるんですけど、“この人”というのはいないんですよね。ブルース系だとジョン・メイヤーが好きで、マルーン5のジェイムズ・ヴァレンタインの弾きすぎないスタイルもいいなと思ったり。両極端のタイプだけど、そのふたりはずっとしっくり来てますね。最近よく思うのは、3大ギタリスト(ジョン・フルシアンテ、ジョン・メイヤー、デレク・トラックス)もそうですけど、ペンタトニックの使い方が大事なのかなと。
──ペンタトニックスケール、つまりギター演奏における音階のことですね。
はい。Suchmosは“ペンタ一発”ではなくて、ジャズを噛ませていたり、音楽的なギミックがいろいろあって。でも、やっぱりすごいギタリストって、ペンタトニックの応用がうまいんですよね。デレク・トラックスはスライドの名手ですけど、やっぱりペンタの使い方がめちゃくちゃすごいので。あと、歌っぽいメロディのギターソロも大好きなんですよ。ブライアン・メイもそうですよね。ライブで聴くと“あのギターソロをあの音で弾いてる!”みたいな楽しさもあるし。
──たしかに。TAIKINGさん自身は、どんなタイプのギタリストだと思います?
なんだろう?(笑)ソロ活動でいえば、歌とギターの“ニコイチ”(ふたつでひとつ)でいきたいとは思ってますけどね。あとはやりながら自分に合うものを見つけていけたらいいのかなと。曲作りに関しては、リフっぽいフレーズに歌メロを乗せることが多いかな。“今のところ”ですけど、ギターソロを入れるのもルールにしていて。やっぱりギタリストらしいところは出していきたいので。
──『RAFT』に収録されている曲のギターソロ、すごく気持ちいいです。自然にフレーズが溢れてくるというか。
ありがとうございます。フリーに弾いてるように聴こえると思いますけど、実は結構決めこんでいるんですよ。
──え、ホントですか?
はい(笑)。アドリブで弾くこともできるんですけど、しっかり曲に溶け込むフレーズにしたくて。最初は自由に弾くんですけど、“今のところ、良かったね”というラインを軸にして、他の部分を組み立てて。ソロはいつも4〜5時間くらいかけてますね。
■“このギタリストに、影響を受けてるのかな”というところも
──しっかり構築するタイプなんですね。
OKAMOTO’SのオカモトコウキくんやGLIM SPANKYの亀本寛貴くんと「ソロ、どうしてる?」という話をすることもあるんですけど、ふたりともレコーディングまで決めてないらしいんですよ。“え、フレーズを決めてるのって俺だけ?”って(笑)。
──ギタリストによって考え方が違うんですね。面白い。
そうですよね(笑)。オマージュというか、“このギタリストに、影響を受けてるのかな”というところも見せたくて。『RAFT』の曲でいうと、「Humming Birds」のソロにラリー・カールトンっぽいフレーズを入れてるんです。わかる人が聴けば“これ、カールトンがよくやるヤツだ”って思うだろうし、そういうところも楽しんでほしいなと。
■歌は…難しいですね(笑)。
──なるほど。ギターは自在に表現できると思いますが、歌はどうですか?
歌は…難しいですね(笑)。自分で歌うようになってから、“YONCE(Suchmos)ってすごいな”って改めて思いましたね。ボーカリストって、すごいんですよ。歌える人と歌えない人がいるというか。
──歌の上手さだけじゃないですからね、ボーカリストの魅力は。
そうなんですよ。もちろん技術も関係あるんだけど、説得力が必要というか。もともと編曲家、アレンジャーとして仕事をしてきたので、“ここをダブル(歌を重ねるレコーディング技術)にするといい感じで聴こえる”みたいなことはわかる。『RAFT』でもかなりコーラスを重ねて、レイヤーを作っていて。気持ちよく聴いてもらいたいですからね、やっぱり。
──声質によって、似合う曲とそうじゃない曲もあるのでは?
それはありますね。僕の場合はソプラノっぽい雰囲気というか、ちょっと高いんですよね。「“カッコいい”より“かわいい”に属する声」って言われるんですけど、それがコンプレックスでもあって。『RAFT』は4曲ともメジャー・キーで明るめなので、この声でちゃんと成り立つんですけど、マイナー・ペンタのハードロック的な曲はうまく歌えないんです。ギタリストとしてはそういう曲も好きだから、やりたいんですけどね。
──TAIKINGさんの歌声、ギタープレイを活かすことで、それが自然とソロアーティストの色になっていくんでしょうね。
たぶんそうだと思います。苦手なことを克服することも大事だけど、それよりも自分の良さをどれだけ見せられるか?を考えたほうがいいのかなって。音楽の場合、特にそれが大事なんだと思います。突き抜けたところがあるほうがいいじゃないですか。新しいことにトライする姿勢も必要だし、そのあたりはうまくバランスを取っていきたいです。
──TAIKINGさんはRADWIMPS、藤井風さんなどのライブにも参加。そのなかで得るものも多いのでは?
あります。藤井風くんの音楽はSuchmosとも親和性があるというか、もともと近い感じがあって。ライブで演奏していても“合う!”っていう感覚なんですよ。RADWIMPSはまったく角度が違っていて、タッピングもそうだけど、今までやったことがないプレイもやってて。曲を聴いたときに“え、このフレーズどうなってんの?”という発見もあるし、すごく面白いです。“これはソロの曲に使えそう”とか。いい経験をさせてもらってます。
──では、収録曲について聞かせてください。まずは「SPOT LIGHT」。“Let’s sing in my heart”というフレーズがスッと馴染むし、心地いい開放感がある曲だなと。
基本的にはメロディを先に作るんですけど、サビは一緒に出てくることが多くて。「SPOT LIGHT」の場合は、“〜in my heart”というところが先に浮かんできて、それに合うフレーズを考えたんですよね。一緒に歌える曲にしたいけど、今はコロナでそれができないから、“心のなかで歌おう”という歌詞にして、そこから肉付けしていって。
■そういう時代だってこともメッセージとして残したかった
──「ソーシャルディスタンス」という言葉もあるし、今の状況をかなり反映している曲なんですね。
ちょっと迷ったんですけどね、そこは。たとえば“ポケベルが鳴らなくて悲しい”という曲だと、大人は“懐かしい”って思うだろうけど、今の若い子たちは「ポケベルって何?」って思うじゃないですか(笑)。
──“七回目のベルで/受話器を取った君”(「Automatic」/宇多田ヒカル)もそうですよね。その時代を映し出すのも、ポップスの役割だとは思いますが。
そうですよね。「ソーシャルディスタンス」もこの時代を表わしているし、何年か経った頃に「何のことかわからない」と思われるかもしれないけど、それはそれでいいのかなと。コロナ禍はショッキングな出来事だったじゃないですか。世界中そうだけど、音楽業界はめちゃくちゃダメージを受けて、ミュージシャンの友達の中には、音楽で食えないから就職した人もいるんですよ。たまたまこの時期に音楽をやってたから、夢を諦めなくちゃいけない友達がいる──そういう時代だってこともメッセージとして残したかったんですよね。
──「Humming Birds」はかなりシリアスな心象風景が描けています。すごくリアルな歌ですよね。
これは去年、コロナが始まった頃に書いた曲で。自分が処理できなかっただけなんですけど、いろいろと情報が混雑しすぎて、“全部つまらない、くだらない”みたいな気持ちになったことがあって。そういう話を友達にしたら、“俺もそうだよ”って意外と共感してくれたんですよ。ひとりで抱えてたんだけど、“話してみたらみんなもそうだった”というオチが自分の中で面白くて(笑)、これを歌詞にしようと思って。同じような気持ちをシェアできる人たちと新しいことをはじめて、気楽にやれたらいいねという感じですね。
■パーソナルなことしか書けないんです
──時代のムードとTAIKINGさん自身の感情が重なっているというか。
うん、そこをクロスさせることで、自分らしい表現が見つけられたらいいなとは思ってました。あとね、俺、あんまり言葉の表現を知らないんですよ。
──そうなんですね (笑)。
なのでパーソナルなことしか書けないんですよ。ウソが書けないというのかな。意識しているわけではなくて、自分のことをそのまま歌詞にするしかないんです。
──「Easy」で描かれている情景も、TAKINGさんの地元ですよね。
そう、湘南や江の島付近のことなので。“島の入り口 屋台横目に/展望台が二人”もまさにそうだし。“地元のカレー屋”は、江の島の有名な「珊瑚礁」のことなんですよ。店までの道がよく混むんですけど、山のほうから裏道でいこうよ、みたいな(笑)。
──「Easy」を聴くと、江の島に行きたくなりますね…。4曲目の「Present」はアコースティックな手触りの楽曲。
ボサノヴァじゃないですけど、ゆったりした曲を作りたいと思って。歌詞のテーマはクリスマスプレゼントですね。3歳になる子供がいるんですけど、親にプレゼントをもらっていた時期のことを思い出しながら、“これからはあげる側になるんだな”ということを歌詞にしたくて。子どもはサンタを信じていて、“早く25日にならないかな”ってすごく楽しみにしてるんですよ。そういう姿を見るのも楽しいし、実は大人ほうがプレゼントをもらってるんだろうなと。
──ギターと歌だけではなく、ドラム、ベース、鍵盤も自分で演奏。TAIKINGさんの個性がしっかり出ているサウンドも聴きどころだと思います。
そう言ってもらえるとうれしいですね。さっきも言いましたけど、編曲家としてのバックグラウンドがあるし、演奏にも自分らしさは出ちゃってるので(笑)。「Present」は打ち込みなんですけど、それ以外の曲はドラムも叩いてて。ベース、ピアノもちょっと弾けるので、自分でやってみようと。
■自分のアイデアだけで一から構築することに向き合う
──ひとりで完結させようと思ったのは、どうしてなんですか?
バンドでやってきたことの反動かもしれないですね。Suchmosは主にセッションで曲を作ってきたので、ソロでは自分のアイデアだけで一から構築することに向き合ってみたくて。シングルを何曲かリリースして、EPも出して、今は“他の人ともやってみたい”という時期に入ってきてるんですよ。自分でできることはやって、“あの人のエッセンスがほしい”と思ったら、誘わせてもらって。それぞれに良さがあるし、楽しみ方の違いだけなんですけどね、そこは。そういう状況でやらせてくれる事務所、レーベルのスタッフにも感謝ですね。
──当然ですけど、ソロ活動の場合はTAIKINGさんの意向がいちばん大事ですからね。
ありがたいです。あと、ソロプロジェクトではお客さんともっと近い距離でコミュニケーションを取りたいと思っていて。Youtubeチャンネルを開設したのも、そういうことなんですよね。ドライブしてたり、結構素の部分も見せてるし、コメント欄を見るのも面白いです(笑)。
──そういうフレンドリーなところは、TAIKINGさんのもともとの性格?
そうでしょうね(笑)。取り繕ったり、カッコつけるのもらしくないので、そのまま見てもらったほうがラクなんですよ。
──なるほど(笑)。『RAFT』は“いかだ”という意味ですが、どうしてこの言葉をタイトルにしたんですか?
いろんな取り方ができるように、抽象的な言葉がいいかなと思って。聴き馴染みはいいはずだし、ポップで落ち着いた感じもあって…と考えてるときに、船のイメージが出てきて。だったら“いかだ”かなと。1st EPですからね。
■友達のミュージシャンを呼んで、楽しくやりたいです
──まだ始まったばかりというニュアンスもあるのかも。次はやはりライブですか?
来年はいっぱいやりたいですね。Suchmosもアリーナやスタジアムでやるようになって、サポートしてるRADWIMPS、藤井風くんも大きい会場だったので、ライブハウスでぜんぜんやってないんですよ。それこそ友達のミュージシャンを呼んで、楽しくやりたいです。今はまだ無理ですけど、お客さんとビールで乾杯とかしたいですね(笑)。
──ソロ活動が本格的に始まったことで、ミュージシャンとしての幅がさらに広がりそうですね。
いろいろやりたいと思ってます。ソロもそうだし、サポートも続けたいし、プロデュースの仕事もやってみたくて。自分の可能性がどこまであるのか試してみたいんですよね。
プロフィール
TAIKING
タイキング/2021年に活動休止を発表した6人組ロックバンドSuchmosのギタリスト。ソロとしては藤井風やオカモトコウキ(OKAMOTO’S)のライブ サポートアクトを務める。本プロジェクトにおいてはGuのみならずVo,Ba,Dr,Key,などすべてをこなし、そのマルチな才能を発揮。また、様々な分野で世界レベルで活躍する仲間たちと、地元横浜の活性化を掲げるチーム「CONNECTION」を結成し、様々な企画展開や清掃活動などの地域貢献活動も行う。
リリース情報
2021.12.15 ON SALE
DIGTAL EP『RAFT』
ライブ情報
TAIKING 1st Live「Feel So Easy」
2022年2月26日(土)渋谷 CLUB QUATTRO
OPEN / START:17:00 / 18:00
チケット:¥4,800-(ドリンク代別)
<オフィシャル一次先行(抽選)受付中>
2021年12月15日(水)正午12:00~12月26日(日)23:59迄
https://eplus.jp/sf/detail/3549250001?P6=001&P1=0402&P59=1
チケット一般発売日:2022年1月22日(土)予定