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なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか』(藤井 聡・著/ポプラ社・刊)。この本を手に取ったとき、なんて衝撃的で、かつ魅惑的なタイトルだろうと思いました。誰もがお金持ちになりたいと願っているものでしょう。けれども、その願いを果たすのは簡単なことではありません。まして、このコロナ禍。お金持ちどころか、果たして明日も働いていられるのかという不安を抱えている人の方が多いと思います。

 

知り合いの若者は、私のことを「三浦さんには、明るい未来を信じて生きてきたヒト特有の呑気さがある」と、なかばあきれられ、そして、うらやましいとため息をつかれます。確かに、昭和31年生まれの私は、子どものころから、昨日よりも今日、そして、今日よりも明日が良い日になると信じて暮らしてきました。日本経済は右肩上がりの成長を続けており、実際、生活は楽になっていると感じていました。ただし、バブルがはじけるまでの話ですが。

二人の著者について

『なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか』が出版されたのは、2021年11月15日。岸田内閣が誕生してすぐのころです。著者は藤井 聡。京都大学大学院工学研究科の教授であり、2012年〜2018年まで、安倍内閣の内閣官房参与をつとめていました。都市工学の専門家で、防災に詳しいのはもちろんのこと、経済問題にも警鐘を鳴らしてきた論客です。『こうすれば絶対よくなる!日本経済』や『令和日本・再生計画』などの著書も多く、日本のこれからに鋭い意見を遠慮なくぶつけてきました。

 

『なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか』には、もう一人著者がいます。フリーライターの木村博美です。彼女は自ら「何でも書きます」と宣言し、幅広い分野で活躍してきました。何でもと言っても、「興味のあるもの」に視点を定め、聞き書きという手法を駆使して、専門家の知識を吸収しながら、読者を理解に導いていきます。読者と同じレベルに自分を置き、難しい問題をわかりやすく解説してくれるのです。この本では、彼女がここ数年感じていた息苦しさの理由を日本経済のゆがみにあると気づき、専門家である藤井 聡を質問攻めにします。

 

二人の交わす丁々発止なやりとりを面白く読みながら、私も日本経済について考えるようになりました。このコロナ禍、景気が悪くなるのは仕方がないと思っていたのですが、このままでは取り返しのつかないことになってしまうとわかったからです。今までは、経済の問題は難しくて対処不能。私にできることは、せめてお金をなるべく使わないようにしながら暮らすことだと考えてきましたが、それではいつになっても問題は解決しないのだということも知りました。

 

岸田ビジョンは達成できるのか

岸田文雄総理は、総選挙の際に「岸田ビジョン」を掲げました。とりわけ経済に注意を払い、「所得倍増」計画を実行すると約束しました。適切な措置を行えば、私たちの所得はなんと2倍になるというのです。かつて、池田内閣のもと「所得倍増計画」が敢行されたことがあります。と言っても、若い方たちはピンとこないでしょう。何しろ60年も前のことですから。けれども、『なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか』には、当時のことがわかりやすく説明されています。

 

かつて行われた「所得倍増計画」とは、昭和35年(1960年)に池田勇人内閣が掲げた長期経済政策です。池田首相は10年間で国民所得を2倍にすると宣言し、さまざまな経済対策を行いました。そしてその結果、当初の目標である「10年」より遥かに早くたった「7年」で日本の国民一人当たりの実質国民所得は2倍の水準に達したのでした。

(『なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか』より抜粋)

 

所得が2倍に。考えただけでうれしくなります。けれども、それを果たしたのは昔の話で、令和の時代にそんなことが実現可能なのでしょうか。ハイパーインフレが起き、たとえ所得は2倍になっても、生活はさらに苦しくなるのではと、不安になってしまいます。それなら、現状維持の方がマシなのではないかとも思います。何ごとにも消極的で、現状維持が大好きな私は、新しい試みに弱いのです。けれども、そんなことを言っていては、現状維持すら難しくなることをこの本で学びました。

 

「えっ」と「げっ」をキーワードに

政治のことはよくわからず、経済に至っては無知に近い私です。これではいけないと思いつつも、「ま、プロにまかせておくに限る、なんとかしてくれるだろう」と、日々を過ごしてきましたが、やはり丸投げはいけません。何とか食べていかなくてはなりませんし、できれば、孫の代まで、そこそこ豊かな生活ができるような仕組みを作っておかなくてはと、願ってもいます。日本はそれができる国だったはずです。

 

これまでは、不況がなぜ長引くのかわからないまま、トンネルを抜け出すには我慢するしかない、きっといつか明るい未来が待っているのだから、今は堪え忍ぶのが大事だと信じてきました。けれども、その根拠は? と、問われると、特にないことに気づきます。このままではいけないと、私は気合いをいれて『なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか』をくり返し読みました。経済に無知なので手こずるに違いないと覚悟していたのですが、そうでもありませんでした。聞き手役に徹する木村博美が、わからない部分を質問してくれるからです。

 

木村が「えっ」とか「げっ」という言葉で反応している部分は、私にとっても「えっ」とか「げっ」であることにも気づきました。驚いたり、のけぞったりする部分が、一致しているのです。

 

たとえば、40ページの「えっ」について。ここで藤井先生は、「日本政府が国債を発行して資金を調達していますが、そのことによって、経済が破綻することはありません。なぜなら、国債が円建てであるかぎり、日本政府はいつもそれを用立てることができるからです」と、教えます。これに対する木村の反応は「えっ」です。

 

そして、どうしてそんな離れ業ができるのかと問います。木村だけではありません。私も「えっ」と、なりました。日本政府が借金を踏み倒すことになっては大変だと思っていたからです。けれども、お札を製造するのは他でもない日本銀行であり、それは政府の子会社だから、大丈夫だというではありませんか。

 

簡単にいえば、要するに「政府は、おカネをつくり出すことができる」ということなんです。

(『なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか』より抜粋)

 

「えっ」だけではありません。「げっ」や「ひぇ〜っ」もあります。こうした言葉が発せられている場所を探して、読み直すと、さらに理解が深まります。

 

私にとって、一番の「ひぇ〜っ」は、190ページでした。そこには世界各国の成長率ランキング表が示されています。それによると、日本は成長率ランキングのどん尻にいるというではありませんか。この結果について、先生はこう教えます。

 

日本は98年からデフレ・スパイラルに突入してしまい、そこから抜け出せなくなってしまった。(中略)日本だけが成長できなくなり、世界経済における国力としての経済力が激しく縮小していくと同時に、国民所得は縮小し、さらには、政府の財政も悪化し続けるという悪夢のような状況に立ち至ってしまったのです。

(『なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか』より抜粋)

 

こんな大変なことになっていたなんてと背筋が寒くなります。と、同時に、「ま、いいや」と思っていた自分を恥じてもいます。信じがたい事態が起きていると感じていながら、目をそむけて「誰かが何とかしてくれる」と信じていたのですから、我ながらおめでたいと思います。

 

これからは、経済について書いた本を毛嫌いすることなく読み、自分の頭で消化して、考える努力をしなくてはと思います。私たち日本人が、大金持ちではなくても、まあまあだなと思える毎日を得るために、しゃんとしなくてはと、決心したところです。

 

【書籍紹介】

 

なぜ、日本人の9割は金持ちになれないのか

著者:藤井聡
発行:ポプラ社

元内閣官房参与が説く、日本を貧困化するシステムと景気V字回復への提言。日本人を貧しくした「経済の嘘」に騙されるな。富裕層だけが知っている裏のからくりとは? コロナ禍を超えて、日本人を金持ちにする秘策を明かす! 岸田内閣の「所得倍増」はこうすれば実現する!なぜ、日本だけが取り残されたのか? 国民が金持ちにならないように政府がついてきたウソをここに暴く!

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