バナナは世界中で最も消費されている果物ですが、現在危機的な状況にあります。
オーストラリア・クイーンズランド大学(UQ)の園芸科学センターに所属するジェーン・レイ氏ら研究チームが、治療法の見つかっていない「バナナを殺す病」が東南アジアで拡大していると報告しました。
既に、主流のキャベンディッシュ種を含む18種類のバナナが影響を受けており、早急な対処が必要になっています。
研究の詳細は、11月9日付の学術誌『Plant Disease』に掲載されました。
目次
- 「バナナを殺す病」が広がる
- 東南アジアで拡大し続けるバナナの病で、「安くて美味しいバナナ」の危機
「バナナを殺す病」が広がる
現在、バナナを殺す病「Banana Blood disease」が東南アジア全域に拡大しています。
直訳すると、“バナナ血液病”になりますが、この名称には理由があります。
(以後Banana Blood diseaseをバナナ血液病と記載します)
バナナ血液病に感染したバナナは腐敗し、血を流しているような見た目になるのです。
果実が腐敗し、葉はしおれ、最終的には死んでしまいます。
しかも現在、バナナ血液病の治療法は確立されていません。
ではこの病はつい最近、見つかったものなのでしょうか?
実はそうではありません。バナナ血液病が最初に報告されたのは1905年のことです。
インドネシアのカユアディ島で見つかったバナナ血液病は、島のバナナ農園に深刻な影響を与え、オーナーは農園を放棄せざるを得なくなりました。
人々が早急にバナナの流通を制限したため、病をこの狭い島に60年間閉じ込めることに成功。
しかし、バナナ血液病の拡大は結局止められなかったようです。
東南アジアで拡大し続けるバナナの病で、「安くて美味しいバナナ」の危機
バナナ血液病が再び見つかったのは1987年のこと。
インドネシアの西ジャワ州で発見されたバナナ血液病は、インドネシア全土で急速に拡大しました。
現在では、インドネシアの34の州のうち25の州で記録されるまでになっています。
バナナ血液病が壊滅的な損害を与えるため、多くの農家が生産中止に追い込まれました。
最近ではマレーシアにも上陸しており、今後はアジア諸国への拡大が予想されます。
そして病が拡大する中、レイ氏ら研究チームはインドネシアの島々で大規模な調査を行い、過去のデータと比較研究しました。
その結果、世界で最も人気のあるキャベンディッシュ種をはじめとするバショウ属の18品種でバナナ血液病の感染が確認されたのです。
さらに、これまではバナナ血液病に感染しないとされていた品種でも、新たな感染が確認されました。
バナナ血液病は変異しつつ、どんどん拡大しているのです。
現在、世界のバナナ生産量の半数を占めるのはキャベンディッシュです。
スーパーに並ぶバナナのほぼすべてがキャベンディッシュであり、世界のバナナ流通インフラはキャベンディッシュ専用に形づくられています。
もし、このままバナナ血液病を放置するなら、いずれはキャンベディッシュの生産が止まるかもしれません。
世界中でバナナが高騰し、店頭から姿が消えることさえあるでしょう。
レイ氏は、この問題に対して次のように述べました。
「バナナ血液病の急速な拡大は、東南アジアのバナナ生産に対する新たな脅威となっています。
効果的な病害管理の手法を開発するには、病の拡大方式を早急に解明すべきです」
専門家たちが既に動き出していますが、まだ解決には至っていません。
私たちとしては、「安くて美味しいバナナ」が食べられなくなる前に効果的な対処法が見つかるのを願うばかりですね。
参考文献
Arriving in mainland Malaysia, banana Blood disease now poised to spread throughout Southeast Asia
https://phys.org/news/2021-12-mainland-malaysia-banana-blood-disease.html
元論文
Geographic Expansion of Banana Blood Disease in Southeast Asia
https://apsjournals.apsnet.org/doi/10.1094/PDIS-01-21-0149-RE