さまざまなゲームに登場するボスキャラの魅力をあらためて掘り下げる連載「僕らのボスキャラ列伝」。第5回はPS2『ロマンシング サガ ミンストレルソング』の邪神サルーインを紹介します。
「この1000年間、何度となくミルザとの戦いを思い出したぞ。ゴミのような人間に神が敗れたのだ…!」
“人格神“という言葉をご存知でしょうか。「人格≒人間のような感情を持った神」を指す言葉で、ギリシャ神話や日本神話に登場する神々は人格神といえます。『ロマンシング サガ ミンストレルソング(ミンサガ)』の邪神サルーインもそんな人格神であり、かつ、作品全体を俯瞰してみると”千両役者”でもありました。
2005年にPS2で発売された『ミンサガ』は、スーパーファミコンソフト『ロマンシング サガ(ロマサガ)』のリメイク作品です。サルーインは両作品におけるラスボスですが、これがなかなかにねちっこい性格の神で、かつて人間に負けたことを1000年もの間ずっと根に持ち続けているのです。
本作は長兄デス・その弟サルーイン、末妹のシェラハという三柱の兄弟神が、かつて人間と敵対した神として物語に関わってきます(デスとシェラハは進め方次第ではまったく関わってきませんが)。そんな三柱の神のなかでも1000年経ってなお恨みを捨てられないのはサルーインのみという事実が、そのねちっこさに拍車をかけます。
さて、冒頭で引用したサルーインのセリフにもあるように、1000年前の戦いでサルーインを倒した人間はミルザという英雄でした。もちろん彼やその仲間たちだけの力ではなく、その背後には光の神エロールの加護や助力がありました。
プレイを通してそういう歴史が見えてくると「その邪神が復活するというのなら、エロールになんとかしてもらえないのか」という疑問も出てきますが、本作はゲームの進め方次第で当のエロールから「神々同士が戦えば世界そのものが死んでしまう」という衝撃の事実が明かされます。
エロールが戦って勝利したところで、結局人は生き延びられないのです。エロールはそう前置きした上で、人には自分の運命を自分で決める権利があるので、サルーインの復活を傍観するか、戦って打ち倒すか、戦って敗北するかを自らの意思で選ぶよう告げるのでした。
「神は人をつくり、人は物語をつくる」という本作のキャッチコピーの真意が明確に理解できる瞬間です。これほど短いセンテンスに「フリーシナリオというゲームシステム」、「神が実在し人を創造したという世界設定」、「神にすら人の生き方は決められないというストーリーのテーマ」を凝縮させた秀逸なコピーはなかなかないのではと思います。
また、本作はかつてサルーインの封印に使用されたディステニィストーンを集め、それをあえてサルーインに捧げることで逆にパワーアップさせるという周回やり込み要素が用意されていました。いわゆる”メインストーリーのラスボス”が、それを凌駕する強さを持つ”クリア後のおまけボス“も兼ねているところが、サルーインの印象をより強いものにしています。
人間にとって最大の障壁となることでストーリーのテーマを明確にし、ゲームシステムを理解して周回するプレイヤーの前にもなお強敵として立ちはだかり、ときにはその子供じみた言動がネタ的に愛される……。いくつもの役割を見事に演じきったサルーインはまさに”千両役者“でもありました。
サルーインや『ロマサガ』シリーズのキャラクターたちは2022年初頭の今もスマートフォンゲーム『ロマンシング サガ リ・ユニバース』で活躍していますが、マルディアスの世界と邪神サルーインの復活をめぐる物語のひとつのクライマックスは、まさにこの『ミンサガ』においてだったのではと感じます。個人的にはリマスターかリメイクが待ち遠しいタイトルのひとつです。