私たちは、自分に降りかかる不幸に「何かしらの法則性」を感じるときがあります。
「傘を持っていないときに限って大雨が降る」「トイレやお風呂に入っているときに限って、宅配便が来たり電話が鳴ったりする」などです。
このように、「なぜか必ず不運な方が起こる」という考え全体を、「マーフィーの法則」と言います。
もちろんこれはユーモアであり、科学的な法則が実際に存在するわけではありません。
では私たちは、どうしてこんなにもマーフィーの法則に共感できるのでしょうか?
ここではマーフィーの法則の歴史と共感できる理由を解説します。
目次
- マーフィーの法則とは
- 語源になった「マーフィー」の正体
- 人々がマーフィーの法則を信じる理由
マーフィーの法則とは
マーフィーの法則には基本形となる以下のフレーズがあります。
“Anything that can go wrong will go wrong.”(失敗し得る事柄は、必ず失敗する)
そして同様の意味をもつ様々なフレーズが登場してきました。
例えば、「トーストが落ちると、必ずバターを塗った面が下になって着地する」「洗車した後にドシャ降りの雨が来る」「探し物は必ず最後に探す場所にある」などです。
どれも共感できるのではないでしょうか。
では、これらマーフィーの法則は、最初にどこで生まれたのでしょうか?
実は、この格言が誕生したのは、アメリカのジェット戦闘機の実験場でした。
語源になった「マーフィー」の正体
1949年、アメリカ・カリフォルニア州のエドワーズ空軍基地で、ジェット戦闘機の急減速実験「MX-981プロジェクト」が行われました。
この実験では、ロケットを積んだそりに人間をくくりつけ、急減速がどのような影響を与えるか調べていました。
そして「くくりつけられた人間」というのがジョン・スタップ大佐であり、スタップ大佐のシートベルトを設計したのが、空軍大尉のエドワード・マーフィー氏です。
シートベルトには16個のセンサーが付いており、過酷な有人実験の結果を確実に記録できるようになっていました。
それで実験の結果はどうなったのでしょうか?
スタップ大佐は実験により脳震盪を起こし、体のあちこちから出血するという大きなダメージを負いました。
ところが、シートベルトのセンサーは何も記録していませんでした。
マーフィー氏がすぐに確認したところ、16個のセンサーすべての設定が間違っていることに気づきました。
16個もセンサーを備えていながら、正しく設定されたものが1つもなかったのです。
そしてこの時マーフィー氏は、センサーを設定した技術者を指して、次のように言い放ちます。
「もし2つの方法があってそのうち1つが間違っている場合、この技術者は必ず間違った方を選択するだろう」
これがマーフィーの法則の原型です。
後に、この言葉を気に入ったスタップ大佐が記者会見場でマーフィーの法則を引用し、マスコミを通して多くの人に広がりました。
こうした背景を知ると、確かにマーフィーの法則が失敗から生じた単なるユーモアだと分かります。
では私たちがマーフィーの法則に共感できるのはなぜでしょうか?
人々がマーフィーの法則を信じる理由
私たちがマーフィーの法則に共感するのには、いくつかの理由があります。
1つ目として、マーフィーの法則として言及されるいくつかの現象には、科学的な根拠があるということです。
例えば、1996年の研究では、バターを塗ったパンの着地パターンには物理法則が関係していたと発表されました。
パンにバターを塗ることで重心が移動し、バターを塗った側が地面に向きやすくなることを実証したのです。
2つ目には、記憶の傾向が関係しています。
人には、自分に有利な出来事よりも不利な出来事に注目する傾向があります。
そしてすんなりうまくいったときより、悪いことが起きたときのほうが強く印象に残るため、記憶に長く残りやすいのです。
そのため私たちの記憶には、マーフィーの法則に合致する出来事が鮮明に残るのです。
3つ目に、私たちには「関係のない出来事を、関係があるかのように思い込む傾向」があります。
例えば、渋滞に巻き込まれたときには、いつも一番遅い車線にいるような感覚になります。
これは自分が他の車を追い越していることよりも、自分を追い越す車の方に注意が向くからです。
結局これは錯覚なのですが、私たちの中ではマーフィーの法則を支持する材料となってきました。
さて、ここまで考えると、マーフィーの法則は確かに単なるユーモアだと分かります。
しかし信じたくなる要素が備わっているのも事実であり、それゆえ世界中でマーフィーの法則が人気なのでしょう。
私たちも、たとえ事実を知っていたとしても、明日には「やっぱりマーフィーの法則は正しい」と感じているかもしれませんね。