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英語は、英語圏だけではなく、世界のさまざまな国で共通語として使われるようになってきました。しかし、日本の英語学習者の多くは、英語圏のネイティブ・スピーカーのように話せるようになることを理想としており、日本人が英語力に自信をもてない理由の一つになっています。そこで、ワールド・ファミリー  バイリンガル サイエンス研究所(※以下、IBS)<東京都新宿区  所長:大井静雄>では、東京工業大学の木村准教授に「リンガフランカ(共通語)としての英語」という考え方やそこから示唆される英語教育のあり方についてお話を伺い、インタビュー記事を公開しました。

<インタビューサマリー>

●「リンガフランカとしての英語」は、ネイティブ・スピーカーの英語を普遍的な規範とせず、ノン・ネイティブ・スピーカーを含む「英語使用者」同士の実際のやりとりから英語教育のあり方を問う概念。

●「リンガフランカとしての英語」の観点では、コミュニケーションの成立が重要であり、ネイティブ、ノン・ネイティブを問わず、相手に歩み寄って柔軟に協働する姿勢、常に学び続ける姿勢が大切。

●ノン・ネイティブ・スピーカーが英語使用者の大半を占める社会状況では、多様で現実的な英語に触れたり実際に英語を使ったりすることにより、教室での学びと実際のコミュニケーションの違いを考えさせる英語教育が求められている。

●早期英語教育は、子どものころからいろいろな英語に触れる体験を通じて「ネイティブ信仰」から脱却するという意味で重要。

「リンガフランカとしての英語」とは?  

ペンシルバニア州立大学 応用言語学研究科で博士課程を修了した木村准教授。学部生時代にタイに1年間留学し、EMI(English-Medium Instruction/英語で開講されている授業)のプログラム在籍時に「リンガフランカとしての英語」に興味をもち、大学院で研究の道へ進みます。「当時はどの国に行っても英語は上達するだろうと思っていたが、実際に行ってみると、『英語は国際語』という認識は違っていたことに気づいた。多言語環境の中で、さまざまな言語を駆使しながらコミュニケーションを図らなければならないことを肌で感じ、そこで必要とされる能力と、これまで受けてきた英語教育の乖離を実感するようになった」と言います。

木村教授によると、「リンガフランカとしての英語(English as a Lingua Franca/ELF)」は、90年代の後半ごろから使われ始めたことばです。その背景には、国際化やインターネットの普及、経済の自由化、他国間における人や情報、文化の移動が日常化した、といったことがあります。英語学習者や英語使用者をネイティブ・スピーカーと比較せずに、実際のやりとりをありのままに観察・分析し、そこから英語教育に対する示唆を得ようとする、という点で、「第二言語としての英語」の考え方と大きく違います。」とのこと。

「リンガフランカとしての英語」の観点から英語を考えると、もはや、ネイティブ・スピーカーとノン・ネイティブ・スピーカーの区別が生産的ではないのです。グローバル化の文脈においては、誰しもが英語使用者であり、英語学習者であり、常に学び続け、自分の英語力を向上させていかなければならない、という考え方が『リンガフランカとしての英語』です。ネイティブ・スピーカーも例外ではありません。ネイティブであってもノン・ネイティブであっても学び続けなければならないし、お互いに歩み寄って学び合い、コミュニケーションを成立させる、ということが重要です。」

日本の英語教育における「リンガフランカとしての英語」 

「まず、ノン・ネイティブ・スピーカーはネイティブ・スピーカーの3倍くらいいると言われている現在の社会状況では、ほとんどの英語学習者にとって、英語を使用する場面というのは、「共通語としての英語」を使う場面である、ということを前提として考える必要があると思います。指導法としては、多様で現実的な英語に触れさせたり、英語を使う機会を設けたりすることが重要ですね。」と木村教授は話します。

「そして、教科書で学んだことと実際のコミュニケーションはどのように違ったか、その違いによってコミュニケーションに悪影響があったか、逆にその違いがコミュニケーションを円滑にすることはあったか、ということを問いかけて、自分の英語を振り返らせることも必要です。」

さらに木村教授は「ノン・ネイティブ・スピーカーであっても、英語を使って活躍している人はたくさんいますよね。そのような人の英語を聞かせてみるのも、『リンガフランカとしての英語』に気づかせるきっかけになります。

最近は日本でも英語を使う機会が増えてきましたから、教室や教科書での学びと、教室の外での実際のコミュニケーション経験を結びつけて気づきを与えることは、教師の重要な役割だと思います。」と述べています。

早くから「リンガフランカとしての英語」を意識する必要

「言語」ということ以前に、「コミュニケーション」が重要である、と話す木村教授。「リンガフランカとしての英語」を突き詰めていくと、いずれは、「英語」の授業というよりも、「Language Awareness(言語に対する意識)」の授業を学校で行う必要があるのではないか、という考え方もあるそうです。「英語」や「日本語」といった個別の言語に囚われるのではなく、言語はどういうふうに使われていて、どのようにコミュニケーションが成立しているのか、といった、より広い視点での「言語」を教えることで、言語を学び続ける姿勢を養うことができる、という考え方です。

グローバル化が進むなか、英語は世界の共通語になりつつありますが、英語以外にも、多様な言語に触れる機会が増えています。そして、英語は、いわゆる英語のネイティブ・スピーカーではなく、そのような多言語話者が第二言語、第三言語として使っているケースが圧倒的に多いのです。このような多言語社会では、「ネイティブ・スピーカーの英語」のみを理想としていては、どれだけ英語を学んだとしても、どのような国に留学したとしても、相手に理解してもらおうという姿勢、相手を理解しようとする姿勢、すなわち、国際的な場面で必要とされる真のコミュニケーション能力を養うことは難しいでしょう。

英語に触れるのは早ければ早いほうがよい、とよく言われますが、ただ早ければいいということではなく、「多様な英語に触れる」、「リンガフランカとしての英語を意識する」といった体験がとても重要だと考えられます。このような体験が、ひいては、「ネイティブ信仰」から抜け出し、自分の英語に自信をもつことにもつながるのではないでしょうか。

詳しい内容はIBS研究所で公開中の下記記事をご覧ください。

■「リンガフランカとしての英語」を意識した英語教育

〜東京工業大学 木村准インタビュー〜

前編: https://bit.ly/3HzAsmo  後編: https://bit.ly/3Hwbbd0

■ワールド・ファミリー バイリンガル サイエンス研究所

(World Family’s Institute Of Bilingual Science)

事業内容:教育に関する研究機関

所   長:大井静雄(東京慈恵医科大学脳神経外科教授/医学博士)

所 在 地:〒160-0023 東京都新宿区西新宿4-15-7 

パシフィックマークス新宿パークサイド1階

設   立:2016年10 月  URL:https://bilingualscience.com/