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Carl Pei(カール・ペイ)氏は、周囲を見回すと同じようなものであふれているという。そう感じているのは彼だけではない。完全なワイヤレス型イヤフォンは、Apple(アップル)が初期のAirPodsで発明したわけではないが、AirPodsが一種の転換期となって、多くの競合他社がこぞって同じようなイヤフォンを発売するようになった。Bluetoothイヤフォンほど短期間で成熟し融合した消費家電のカテゴリーを他に挙げろと言われても簡単には思いつかないだろう。ただし、数あるワイヤレス型イヤフォンの中からちょっとした変わり種を見つけるということなら話は別だ。

最近は、完全な実用性を備えたワイヤレス型イヤフォンが50ドル(約5400円)くらいでワンクリックで手に入る。200ドル(約2万1000円)も出せば本当に卓越したものが手に入る。しかし、多様性となると話は別だ。どれもこれも似たような製品に思える。細長いAirPods型のデザインと少し丸みのあるデザインのどちらを選ぶかという以外に、多様性と呼べる要素は見当たらない。つい最近まで、アクティブノイズキャンセリングとワイヤレス充電などの機能を備えているかどうかによって、このカテゴリーのプロダクトは高級とそれ以外に2分されていたが、今はどちらも当たり前の機能になってきている。

画像クレジット:Brian Heater

2021年に新しい消費者向けハードウェア企業を立ち上げるとしよう。そして、最初の製品としてイヤフォンを選択したとする。どうすればよいだろうか。競合他社が乱立する市場で自社製品の差別化を図るだけでなく、Samsung(サムソン)、Google(グーグル)、Apple(アップル)といった大手と渡り合っていくには、何が必要だろうか?

価格はもちろん重要な要素の1つだ。「99ドル」(日本では税込1万2650円)というのは、かなり積極的な価格設定だ。ペイ氏は、TechCrunchの最初のインタビューでは、Ear (1)を100ドルを切る価格に設定したことを後悔しているようだった。Nothingは製品ごとに大きな利益を挙げるつもりは必ずしもないといって間違いないと思われる。ペイ氏の前の会社OnePlusと同様、同氏は低価格をその製品の最大の特徴にするのを嫌っているようだ。

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Ear (1)発売前のインタビューで、ペイ氏は、業界の現状をある種の「機能過剰」状態だと考えていると話していた。実際、さまざまなカテゴリーで、過去数年に渡り、終わることのないスペック競争が繰り広げられていた。その結果、機能によって差別化を図るのはますます難しくなっていった。それは、ここ数年のスマートフォンメーカーの端末の売り方を見ればよくわかる。その間、ワイヤレスヘッドフォンは「ワクワクする初期の混乱」状態から「極めて高品質な製品」状態へと、ごく短期間で移行した。

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個人的には、機能による差別化の余地はまだあると思う。例えば最近発売されたNuraTrueのイヤフォンを見てみよう。この会社は、3つのヘッドフォンモデルの特長である専用のオーディオテクノロジーを基盤として、通常とは反対のアプローチでイヤフォンにたどり着いた。

ペイ氏は、Ear (1)の発表記者会見で、Nothingは最初の製品を決定する前にまず、同社の美学的な理想を明確にしたことに触れた。そして、いつもどおり、製品の画像が表示される前に、デザイン会社Teenage Engineeringとのパートナーシップを発表した(初期の段階で我々が入手できた情報は、初期のコンセプトは、ペイ氏の祖母のタバコのパイプにヒントを得たということぐらいだった)。

他にもエコシステムに関する考えについても理想はあるが、これは、複数の製品がリリースされた後にはじめて具体的に考えるべきことだ。とりあえず現時点では、Ear (1)をあらゆる角度から見てみた。耳に装着したり、手のひらの上に置いたりしてみる(手のひらに置いたままではタイピングは難しいので、今は机の上に置いてこの記事を書いているが)。

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形状は明らかにAirPodsのものを借用しており、耳に装着するイヤピース部分から細長い柄が飛び出した形をしている。その点では、Ear (1)はすべてがNothing独自の製品であるとはいえない。とはいえ、完全なワイヤレス型イヤフォン自体の性質からして、取れる形状が限られているということは言えるだろう。筆者はもちろん製品デザイナーではないが、イヤフォンは耳に心地よくフィットする必要があるし、大き過ぎても重過ぎても、柄の部分があまり突き出ていても駄目だ。

ペイ氏によると、この製品のリリースが遅れた理由の1つは、最初に戻ってデザインをやり直したからだという。彼らが最終的にたどり着いたのは、ひと目でイヤフォンと分かるものの、独自の少し目を引くようなデザインだった。透明であるというのは美的観点からすると最大の差別化要因だ。ケースが透明なのは、こうした製品では珍しいので、とりわけ目を引く。イヤフォン本体については、透明なのは柄の部分だけだ。

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イヤピース部分単独で見ると、アップル製品にかなり似ている。光沢のある白の仕上がりと白のシリコン先端部が大きな部分を占めている。初期のレンダリングのとおり、イヤピース部分が透明でないのは、シンプルで現実的な理由からだ。イヤピース部分を構成するパーツが透けて見えるとあまりに見苦しいからだ。これは製品のリリースが遅れた別の要因でもある。つまり、製品を透明にすると、パーツや接着剤の見え方を考える必要があるのだ。普通なら完全に透明なケースの中央が広く白い部分で覆われているのも同じ理由からだ。充電パーツは見苦しいのだ(失礼、だが事実だ)。

スケルトン仕様にするとゴテゴテしたデザインになりがちだが、Nothingはデザイン的にもかなりよい感じに仕上がっているし、同時に異彩も放っている。それだけでもガジェット設計という単調な世界で何かを主張している感じだ。また、StockXと提携したことも、Nothingが追いかけているアーリーアダプターやインフルエンサーの影響を明らかに示している。

Ear (1)イヤフォンは、このカテゴリで、同じくスタイル重視のどのウィル・アイ・アム製品よりもずっと好感が持てる。Ear (1)は確かに目立つが、外でもひと際目を引くというほどではない。つまり、街を歩いていて「あの人の耳見て」と大声で指差されたり、止められたりすることはない(ウィルさん、失礼)。

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外観は、個人的には、気に入っている。気の利いた工夫も施されている。赤と白の点はそれぞれ、右と左のイヤピースを表している。これはRCAおよびその他のオーディオケーブルの色分けに従ったものだ。Nothingのロゴが点線の文字で刻印されており、回線基盤プリントを思わせる。この文字は、Nothingの大半の商標にも使われている。サプライチェーンベンダーとの交渉に多くの時間を費やした経験のある人物が立案したデザインであることは明らかだ。筆者がペイ氏に話を聞いたときも、同氏は、Nothingが本拠を置くロンドンではなく深センの周辺で、サプライチェーンの末端に関する問題の詳細を詰めていることが多かった。

イヤピースの感触も抜群だ。筆者は、さまざまなデザインのイヤピースを長時間装着した後、耳の痛みを感じることが多いことは前に述べた。Ear (1)を装着してニューヨーク市内を4時間ほど散歩したが、痛みや違和感はまったくなかった。また、耳の中でも非常に安定していた。充電ケースに戻すときにも、磁石でカチッと収まるのがとても心地よい(ここでも赤と白の色分けがされている)。

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ケースは平坦な四角形で角に丸みが付けられている。透明でなければ、ミントの缶詰によく似ている。フタを閉めるときにはカチッという音もする。数百回あるいは数千回開け閉めを繰り返した後も、このフタのかっちり感が持続するかどうか興味深いところだ。

Nothingによると、標準的な落下テストや負荷テストはすべて行っているものの、透明なプラチックは強度が高くても引っかき傷がつきやすいため、複数の鍵と同じポケットに入れた場合などは特に注意が必要だと警告している。ペイ氏は、こうした傷は最終的には魅力の1つにはなるだろうと言っているが、果たしてユーザーはどのように判断するだろうか。筆者は数日間使ってみて、鍵を同じポケットに入れるようなこともなかったが、ケースの底に長い引っかき傷がついた。この傷で別段クールな感じになったとも思わないが、みなさんはどうだろうか。

上蓋には大きなくぼみがあって、閉じたときにフタとイヤフォンがぶつからないようになっている。このくぼみは、ケースを何となくいじるときに親指を置くのにもちょうどよい。ぼんやりとフタを開け締めして、ソワソワした気持ちを落ち着かせるのにもよいのではないか。ちょっとしたことだが、よく考えられた細工だ。ケースの裏側には、USB-Cの充電ポートとBluetoothの同期ボタンがある。

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iOSを使っている場合は、アプリを介して、またBluetooth設定で、最初にイヤフォンを接続する必要がある。自社製はイヤフォンだけで、OSもチップもスマホ端末も作っていない会社には設定に関していろいろと厄介な面もある。が、厄介といっても大したことはないし、おそらくは1回行えば済むことだ。

Ear (1)はまずまずの音質で聞ける99ドル(日本では税込1万2650円)のイヤフォンだ。驚くほど良いとまでは言わないが、Sony WF-1000XM4や新しいNuraTrueなどと互角に渡り合えないからといってがっかりする人はいないと思う。決してオーディオマニア向けではないが、音楽やポドキャストを聞きながら、街をぶらぶらするにはもってこいだ。

アプリにはTeenage Engineeringによって調整されたエコライザーが組み込まれており、balanced、treble / bass、voice(ポッドキャストなどで使用)の3つの設定が用意されている。3つの違いはわかるが、かなり微妙だ。イヤフォンではこの位が限界だろう。エコライザーのカスタマイズに関しては、デジタル一眼レフカメラよりも全自動感が強い。Nothingとしては、作り手の意図するバランスからあまりかけ離れて欲しくないということだろう。筆者は、すべての設定を試してみたが、ほとんどbalanced設定にしていた。みなさんのご意見をお聞かせいただきたい。

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ANC設定にも、ノイズキャンセリング、トランスペアレント、オフの3種類が用意されている。ノイズキャンセリングは、必要に応じて、強度を調整できる。全体として、ANC機能は非常に優れており、ニューヨークの街の雑音をかなり消してくれる。しかし、一番強い設定にしても、クルマの音を完全にブロックするとまではいかない。個人的には、そのくらいでちょうどよいと感じる。

「イヤフォンを探す」設定も用意されている。こうしたものは、どうしてもソファのクッションの下などに入り込んでしまいがちだが、この設定で甲高い電子音を発するようにしておけば簡単に見つけられる。

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一番不満に感じているのは、NuraTrueのイヤフォンでも感じた不満だ。Bluetooth接続が何度も切断されるのだ。音楽やポッドキャストに没頭していると、Bluetooth接続が切断されるのはイライラする。この現象は、イヤフォン、スマホ端末、チップ、オペレーティングシステムをすべて自社で作っている会社の製品では、あまり起こらない。新興スタートアップにとって、この点に関して競争するのはかなり厳しい。

難癖をつければ、数カ月間いろいろといじってみたものの、Ear (1)イヤフォンは過当競争気味のこの分野をひっくり返すような製品ではない。とはいえ、新興企業が消費者ハードウェアの分野に参入して、堅実な先発製品を市場から締め出すのを見るのはいつでもワクワクするものだ。ワイヤレス型イヤフォンという分野に低価格で新しい独自の製品を投入したNothingは、今後も注目していくに値する企業だ。

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カテゴリー:ハードウェア
タグ:カール・ペイNothingイヤフォンレビュー

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(文:Brian Heater、翻訳:Dragonfly)