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 オンプレミスシステムからクラウドサービスへの移行コストを算定するのは容易ではない。企業はオンプレミスシステムとクラウドサービスの利用コストの違いを詳しく把握する必要があるだけでなく、他のさまざまな要素も考慮しなければならないからだ。

 中には予想しやすいコストもある。例えばオンプレミスのストレージシステムからクラウドストレージにデータを移行するコストは見積もりやすい。一方でアプリケーションのリファクタリング(動作を変えずに内部構造を書き換えること)に伴うコストは、正確に把握することが難しい。クラウドサービスに関するスキルを持った人員の配置や、新しいアプリケーションの構築といった運用に関連するコストも見落としやすい。

 オンプレミスシステムとクラウドサービスのコストを比較するときには、本連載が示す3つのステップを踏むとよい。

 クラウドサービスへの移行コストを計算する第一歩は、まだクラウドサービスに全く移行していないアプリケーションを調べることから始まる。管理者は、既存ハードウェアおよびソフトウェア資産のコストを評価し、クラウドサービスのコストと比較検討する必要がある。

 単純にオンプレミスシステムとクラウドサービスを比較することは難しい。ほとんどのオンプレミスのソフトウェアおよびハードウェアの導入や運用にかかるコストは、クラウドサービスの料金体系とは異なっているからだ。オンプレミスシステムの構築には、ハードウェアを購入するための多額の初期設備投資が必要となる。そのため企業はCAPEX(設備投資)を中心にコストを見積もることになる。これに対してクラウドサービスは、OPEX(運用経費)を中心とした料金モデルに準ずる。企業は各クラウドサービスを利用した分だけ料金を支払えばよいため、CAPEXをそこまで考慮しなくてもよくなる。

 オンプレミスシステムとクラウドサービスのコストを厳密に比較するには、オンプレミスシステムのCAPEXを、クラウドサービスのOPEXと比較できるように表す必要がある。オンプレミスシステムの導入コストを使用可能期間で割れば、クラウドサービスの利用料金と比較が可能だ。ただしこの計算は厳密なものではない。例えばサーバのHDD交換といった、途中で発生する可能性があるコストを想定していない。こうしたサーバの部品はサーバそのものよりも長持ちしない場合がある。メモリ増設といった、サーバの利用期間を延長させるハードウェアのアップグレードも考慮していない。

 クラウドサービスを利用する場合には必要ないが、オンプレミスシステムを利用する場合には必要なリソースが何かを特定する必要もある。例えばオンプレミスデータセンターのネットワークスイッチは、アプリケーションをクラウドサービスに移行させると一般的には不要になる。UPS(無停電電源装置)やNAS(ネットワーク接続ストレージ)デバイスも、クラウドサービスへ移行すると不要になる可能性がある機器だ。クラウドサービスに移行すれば、電力や物理的な事業所のセキュリティなど、オンプレミスシステム特有の運用コストも削減できる。

「リファクタリング」を考慮する

 オンプレミスの仮想マシン(VM)で動作しているアプリケーションに加え、オンプレミスのストレージシステムに保存されたデータを、そのままクラウドサービスのVMまたはクラウドストレージに移行させるリフト&シフトは、クラウドサービスへの最もシンプルな移行方法の一つだ。この場合、アプリケーションは大きなリファクタリングを必要とせず、企業はクラウドサービスへの移行コストを比較的簡単に計算できる。

 クラウドサービスへの移行にアプリケーションの再開発を伴う場合もある。その場合、再開発に労力を費やす必要がある。例えばアプリケーションをクラウドサービスのVMで実行するだけでなく、一部をコンテナやイベント駆動型コード実行サービスに移行させる場合がある。既存のモノリシック(巨大な一枚岩の)アプリケーションを、複数の小規模サービスを組み合わせた「マイクロサービスアーキテクチャ」のアプリケーションとして作り替える場合もある。こうした変更はコストが高くつきがちだ。複数のクラウドサービスを組み合わせてワークロードを開発すると、効果的に管理するためにより高度なノウハウが必要になる傾向がある。これもコスト増大につながりやすい。


 次回は2つ目のステップ「クラウドサービスのコストを計算する」を紹介する。

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