覚醒剤は飲まされたのか、それとも自ら飲んだのか――。東京地裁で7月に開かれた傷害致死事件の裁判員裁判で、被害者の女性が亡くなった経緯を巡り、検察側と弁護側が応酬を繰り広げた。女性の死因が、和歌山県で起きた「紀州のドン・ファン」と呼ばれた資産家殺人事件と同じ急性覚醒剤中毒だったことも、傍聴席の関心を高めた。導かれた結論とは。
被告「女性は自殺」、夫「あり得ない」
「私は何もやっていません」。7月6日、東京地裁725号法廷。2018年7月、デートクラブで知り合った女性(当時28歳)を急性覚醒剤中毒で死なせたとして傷害致死罪に問われた税理士で会社役員の石原信明被告(72)は、初公判で無罪を主張した。
検察側は冒頭陳述で、被告は女性を東京都渋谷区の自宅に招き、性的行為に際して違法薬物を勧めたが断られ、日本酒に覚醒剤を混ぜて飲ませたと主張した。部屋から覚醒剤が付着したおちょこや日本酒の空き瓶が見つかったことを根拠に挙げた。一方の弁護側は、死因は争わなかったが、女性は過去に自傷行為をしたことがあるとして「自ら覚醒剤を飲んで自殺した」と反論した。
検察側の席では、女性の夫が被告の説明に耳を傾けた。閉廷後、夫は取材に「なぜ妻がこんな死に方をしなければいけなかったのか」と憤った。夫によると、女性は事件の半年前、会社の倒産で失業した夫に代わって家計を支えるため、デートクラブに登録したという。…