化学療法による脱毛は、医療における副作用の中でも目立つものの1つであり、しかも自分の病気や受けている治療を知られたくない場合でも知られてしまうこともある。そこでLuminate Medicalは、特殊な医療用ウェアラブルデバイスで化学薬品が毛包に入り込むことを防ぎ、人生最悪の損失を防ぎ、このあまりにも目立つ状態を過去のものにしようとしている。
LuminateのCEOであるAaron Hannon(アーロン・ハノン)氏と共同創業者のBárbara Oliveira(バルバラ・オリベイラ)氏は、患者や医師に、がんの治療でイノベーションが必要と思われる分野について尋ねると「脱毛が話題になることがとても多いので驚いた」とハノン氏は語る。「それ以来、私たちは研究開発を化学療法による脱毛をなくすことにフォーカスすることにしました」。
患者が化学療法を受けると、抗がん剤が血液によって全身に行き渡る。それによって衰弱や吐き気といったさまざまな副作用が起こり、長期的には薬物が毛包を害して脱毛が起きる。Luminateがアイルランド国立大学ゴールウェイ校と共同で開発したソリューションは、そもそも血液がそれらの細胞に到達しないようにするというものだ。
そんな効果を有するデバイスは、頭に装着する一種の圧力装置だ。ただし柔らかい素材を使っているため不快感はなく、ハノン氏によると圧力も注意深くモニターされているという。
また、それらの細胞に血流が行き渡らなくても危険はない。「圧力療法は十分に研究されている分野です。細胞を傷つけない治療方法を適用できる時間についても、何年も前から研究されていて多くの文献があります。効果と快適性を両立させるためには、若干の機械工学が必要です」とハノン氏はいう。
患者はそのキャップを化学療法を受けているときとその後に装着する。頭皮への血流だけを制限するため、薬は腫瘍やがんの患部がどこにあっても順調に行き渡り、同時に毛包を損傷から守る。
最初の動物実験では体毛の80%が維持され、有害な副作用はなかった。本格的な人体実験は今後の課題だが、健康な患者に対するこのヘッドセットの血流阻止効果は、人に対して予想したとおりだった。
ハノン氏は「この療法がさまざまなタイプの毛髪に有効だとわかってとてもうれしい」という。たしかに、短い毛や真っ直ぐな毛など、毛のタイプを限定する治療方法だと、利用できない人が多くなってしまうだろう。
ハノン氏によると、圧力ではなく頭皮を冷やす方法もあるが、そちらはウィッグの価格が高すぎるとのこと。費用は患者1人あたり数千ドル(数十万円)であるため、もっと安価なデバイスを開発する余地は十分にある。
脱毛は保険などの保障が症状として認め、ウィッグも対象になっていることが多い。Luminateのデバイスが各種の保障で認められるためには、時間とエビデンスがもっと必要だ。しかしチームは、保険があれば患者負担は1500ドル(約16万5000円)程度に抑えられると確信している。ウィッグだけでなく、より高額な脱毛治療もいろいろある。化学療法で「髪を失わない」にチェックを入れてその費用が1500ドルなら、ためらう人は少ないのではないか。
しかしLuminateは、今後はデバイスの費用を払えない人にも提供していきたいと思っているため、FDAの認可や米国での発売、ヨーロッパ各国への進出などにより、大量生産による低価格化を考えている。
Y Combinatorの夏季を卒業したばかりのLuminateは、幸運にもアイルランド政府の補助金を獲得した。政府補助金であるため、投資と違って非希釈性だ。今後の規模拡大や国際化にはもっと資本が必要だが、現在のところチームはデバイスを最初の患者の手に、そして頭に、渡すことだけで精一杯だ。
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画像クレジット:Luminate/Wild Island Pictures
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(文:Devin Coldewey、翻訳:Hiroshi Iwatani)