上川陽子法相は、インターネット上の誹謗(ひぼう)中傷対策として「侮辱罪」に懲役刑を導入する刑法改正など3件の検討を法制審議会に諮問した。匿名投稿者の特定に必要な情報開示請求のプロセスも来秋にも施行される改正法で簡素化される見通しだ。匿名でも卑劣な投稿をすると、重い責任を問われることになりそうだ。
2020年5月に亡くなった女子プロレスラー、木村花さんに対し、SNSで中傷していた大阪府と福井県の男性2人が侮辱罪でそれぞれ科料9000円となったことに「刑罰が軽すぎる」と疑問の声が出ていたことが議論の契機となった。
侮辱罪は、現行の法定刑では拘留(30日未満)か科料(1万円未満)とするが、厳罰化で「1年以下の懲役・禁錮または30万円以下の罰金」が追加される方向。公訴時効も1年から3年になる。 これまでネット上の一部の投稿には名誉毀損(きそん)罪が適用された事例はある。弁護士の高橋裕樹氏は「名誉毀損罪は、客観的な証拠に基づき事実を確認できるもので、事実無根のデマや公開されたくなかった事実を明かす投稿などに適用されてきた。一方で『バカ』『生きる価値がない』など主観的な評価に基づく投稿は侮辱罪にあたる」と解説する。
ネット上の誹謗中傷はほとんどが匿名で行われるため、法的に措置に向けては投稿者の特定が必要になる。22年の秋までに施行される予定の「改正プロバイダー責任制限法」では、1度の申し立てで裁判所が投稿者の情報を開示するかどうかを判断し、運営事業者や接続事業者に命令を出せる新たな裁判手続きを創設する。
今後議論の焦点になるのは、誹謗中傷を疑われる投稿の判断基準だ。高橋氏は「グルメサイトの口コミで『料理がおいしくない』と投稿することは、批評なのか誹謗中傷なのか、線引きは難しい。いずれにせよ勢いで投稿せず、内容を冷静に振り返ることが重要ではないか」と呼び掛けた。