KDDIとJリーグ・名古屋グランパスは2020年より新しいサッカー観戦体験を提供している。
こうした取り組みの2021年シーズン第一弾が、3月17日、名古屋グランパスのホーム「豊田スタジアム」で行われた。
「au 5Gシート」でau 5Gスマホとスマートグラス「NrealLight(エンリアルライト)」を用いて、ディスプレイ越しに試合を観戦しながらARで各種データを重ね合わせて見ることができ、「ARムービーサイネージ」では好きな選手と動画で記念撮影を体験できた。
この日の取り組みを紹介しながら、スポーツ観戦に通信テクノロジーを組み合わせることでどんな楽しみ方ができるようになるのか、具体的に見ていこう。
「au 5Gシート」での体験「マルチ視点ジャンプ」と「スタッツ表示」
まず「au 5Gシート」は、メインスタンド上層のテーブル付きの座席30席を使った、この日の特別シート。全席に5Gスマホを設置、一部座席にはスマートグラス「NrealLight」も置かれた。
5Gスマホとスマートグラス、体験できることはほぼ同じ。
ひとつは「マルチ視点ジャンプ」。5Gスマホやスマートグラスのディスプレイ内の別スクリーンで、場内3カ所からのカメラ視点を自由に切り替えながら観ることができる。
この名古屋グランパス独⾃のカメラは両チームゴール裏とバックスタンド側のフィールド上の3カ所に設置されている。配信は5Gの高速伝送技術を活用して行われるため、メインスタンドにいながら、ほとんど遅延なく、さまざまなアングルから試合を楽しめるのだ。
実際にグラスをかけてフィールドを見た光景がこちら。
もうひとつは「ARスタッツ表示」。得点やシュート数、パス成功数、各選手の走行距離などに加え、試合中のオフサイドやイエローカードといった判定を、リアルタイムに表示。オフサイドラインやシュートが放たれた位置などを、実際の試合を見ながら瞬時に知ることができるのだ。
実際に5Gスマホで見た画像がこちら。
ディスプレイに表示される判定は、専属スタッフが手動で入力する。メインスタンドのテレビカメラを設置するための「カメラゴンドラ」と呼ばれる場所から、フィールド上の審判の動きに合わせてPCに打ち込み、その情報が「au 5Gシート」のスマートグラスとスマホに表示される仕組みだ。
5Gスマホの場合は、これまでのスタジアムでの試合観戦の感覚と変わらずARによる情報を得ることができ、スマートグラスの場合は視点をフィールドから移動させる必要なく、自然にARで情報を入手しながら観戦することができる。両者それぞれにメリットがあるのだ。
なお、5Gスマホ独自のサービスもあった。それが「キックターゲットゲーム」。起動すると、目の前の豊田スタジアムのフィールドを背景に8個のターゲットがARで表示。指で画面のボールを弾いてターゲットを射抜く。
パーフェクトを達成すると、名古屋グランパスオリジナルグッズのプレゼントも用意されており、試合時間以外にも家族で楽しむことができる。
「au 5Gシート」で観戦していた会社員の伊藤さんにお話を伺った。豊田スタジアムには頻繁に通っているそうで、今回注目したいのは「ARスタッツ表示」だという。
「オフサイドラインが表示されるのはワクワクしますね。いつもならリプレイで表示されないとわからないのを、リアルタイムに知ることができるのはいいですね。あと選手の走行距離。ハーフタイムには発表されますけど、随時“誰が何km走ってる”と把握しながらだと、より感情移入して応援できそうです」
「au 5Gシート」では、熱心なサポーターのスタジアムでの観戦体験をより「ワクワクしたもの」にすることができそうだ。
好きな選手と記念撮影!「ARムービーサイネージ」
この日、スタジアムに来た誰もが楽しめることができたのが、スタジアムの1階コンコースに設置された「ARムービーサイネージ」。グランパスの選手たちと一緒にムービーで記念撮影し、できあがったムービーをスマホでダウンロードして持ち帰ることができるサービスだ。
大型ディスプレイの前に立ってポーズをとると、グランパスの選手たちが画面に現れてポーズをとる映像とARで合成。まるでその場で一緒に撮影したかのような約15秒のムービーをスマホで持ち帰ることができるというもの。
この日、実際に撮影したカップルの様子がこちら。
登場する選手の人数と撮影したい選手を選び、
ディスプレイの前に立つと、自分たちが映っている同じ画面に選手たちが現れ、あたかもその場にいるかのように一緒に撮影ができる。
au 5Gの高速通信による瞬時に選手たちとのムービーが完成。画面に表示される二次元バーコードからすぐにダウンロードできる。「ARムービーサイネージ」には多くのファンのみなさんが列をつくる。こうした時間の短縮も、より多くの人たちにストレスなく記念撮影を楽しんでもらうことにつながるのだ。
では、名古屋グランパスの公式マスコット・グランパスくんによる撮影の模様をどうぞ。
公式アプリの「モバイルオーダー」で席までデリバリー
昨シーズンに公開された「名古屋グランパス公式アプリ」は、観戦をさらに便利に楽しくするために進化している。
たとえば「モバイルオーダー」。事前にアプリからスタジアムで楽しめるフードやドリンクを予約しておくことで、希望の時間にキャッシュレスでメニューを受け取ることができるシステムだ。
この日は、一部エリアだが、注文したメニューを座席まで配達してくれるサービスも行われた。
並ぶ必要がなく、キックオフやハーフタイム終了を気にせずフードやドリンクを購入できるのは、かなり快適だ。
また、スタジアムに来られないサポーターにも、より豊かな観戦体験を提供すべく、アプリは進化している。昨年までは歌詞だけの掲載だったチャント(応援歌)が、メロディーと合わせて聞けるようになった。
コロナ禍以降、スタジアムでは声を出しての応援が禁じられているが、自宅で観戦する際は自由だ。アプリのこのアップデートは、コロナ禍において、自宅から応援する場合に存分に歌ってもらうべく行われたもの。これもまた通信テクノロジーが観戦体験を変えるひとつのかたちだ。
通信テクノロジーの活用で名古屋グランパスが目指すもの
今後、名古屋グランパスは通信テクノロジーをどのような体験を提供しようとしているのか。昨年来、KDDIとともに通信を活用した新しい観戦体験を推進している名古屋グランパス マーケティング部部長の戸村英嗣さんと、名古屋グランパス 経営サポート部副部長の谷藤宰さんに話を聞いた。
「コロナ禍という状況を踏まえたうえでの、より新しく快適な観戦体験をKDDIさんとともに打ち出していきたいと考えています。スタジアムに来ていただく方には、現場での観戦ならではの臨場感を味わっていただきながら、ご自宅で中継を見ているかのようなデータを。ご自宅からはアプリを活用していただき、開場からキックオフまで、来場されたときと変わらないスタジアムの雰囲気をお届けしたいのです」(戸村英嗣さん)
経営サポート部副部長の谷藤宰さんは、ARに注目した理由について語ってくれた。
「新しい観戦体験を通じて色々な方々に興味を持っていただきたいと考えています。すでに応援に来ていただいているサポーターの方にはそれが新鮮な経験となり、まだ豊田スタジアムに足を運んだことのない方には来場のきっかけになる。どんなポイントからでも名古屋グランパスに興味を持っていただけるならいいなと思っています。
熱心なサポーターの方により深く試合展開を楽しんでいただく一方で、お子さんやサッカー観戦経験のない方でも、ゲームや『ARムービーサイネージ』などで、“スタジアムって面白い!”と思ってもらえるような体験をご提供したいと思っています」(谷藤宰さん)
KDDIの通信テクノロジー×スポーツ観戦への展望
名古屋グランパスとともに、新しい観戦体験の提供に関わっているのは、KDDIの山口昌志と篠田真也、山田健太。「au 5Gシート」を担当した篠田は、誰もが簡単に体験できる方法を目指したと言う。
「ARグラスはまだ一般的ではありませんので、設定に戸惑う方も多いのではないかと考えました。そのため直感的に使えて、試合観戦の邪魔にならないという点を大事にしています。スタジアムでは、もちろん生で見る試合こそいちばんの醍醐味ですので」(篠田)
山田は手がけた「ARムービーサイネージ」で、「チームや選手により親しみを持ってもらいたい」と言う。
「システム自体は先端のテクノロジーではないのですが、一組あたりの所用時間をできるかぎり短縮し、より多くのみなさんに体験してもらえるよう、動画のアップロードに5Gを活用しています。
今後は、体験者の方の動きに合わせた視覚効果も予定しています。他のスポーツにも応用して、スタジアムがより楽しい場所になればいいなと考えています」(山田)
山口は、「今回はお客様の“あったらいいな”をちゃんとかたちにしようと試みた」と言う。
「イベントを開催しづらい環境下で、デジタルがどのように役に立つか、いかに安心安全に楽しんでいただけるかを名古屋グランパスさまとも話し合いながら、進めてきました。
スタジアムに来ていただけるお客様には、その分楽しんでいただきたいですし、逆にご自宅で観戦される方にも、スタジアムにいるかのような気分になっていただく。アプリを通じてお客様それぞれに向けた情報を発信し、かゆいところに手が届くようなサービスをお届けしたいです」(山口)
こうした試みは、継続的に行われていく予定だ。豊田スタジアムのように5Gエリア化している施設では、スポーツのみならずさまざまなエンターテインメントをより深く、心地いいものに変えていく。5G時代の観戦・鑑賞体験に、ぜひ今後とも注目してほしい。