オリンピックでのメダルラッシュの影響もあり、新しくスケボーに興味を持ったり、一度離れていたけど再開したりしている人が増えているようです。ここからどんどんスケートにハマっていきたいという人におすすめなのが、やはり上手い人の映像を見まくること!
今回は現役スケーターであるANCHORの太田祐介さんに、スケボーと切っても切り離せない関係にある「スケートビデオ」について教えてもらいました。90’s〜00’sまでスケーター必見(?)のビデオがずらり。一部はYouTubeにもアップロードされているので、ぜひ映像を観ながら読んでみてください。
太田祐介さん(渋谷『ANCHOR』WEB企画担当)
〈ローター〉をフルラインナップで揃える直営店ANCHOR(渋谷)のWEB企画担当。趣味は10代から続けているスケボーと、コロナ禍に始めたガンプラ作り。
ー今回はFACYに参加してもらっているショップスタッフさんの中で唯一(?)の現役スケーターである太田さんにおすすめのスケートビデオを教えてもらいます。
まさかこんな企画が僕に来るとは思わなかったです(笑)。全然ガチというか、遊びの一環としてスケートボードは毎日やってるだけなので。
ースケートビデオに入る前に、オリンピックの話も少しお聞きしたいです。ご覧にはなりましたか?
もちろんです。解説が話題になりましたが、実際のシーンでも本当にああいう感じですね(笑)。表現なんかも「ヤバいね」っていうのが一番しっくりくるんですよ。でも、まさか男女ともに日本選手が金メダルを取るとは思わなかったですね。
ーあれは驚きましたね。
堀米雄斗さんとナイジャ・ヒューストンは他の大会でもいつも競ってるんです。最近だとナイジャ・ヒューストンの方が優勝してる回数が多いから、「ちょっと上をいってるのかな〜」と思ってたんですけどね。ホームでの開催というのもあってか、堀米さんがあんなにバシバシ決めるとは思わなかったです。
ーオリンピックで競技になり、さらに日本選手がメダルを獲得したことで、世間からのスケボーの評価も少し変わりましたよね。新しく始めている人も増えていると聞きます。
オリンピック後から、パークに行っても「この人初めてっぽいな」って人はよく見かけるようになりました。いつも決まった時間にパークに行ってるから大体いる人って一緒なんですよ。だから、新顔の人はすぐ分かるんです(笑)
ーなるほど(笑)。では、そろそろ今回持ってきたスケートビデオを見せていただけますか?
そもそもですけど、DVDからスケボーに入る人ってあんまりいないと思いますけどね(笑)
ー(笑)。ただ、スケートビデオってスケボーカルチャーの中でとても大切なものですよね。
スケボーではセルフプロモーションが大事ですからね。プロじゃなくても撮りますし、今はプロよりも人気がある素人がいたり……。まあ、スケートとビデオの関係性は密接です。
ー最近ではSNSでもスケート動画が気軽に見られますが、スケートビデオとしてパッケージで観る魅力というのもありますよね。
SNSは“個人”であるのに対し、スケートビデオは”全体”です。たしかにスケートは個人スポーツですが、DVDは個々のパートを編集して一つにまとめた作品。映像それぞれにブランドの打ち出したいスタイルやコンセプトが込められていて、観終わった後に不思議な満足感があります。それって洋服にも通じていて、コレクション全体を通してブランドの雰囲気を感じて欲しいですね。
「スケートが楽しい!」と思える、90年代の名作スケートビデオ
ー最初のスケートビデオをご紹介お願いします。
まずは一番有名なやつというか、どのメディアでも必ず名前があがる『MOUSE』です。メインで出ているのはGirlのスケーターで、内容もスケート中心なんですが、途中で入っているショートムービーがとにかく面白い。スパイク・ジョーンズが監督しています。
ー『Video Days』など、スパイク・ジョーンズ監督のスケートビデオは名作揃いですよね。
スパイク・ジョーンズってスケーターにも演技指導を熱心にやるんですよね。ショートムービーではチャップリンのマネをしたエリック・コストンがスケートで面白いことをやったり、社長と副社長がピザ屋のマネと着ぐるみを着て出てたり、合間合間で飽きさせない工夫がある。「スケートってこんな楽しいんだ!」っていうのを知るうえでも、ぜひ観てほしいビデオです。
ースケートビデオってドキュメンタリーとか作品集っぽいイメージだったので演技は意外でした。
もちろん、真面目にスケートをしているシーンもありますけどね(笑)。これはスケートビデオ全般に言えるんですけど、合間のコマーシャル的な息抜き映像が意外と面白いんですよ。
ー今度からは注目してみます(笑)。ちなみに、この作品の中で特に好きなスケーターはいますか?
本当はチャド・マスカなんですけど……トラブルがあってDVD版ではカットされちゃったんですよ。あとは、やっぱりエリック・コストン。MOUSEに出演している頃が一番油が乗ってる時期かもしれないですね。上手いし、勢いがあります。
「トイマシーン」が有名になるきっかけになったビデオ
ー続いても90年代のスケートビデオですか?
はい、90年代に発売したトイマシーン(Toy Machine)の『Welcome To hell』です。これはトイマシーンが有名になるきっかけになったビデオですね。
ーこのアートワークはエド・テンプルトンが描いてるんですよね?
アートワークは全部エド・テンプルトンですね。彼はアーティスト兼スケーターなんですよ。ただ、僕がこの作品の中で一番好きなスケーターは、ジェイミー・トーマスです。この当時は違うんですけど、後にゼロ スケートボード(ZERO SKATEBOARDS)というドクロマークのスケートブランドに移籍してどんどんパンクっぽいスタイルになっていくんですよ。
ースケートパンクではなく、パンクスっぽい感じですか?
全身黒い服だったり、細いパンツにダメージ加工された服だったりですね。だけどスケートはバッチバチに上手いっていう、今までとは違うスタイルを生み出した人です。実はゼロ時代にジェイミー・トーマスが好きになり、元を辿って『Welcome To hell』を買いました。
ーこのビデオの見どころは何でしょう?
映像もスケートのシーンも、今だったら絶対にやらないようなジャケットの写真も(笑)、良い意味で全てが粗いです。この頃のスケートビデオはみんな粗削りだけど勢いがありますね。
ジャケットと中身にギャップがある?ポップなスケートビデオ
ーさきほどの2作品とはまた雰囲気の違うジャケットですね。
TILT MODE ARMYの『BONUS ROUND』です。なんか変なふざけたグラフィックですよね(笑)。これはスケートショップの店員さんに「おすすめのDVDないですか?」って聞いたときに勧められて買いました。
ーネットでの紹介文には「ド変態激ウマお洒落スケートビデオ」と記載があります(笑)
うーん、お洒落なんですかね……少なくともこのジャケットからは想像できないですよね(笑)。これはTILT MODE ARMYというスケート集団の作品なんですが、実際に内容を見るとほぼ出演しているのはエンジョイ(Enjoy)のスケーターです。初めて観たときは「これEnjoyで良いんじゃないかな?」とは思いましたけど。
ー内容はどうですか?
冒頭だけ、みんな世紀末のような格好をしてパークにたむろっているというハードな内容ですが、それ以外は真面目にスケートしていて普通に面白いです(笑)。あと、実は2枚組で、過去の2作品が収録されているからお得なんですよね。スティーブ・キャバレロ、マーク・ジョンソンや、Enjoyの看板ライダーであるルイ・バレッタも出てますね。
ー先ほど90年代は映像もすべりも粗いと言われてましたが、00年代のこの作品はどうですか?
ライディングだけでなく、映像の質や切り取り方(カット)なども00年代に入ると徐々に洗練されていきます。今はギアも揃っているし、いろんな振り幅があるけど、昔はギアが少ない中でやっていたからすべり方にも粗さが合ったのかなって。粗いから悪いってわけじゃなく、どっちにも良さがありますけどね。
第二のスケート大国カナダの謎多き(?)スケートビデオ
ーこれはどこのチームのビデオですか?
カナダのスケートチームのDVDらしいんですが、調べてもあんまり情報は出ませんでした……。これもスケートショップの人におすすめされて買ったんです。映像的にはシンプルなスケートビデオで、出演しているスケーターで唯一知っていたのはスペンサー・ハミルトンくらいですね。全体的に若いスケーターが多かったです。
ーアメリカと比べて、スタイルやトリックも変わるものですか?
あんまり変わらないですね。カナダはアメリカに次ぐ、第二のスケート大国って言われてるくらいなので。まあ、今は全世界で流行ってるとは思うんですけど。広い面積の土地があって路面環境も良い国はやっぱりスケートが身近なんだとは思いますね。
ー東京にいるとなおさら思います。パークに人が集中するのもその影響ですよね。地方だともう少しマシかもしれませんが。
僕は福島出身なんですけど、地元にいた頃は工場跡地とかでやってましたね。響きだけはカッコいいけど、実際はそうでもないです(笑)
3D黎明期に発売したゴンズのスケートビデオ
ー次はゴンズの作品ですか?
皆さんご存知、マーク・ゴンザレス率いる『クルキッド(KROOKED Skateboarding)』から発売された3Dのスケートビデオです。DVDに3Dメガネが付属していて、こういう風にかけて見るっていう(笑)。
ーおお、ヤバいですね(笑)
まあ、一応2Dでも観られるんですけどね(笑)。これはスケートビデオを3Dで観られるという面白い試みというのもあって、当時発売してからすぐ買った記憶があります。
ー実際に3Dでスケートビデオを観た感想はどうでしたか?
3D黎明期の作品なので「確かに浮き出てるかな〜」くらいの感想ですね。動きが激しいので、目は疲れます(笑)。まあこの後に3D作品が続かなかったのはそういうことなのかなと……。
ー今少しだけ観せていただきましたが、3Dで見ることに集中してしまって内容があんまり入ってこないです(笑)
(笑)。内容でいうとゴンズって結構良い歳ですけど、滑りにカリスマ性があるんですよね。普通なんだけど“なんかスゴイ”って感じさせてくれる。そこは観てほしいですね。
プロスケーター主演のおふざけビデオ?
ーこれはスケートビデオじゃないですよね?
ちょっと脱線して、箸休め的な作品を持ってきました。これは当時エレメント(ELEMENT)の看板スケーターだったバム・マージェラ主演の『ビバ・ラ・バム(VIVA LA BAM)』です。簡単にいうとおふざけビデオですね。これの前身が『ジャッカス』なんですよ。
ーへえ、そうなんですね。
なんだろう、ジャッカスのローカル版というか。ものすごいお金をかけていろんなおふざけをやるのがジャッカスだとしたら、身の回りにあるものでふざけまくるのがビバ・ラ・バム。たまにバム・マージェラがスケートしているシーンはあるものの、あくまでメインはおふざけです。
ーしかも、シーズン1〜3まである人気作なんですね。
ファースト・シーズンからセカンドシーズン、サードシーズンまで全て持ってます。内容は例えば、お父さんが使っている歯磨き粉にミンチにした肉を入れるエピソードがあったり。くだらないですけど面白いです(笑)
ーどうやらサブスク等での配信はないようです。気になる方は買うしかない(笑)
ちなみにさらに前身の『CKY』っていう番組もあるので、ハマったらそちらもおすすめです。もっと若い頃のやつなので映像も古いですが。
最も有名だったランドマークの謎を紐解くドキュメンタリー
ー次で最後になります。これはスケートビデオですか?
411がプロディースするドキュメンタリー作品シリーズの一つであるON VIDEOから発売された『ON VIDEO WINTER 2004 LOVE STORY』です。2003年からこのシリーズは始まっているんですが、当時は情報源がまだ雑誌だったから、映像で情報を出すってこと自体がすごく新しかったんですよね。
ー内容はどういうものなんですか?
『LOVE STORY』というタイトルなんですけど、これはスケートボードのランドマークになっていたアメリカ・フィラデルフィアにあるラブパークのことを指しています。そのラブパークにまつわるドキュメンタリーですね。
ー西新宿のアイランドタワーにもあるロバート・インディアナの「LOVE」のオブジェが置いてある公園ですよね。
そうです、そうです。「最も有名なスポットの一つ」と言われてた場所に迫る内容になっていて、この公園が有名になった経緯から描かれています。実はフィラデルフィア市との折り合いや苦情の関係で、このパークではスケボー禁止になってしまうんですよ。その理由を過去にラブパークに関わったスケーターたちのインタビューに触れながら、紐解いていくっていう内容です。
ー歯磨き粉に肉を入れる『ビバ・ラ・バム』との内容の落差がすごい……。
割とマジメですね。ただ、スケートシーンはめちゃくちゃ出てきます。そのシーンを織り交ぜながらドキュメンタリーとして描かれているって感じですね。本当にオムニバスというか、いろんな人たちがブランドの垣根を超えて出演しています。
ー確かにゴンズやスティーブ・ウィリアムズなど、出演陣は豪華ですよね。
もちろん僕はラブパークには行ったことはないんですけど、路面、カーブ、レッチ、ステア……スケートにとって必要なものが全て揃ってるって言われるくらいに環境が良かったらしいんですよね。ここ出身のスケーターも多いですし。
ーなぜスケート禁止になってしまったんですか?
要約するとスケーターが大勢集まると、公園の施設とかも破壊しちゃったりするんで、それに伴ってどんどん苦情が増え、スケート禁止になったと。ただ、スケーターがいなくなった結果、その公園には浮浪者がたむろするようになって、治安は逆に悪くなったっていう皮肉も語られてたりします。その頃は周りのスケートショップも潤っていて、街に活気があったみたいですね。
スポットを守るために自分たちで動くことが大切
ー今日紹介してもらったビデオは紹介された順に見ていくと良さそうですね。
一応、起承転結を意識してみました(笑)。スケートボードが有名になったので今から始めるという人も多いと思うんですけど、今回紹介したビデオのようにストリートを滑っているのは確かにカッコいいし、マネしたくなるんです。ただ、みんながそうやってしまうと最後のラブストーリーのように、自分が使っている公園とかもいつか閉鎖になる危険性があるというのを知ってほしいなって。
ー最低限のルールは守らないといけないですもんね。
常に市の人たちとの折り合いをつけるというか。僕が行ってるスケートパークですら、ちょこちょこ苦情があるんですよ。「上半身裸になってる人がいる」とか(笑)。目くじら立てて言われてるな、と感じることもたしかにあるんですけど、それはそれとして苦情を出すってことはそれを嫌だと思っている人がいるってことなので。僕らでも周りにそういう人がいたら注意しようねってことにしています。自分のできる範囲のところでしかできないけど、少しずつ改善していかないと最終的に困るのは僕らですからね。
ーできる場所は限られているけど、やりたい人は増えている。その状況でいかに上手くやっていくかですよね。
苦情とは切っても切り離せないと思うので、そことどう向き合っていくのか。そういう意味でも最後の『ラブストーリー』は絶対に観た方がいいなって思います。こういうことにスポットライトをあててるDVDって他にないですからね。
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