『WAVES/ウェイブス』の映画音楽は超豪華。
楽曲を提供した歌手、オリジナル・スコアは誰が書いたのか?
映画で使われた音楽とその見どころ、聴きどころをたっぷりお伝えします。
青春映画に新風を吹き込んだトレイ・エドワード・シュルツ監督の意欲作。
『WAVES/ウェイブス』が語る青春の光と影。
挫折と再生を映し出した音楽。
そのパワーはいかほど?知らない楽曲やアーティストが多い貴方も満足する事請け合いだ。
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制作時から音楽を意識した映画『WAVES/ウェイブス』
『WAVES/ウェイブス』は、監督・脚本のトレイ・エドワード・シュルツが実に10年にもわたって温めてきた映画だ。
制作にあたっては、まず楽曲の選定から入り、曲の歌詞と登場人物の心情がリンクするように台本は作られている。
手法はミュージカルとも近いが、この映画では登場人物たちが歌うのではなく、あくまでも散りばめられた名曲の数々からインスパイアされた監督が、独自の目線で登場人物の気持ちを語っている。
個性的で斬新。31曲ものプレイリストによるかつてない『プレイリスト・ムービー』だ。
その顔ぶれはのちにご説明するが、とても豪華。
サントラ盤が楽しみである。
また撮影方法や映画の構成も個性的で見る者の目をとらえて離さないハズ。
その内容を音楽にテーマに切り取っていこう。
香港映画『恋する惑星』にヒントを得た2部構成
まずは、この映画の制作にあたって監督がイメージしたのが、W・カーウァイ監督の94年の香港映画『恋する惑星』。
『WAVES/ウェイブス』でも『恋する惑星』の中で印象的に使われている、ダイナ・ワシントンの「What a Difference a Day Makes」が流れるシーンがある。
「初めてウォン・カーウァイの『恋する惑星』を見て、この曲が流れた時を覚えている。
僕は恋に落ちた。
あの映画に対するオマージュであり、子供時代を懐かしく思う気持ちの表現でもある。
映画は次第に盛り上がっていき、タイラーの生活と物語が始まった翌日で、教会にいて家族の生活がもっと分かり始める。
歌詞は後に映画の中でつらい意味を帯びる一方、希望にあふれてもいる。
たった1つの過ちが人生を永遠に変えてしまうこともあるが、新たな癒しの日は必ずやって来る。
このシーンを撮影した後、タイラー役のケルヴィンが家に帰ると、実の母親がこの曲を歌い始めた。
彼が幼い頃、彼女はいつも彼にこの歌を歌いかけていたのだという。
運命を感じたよ。」
とは、監督の弁。
『プレイリスト・ムービー』と呼ばれる映画
フランク・オーシャン、ケンドリック・ラマー、カニエ・ウェスト、レディオヘッド等、今の音楽シーンを代表するミュージシャンたちによる名曲のプレイリスト。
そこから生み出された感情の数々が観る者の目をくぎ付けにする、ミュージカルを超えた『プレイリスト・ムービー』だ。
まさに現代のアメリカの若い才能たちによる魅力が結集した青春映画。
今まであったようで、無かった作品といえる。
若者に悩みは付き物だが、それを音楽の力によって浮き彫りにする。
全編を音楽の力で引っ張っていくのが感情移入しやすく、登場人物の心情は、より鮮やかだ。
エモーショナルな描写が非常に印象的で青春映画に新たなジャンルを確立した、と言っても過言ではないだろう。
映画の主題歌・挿入歌は誰が歌ってる?
この映画の主役は音楽だ。
トレイ・エドワード・シュルツ監督が選出した名曲は映画そのものとなってキャラクターたちの心情を訴えかけてくる。
中でも特に監督のお気に入りだと思われるのは、5曲も使用されている、フランク・オーシャンの楽曲たちだ。
監督は、「脚本を書く前から、プレイリストを作ったり、脚本に曲の歌詞を書き込んだりした。
というのも、歌詞が物語が進む方向やキャラクターの感情を説明してくれるからね。
フランク・オーシャンは大好きなアーティストで、『イット・カムズ・アット・ナイト』の制作中にリリースされた「Blonde」は史上最高の一枚。
アルバムをノンストップで聴きながら映画を作っていたんだ」と語っている。
具体的な歌手名・楽曲は?
劇中で使用される31曲のプレイリストはこんな感じ。
1. FloriDada
2. Bluish
3. Loch Raven (Live) アニマル・コレクティヴ
4. Be Above It
5. Be Above It (LIVE)
6. Be Above It (Erol Alkan Rework) テーム・インパラ
7. Mitsubishi Sony
8. Rushes
9. Sideways
10. Florida
11. Rushes (Bass Guitar Layer)
12. Seigfried フランク・オーシャン
13. What a Difference a Day Makes ダイナ・ワシントン
14. La Linda Luna ケルヴィン・ハリソン・Jr.
15. Lvl エイサップ・ロッキー
16. Backseat Freestyle ケンドリック・ラマー
17. America ザ・シューズ
18. Focus H.E.R.
19. IFHY (feat.Pharrell) タイラー・ザ・クリエイター
20. Surf Solar ファック・ボタンズ
21. Love is a Losing Game エイミー・ワインハウス
22. I Am a God カニエ・ウェスト
23. U-Rite
24. U-Rite (Louis Futon Remix) THEY.
25. Ghost キッド・カディ
26. The Stars In His Head (Dark Lights Remix) コリン・ステットソン
27. Moonlight Serenade グレン・ミラー
28. How Great (feat. Jay Electronica and My Cousin Nicole) チャンス・ザ・ラッパー
29. Pretty Little Birds (feat. Isaiah Rashad) SZA
30. True Love Waits レディオヘッド
31. Sound & Color アラバマ・シェイクス
アカデミー賞を受賞した作曲家コンビによるオリジナル音楽
音楽ユニット、ナイン・インチ・ネイルズのトレント・レズナーとアッティカス・ロスが映画音楽の仕事を始めたのは、デヴィッド・フィンチャー監督の『ソーシャル・ネットワーク』(10)が初めて。
同作品で見事アカデミー作曲賞を受賞した。
シュルツ監督は10代の頃、ナイン・インチ・ネイルズのファンだったことからオリジナル・スコアを依頼。
また、レズナーも監督の『イット・カムズ・アット・ナイト』を観てすでに知っていて、シュルツは一緒に仕事をしたい監督のリストに入っていたという。
レズナーとロスは、映画に登場する様々な効果音や役者の音声をサンプリングした素材をもとに独創的なサウンドを制作。
あえてメロディーを強調しない音楽が、登場人物の感情の動きを巧みに浮かび上がらせている。
登場人物の心の声を語る音楽たち
映画は、監督が選曲した音楽に乗せて登場人物たちの心を映し出してゆく。
音楽を愛するシュルツは、当初から『WAVES/ウェイブス』を『ブギーナイツ』や『グッドフェローズ』のように、音楽が重要な意味を持つ物語だと考えていた。
彼らは苦しみを乗り越え、大人になるに従って、人生は最悪の状態で終わるわけではないことに気づいてゆく。
兄・タイラーの栄光と挫折。
妹・エミリーの愛と癒し。
人生は続く。
そして、自分や自分が愛する人はともに成長して、お互いを癒すことができる。
どのような曲にのせてそれが綴られているのであろう。
ここでは兄・タイラーの場合と、妹・エミリーの場合に分けてどのような曲目をどのような場面で監督は選択しているのか、具体的な例を挙げて解説していこうと思う。
第1部 兄・タイラーの場合
テーム・インパラ「Be Above It」 インスト・バージョンを映画の序章で使用している。
エイサップ・ロッキー「Lvl」 タイラーの人生が永遠に変わってしまう直前、MRIの中でこの曲のビートが、映像とシンクロをなしてゆく。
オリジナル曲「Bad News」 MRIの検査結果を聞いた直後、タイラーがすぐ不安に襲われるシーンで最初に聞こえてくる曲。
ピアノもこの曲の重要な要素。
タイラーの本音と感情の内なる戦いを明らかにしている。
オリジナル曲「Odds Against」 「Bad News」が終わると、タイラーと父親のシーンに。
両親からの期待は、成功せねばという乗り越えられないプレッシャーとなってタイラーを苦しめる。
フランク・オーシャン「Rushes」 人間関係の浮き沈みを描いていた楽曲で、タイラーとアレクシスが水の中にいるシーンで使われている。
映画の後半で起きることを映す鏡としても、この曲は使用されている。
ケンドリック・ラマー「Backseat Freestyle」 タイラーが反発し苦しみから逃れようとする瞬間に流れる。
とてもマッチしている。
オリジナル曲「Everything Burns」 このトラックはタイラーの苦悩と後悔を浮き彫りにしている。
関係が壊れ始め、彼は失われた愛を夢に見ている。
タイラーとアレクシスの(焚火の)炎の中のショットで使われる、このテーマはあと2回繰り返され、極めて重要な喪失と苦痛の瞬間にも流れる。
水は映画の大事な要素であり、キャラクターたちの気持ちが通じ合う瞬間は水の中か水辺にいる。
これは視覚的に破壊を示す炎と対照をなす。
オリジナル曲「The Light Shines Through」 この曲は、映画の中で初めてタイラーが本当に精神的に打ちのめされる時に流れる。
ピアノが奏でるテーマは映画の要、苦しみの先にある美しさ、そして癒やしてくれる誰かに出会う事を描いていく。
第2部 妹・エミリーの場合
エイミー・ワインハウス「Love is a Losing Game」 兄タイラーから妹エミリーの視点へと変わる時に流れる。
オリジナル曲「Wounds Heal」 このトラックはエミリーの心の状態、つまり隔絶と深い苦悩を表現している。
ここで使われるピアノのテーマは、乗り越えようとする彼女の精神を表す。
深い悲しみに暮れていても、この映画は新たな始まりを迎える。
オリジナル曲「How to Begin」 新しい出会いに慎重なエミリーの心情を映し出した曲。
彼女の好奇心旺盛だが警戒心の強さを物語っている。
ダイナ・ワシントン「What a Difference a Day Makes」 ダイナーで使われるこの曲に勇気づけられてエミリーは心を開いてゆく。
アニマル・コレクティヴ「Loch Raven (Live)」 “僕は君を見捨てない”のフレーズが印象的。
愛を探し求め新しい事を始めることは、本当にすばらしい経験である。
映画でライブ・バージョンを使うのは、より鮮明に感じられるからだとか。
SZA「Pretty Little Birds (feat. Isaiah Rashad)」 全てから解放され楽しみを享受するエミリーが、車の窓から身を乗り出すシーンに使われている。
フランク・オーシャン「Seigfried」 映画の冒頭の一場面である若い恋のメタファーを再現している。
エミリーとルーク、タイラーとアレクシス…。
オリジナル曲「Leaving Missouri」 エミリーの内面に起きたことを説明する上で重要な曲。
彼女は再び死のそばにいるが、今回、死は許しと結びついている。
エミリーはずっと苦しんできた。
だが彼女は兄を許し、自分自身を許す。
1つの家族は終わりを迎えるが、その状況を変えるのに遅すぎることはない。
アラバマ・シェイクス「Sound & Color」 映画でラストに流れるこの曲は、エミリーの旅立ちを祝福している。
彼女は希望を持って、癒しと新たな始まりに向かって進む。
音楽が主役の映画+まとめ
映画音楽に名作は数あるが、この作品もサントラ盤が聞きたくなる名作の一つだ。
監督の個人的な青春の思い出もフィーチャーされている為、各曲に対する思い入れが深く、より曲を理解して使用されているように感じる。
この映画を通じて、今まで知らなかったアーティストに興味を持つのも面白いかも。
役者が歌わないミュージカル、『プレイリスト・ムービー』。
たしかW・カーファイ監督の『恋する惑星』も音楽と映像が印象的な作品だった。
監督の好奇心が詰まった野心的な本作は、31曲の名曲と共に人々の心に鮮やかに写るだろう。
それでは、記事を最後まで読んで下さり、ありがとうございました。