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日本の彩色済み完成品フィギュアは、アニメやマンガと並ぶジャパンカルチャーとして世界中で愛されています。

そして2021年6月には、ついに1/7スケールフィギュアを題材にしたスマートフォン向けRPG『フィギュアストーリー』まで登場!


フィギュアの扱いや本編に登場するパッケージアートが「フィギュアあるある」なのはもちろん、世界最大の国内ガレージキットイベント「ワンダーフェスティバル」に参加するなど、フィギュア業界の盛り上げにも熱心な作品です。

そんな1/7スケールフィギュアの世界ですが、それらフィギュアがどのように企画制作されているかご存知でしょうか?

知りたい……知りたいぞ!ということで、インサイド編集部は『フィギュアストーリー』とともに「大人の社会科見学」を企画! フィギュアの企画・制作をひと通り行っている株式会社ウイングさんに協力いただき、制作現場の裏側を取材させてもらいました!

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▲『フィギュアストーリー』に登場するキャラクターたち。全員1/7スケール彩色済みフィギュアで、人間の見ていないところで自由に遊び回ります。

[取材=気賀沢昌志、沖本茂義、竹下佳歩、文=気賀沢昌志、写真=小原聡太]

そもそもフィギュアはどんな流れでつくられる?

株式会社ウイングさんは、主に1/7スケールの美少女フィギュアを手がけるほか、自社ブランドの「フレイムトイズ」で『トランスフォーマー』シリーズの非変形プラモデルやアクションフィギュアなどもリリースするフィギュアメーカーさんです。

▲ウイングさんの商品の一部がこちら! 一口に「フィギュア」と言っても、ポーズ固定の彩色済みフィギュア、可動が売りのアクション・フィギュア、「彫像」を意味するアート志向のスタチューなど種類は様々。その中でも今回は、ファンにとってもっともメジャーな「1/7スケール彩色済みフィギュア」にスポットを当てます。 

▲フレイムトイズの『トランスフォーマー』アクションフィギュア。変形をオミットし、スタイルの見栄えの良さにこだわったことでファンの注目を集めています。

――本日はよろしくお願いします! いろいろ勉強させてください!

宇田川:こちらこそ、ようこそいらっしゃいました。

▲編集部・竹下は、幼少期はフィギュアに親しんだものの、フィギュア制作については知識がほとんどなく何もかもが新鮮。

全体の工程について話をうかがったのは、企画・開発マネージャーの宇田川正輝さんと販促企画・営業の米田崇人さん。各工程(原型制作、3D出力、彩色)については、この取材の後に改めて現場のスタッフにお話をうかがいます。

▲企画・開発マネージャーの宇田川正輝さん。前職で原型師と話をする機会があり、その時に骨格や筋肉まで計算するその仕事ぶりに触れ、彩色済みフィギュアの魅力を知りました。商品開発でも細部にまでこだわったフィギュアを多く企画しているようです。

▲販促企画・営業の米田崇人さん。2000年初期の『電車男』ブームで「秋葉原オタク文化」を知り、同じ趣味嗜好を持つ人が世の中にいることを実感し、フィギュア業界をめざすきっかけになりました。現在はおもにフレイムトイズの宣伝やディレクションを担当しています。

そもそもフィギュアはどのような流れを経てつくられるのでしょうか?
というわけで、企画が立ち上がってから工場で商品が量産されるまでのおおまかな工程を図にしてみました。

今回の取材では、「企画」「原型制作」「3D出力」「彩色」の4つの段階で、それぞれのスタッフに取材をさせていただきます!

▲全体のおおまかな作業工程を表した図がこちら

――「3D出力」という、ちょっと気になる工程がありますね。それを含め、フィギュアが完成するまでの流れを教えて下さい。

宇田川:まずは企画からスタートします。弊社は基本的に企画担当者が好きな作品または好きなキャラクターを積極的に企画しているんですよ。完成まで1年半から2年はかかるプロジェクトですからね。

――なるほど。そこからどのように制作がはじまるのですか?

宇田川:キャラクターが決まったら権利元に企画を提出し、許可をもらってはじめて制作に入ります。権利元との交渉ではイラストなどを使いながらポーズや具体的なイメージを共有していきます。


――人気作品のキャラクターなどは、他社からもフィギュア化企画が権利元に持ち込まれそうですね。企画がバッティングした際はどうするのですか?

宇田川:基本的には「早い者勝ち」ですね。先に申請したメーカーさんの企画が尊重されることが多いです。

企画が決まったら原型制作です。作業は大まかに2パターンあり、原型師さんが彫刻を作るように手作業で制作する「手原型」で進めるか、3Dのモデリングで原型のデータを作ってから3Dプリンターで出力する「デジタル原型」か、どちらかの方法で原型を完成させます。

▲原型の状態のフィギュア。デジタルで原型制作した場合は3Dプリンターで出力することになります。

――昔はすべて「手原型」だったものが、現在は「デジタル造形」が主流だとうかがっています。

宇田川:弊社でも9割がデジタルですね。デジタルの方が細かく作り込めたり、サイズを拡大縮小しなければならない時にやりやすかったり、地方在住の原型師さんの場合はデータを送ってもらうだけで済んだりするので、作業のしやすい環境だと思います。

▲後に詳しくお聞きする「デジタル造形」の作業風景。

――なるほど。

宇田川:原型が完成したら、その段階で一度、権利元さんにチェックをしてもらい、OKが出たら彩色に移ります。

――そのままエアブラシでシュシュッと。

宇田川:いえ。よく勘違いされるところですが、実は原型に直接色を塗るわけではないんです。

――そうなんですか!?

宇田川:なにしろ原型はアクリル樹脂だったり「ファンド」と呼ばれる粘土素材だったり、油が出る素材を使用しているので、そのままでは色が乗らないんです。そこでシリコン型を作り、「シリコン反転」して真っ白な状態の着彩用の原型をもうひとつ別に作るんです。

――その段階でオリジナルの原型と彩色用の原型の2つができるわけですね。

宇田川:そうです。複製した原型はそこから色見本用の原型になり、オリジナルの原型は中国の工場に送られて生産用の調整として使われることになります。ここから2つのルートに分かれて、それぞれで作業が進められるわけです。

▲彩色した状態の原型(色見本とも言います)。

……ということで、原型の複製に使われた実際のシリコン型と、複製したばかりの原型を見せてもらいました。

なお原型は量産しやすいよう、組立前のプラモデルのように細かくパーツ分割されて作業が進められます。

▲寒天のような半透明のブロックがシリコンの型。まずはシリコンでパーツの型を取り、完成したシリコン型にキャスト素材を流し込みます。流し込んだキャストが固まったら、取り出して洗浄したりヤスリがけしたりして色が乗りやすいよう処理します。

▲シリコン型からパーツを取り出す際は、このようにしっかり合わせ目が合うように型そのものを切ります。

▲取り出したばかりのパーツ(左)と彩色用のパーツ(右)。取り出したばかりのパーツはキャストの流し込み口に突起が残ってしまうので、それを削るなどして整えます。

――ガレージキットと呼ばれる、いわゆる一般的な同人模型はこの状態のものを言うんですよね。個人で制作した立体物を複製し、取り出したパーツをそのまま箱に詰めて販売する。塗装済みフィギュアはそこからさらに組み立てと彩色をおこなったものであると。

宇田川:そうですね。そうやって複製したパーツに彩色をして、彩色見本として完成したものを「デコレーション・マスター」と呼びます。いわゆる「デコマス」です。


ここでひとつ疑問が湧いてきます。
原型の複製でシリコンが使われているなら、工場の量産でもやはりシリコンが使われているのではないでしょうか。

ところが宇田川さんによると、シリコンで複製できるのはわずか数体が限界。しかもその都度、シリコン型を割いて取り出して、割いて取り出して……とやらなければなりません。そのため工場では「金型」と呼ばれる金属製の型を使い量産しているそうです。

▲実際の金型。ちなみにフィギュア用のものではありません。ホビー業界に限らず、さまざまなものが専用の金型を使って量産されます。

▲半分に割れた金型をひとつに合わせ、注ぎ口からABS樹脂などを流し込んで量産します。ちなみにABS樹脂とはフィギュアやプラモデルなどで広く使われているプラスチック性樹脂のこと。加工しやすく強度に優れた合成素材です。

工場で彩色をする際は、工員ひとりひとりがパーツの決まった部分を流れ作業でペイントするそうです。100箇所の彩色ポイントがあれば100人が分担してひとつのフィギュアを仕上げるわけです。

単純にシュッと塗料を吹き付ける部分、「マスク」と呼ばれる金属の型を当てて、はみ出さないようにしてからシュッと吹き付ける部分、文字や細かい模様は機械で印刷することもあります。


――デコマスが完成した後はどのような形で進むのですか?

宇田川:デコマスを権利元にチェックしてもらい、OKが出れば予約を開始したり、そのデコマスをもとに工場で商品を彩色したりします。
さらに予約期間中は、そのデコマスをイベントに出展して販促をします。そうやって発売日を迎えるんです。

――ちなみに予約は大事ですか?

宇田川:大事です。それでおおよその生産数が決まります。

――発売日にフラッと行って買える感じではなさそうですね。

宇田川:昨今は完全受注生産のパターンが多いですね。店頭に並ぶことの方が多いですが、中には並ばないものも結構あります。予約をしたほうが確実ですよ。

――今後はちゃんと予約します……!

企画担当者の「こだわり」はここ!

――企画を立てるにあたり、こだわっているポイントはどの部分ですか?

宇田川:そのキャラクターに似ているのはもちろんのこと、ポージングや雰囲気も大事にしています。それと、元は2次元とはいえ人間なので、骨格や筋肉、脂肪の付きかたを意識しながら、原型師さんと「この子の筋肉のつきかたは」とか「どういう骨格で、どういうところに脂肪がついていて……」という話はよくしますね。


――米田さんは『トランスフォーマー』など非美少女系の商品をリリースする「フレイムトイズ」のご担当ですよね。美少女フィギュアとはまた違う視点があるかと思いますがいかがでしょうか?

米田:ロボットフィギュアなので可動はもちろんですが造形にもこだわりがあり、フレイムトイズ独自の可動ギミックや造形を追求して制作しています。

――非変形ならではのスタイルの良さにフィギュアメーカーらしさを感じます。可変トイだと、どうしても変形機構の都合上、可動が制限されたりプロポーションが犠牲になったりすることもありますからね。

米田:そうですね。フレイトイズの場合はまずS字立ちでかっこよく見えるロボットフィギュアを基本コンセプトにしているので、動かした場合でもきちんとポーズが決まるよう緻密に計算し設計しています。

――S字立ちというのは?

米田:説明が難しいのですが、背骨を湾曲させ腰を前に突き出し、真横から見ると「S」の字を描くような立ち方ですね。

▲「S字立ち」でディスプレイされた『トランスフォーマー』の完成品アクションフィギュア。

――他社製品を見る時は、やはり企画者の視点で見てしまうものなのですか?

宇田川:「こういう表現方法があったのか……」とか「こういう解釈か」というのはあります。羨ましくもあり、悔しくもありますよ。自分の企画では100%のものをお出ししているつもりでも、他社製品を見るとどうしても考えてしまいます。
この業界で12~13年になりますが、純粋にフィギュアが楽しめなくなっていますね(笑)。


→次のページでは「原型」「3D出力」の2つの作業に注目!