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 サラリーマンの秋~年末の風物詩、「年末調整」がやってきた。読者のお手元には生命保険会社から保険料控除の証明書が届いているだろう。年末調整の期間は長く、お勤めの会社によって、早い人は10月下旬、最も多いのが11月中旬、遅めの人は12月上旬と1カ月半ほど差がある。一般的に社員数の多い会社は早め、少ない会社は遅めとなるが、大企業は社内システムに組み込まれ、前年のデータが引き継げるので楽になったという声も多い。

 とはいえ、毎年SNSでは「分からん」「面倒くさい」「ハガキ(控除証明書)がない」「期限過ぎた」など悲痛なコメントが多いのは事実。ここでは「書き方が分からん」を解決、「期限を過ぎた」ときの対応策、面倒な生命保険料控除を超簡単に計算するツールの紹介など、年末調整の書き方を3回に分けて図解で詳しく説明しよう。年末調整、源泉徴収票、確定申告と、これから春に向けて税金の話題が増える時期なの、で少し税に関心を持っていただきたい。

 初回は3つの申告書の記入例と「令和3年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」の書き方を見ていこう。

3枚の申告書の記入例

 「詳しい解説よりも記入例だけ見たい」という人向けに、今回は最初に3枚の申告書の記入例を紹介しよう。 「令和3年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」「令和3年分 給与所得者の保険料控除申告書」「令和4年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」 の3枚の申告書の記入例は以下のとおり。収入から所得を算出する方法など、記入例だけでは理解しづらい部分もあるが、急ぐ人は参考にしていただきたい。

「令和3年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」の記入例

「令和3年分 給与所得者の保険料控除申告書」の記入例1

「令和3年分 給与所得者の保険料控除申告書」の記入例2

「令和4年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」の記入例

「キーボードで入力したい」人は申告書の入力用ファイル(PDF)を活用しよう

 筆者は手書きが苦手で、普段からできればキーボード入力したいと思っている。INTERNET Watchの読者は同様な人がいるだろう。そういう人は、年末調整の申告書の入力用ファイル(PDF)を国税庁のサイトからダウンロードしていただきたい。会社が入力用ファイルの利用を認めてくれるかは要相談だが、名前や住所などコピー&ペーストができる部分もあり、毎年同じ記入内容は翌年コピー&ペーストできるので効率アップが可能だ。

「令和3年分 給与所得者の保険料控除申告書」入力用PDFファイルの画面

 余談だが、かつて保険会社の名称が長くて手書きで記入が困難と言われた「損保ジャパン日本興亜ひまわり生命保険」(現:SOMPOひまわり生命保険)も、このPDFでは自動的に文字が小さくなり記入可能だ。

年末調整とは

 年末調整とは、サラリーマンなど給与所得者が、その年の所得税(復興特別所得税を含む)を調整・精算する制度だ。給与の支払者(会社)は、年末に従業員のその年の所得が確定した時点で算出した正しい所得税額と、毎月の給与および賞与から“みなし”で源泉徴収(天引き)した納付済みの所得税額を計算し、所得税の過不足を12月の給与で還付または追加徴収をして調整・精算を行う。

 所得税は「令和3年分 源泉徴収税額表」により毎月の給与の額から算出され、“みなし金額”がその月に納税されている。サラリーマンは毎月の給与明細を見ると、所得税と住民税が天引きされているはずだ。12月の給与額が決まると年収が確定する。そこから給与所得控除が引かれ、個人個人の配偶者控除、扶養控除、生命保険料控除などが引かれ、最終的な納税額が決まる仕組みだ。会社は社員それぞれの扶養家族の状況や支払った保険料を知る必用があるため、12月の給料日前に社員は年末調整の申告書を提出する。

「令和3年分 源泉徴収税額表」で社会保険料等控除後の給与が30万円の場合、独身(扶養親族0人)なら、その月は所得税8420円が天引きされる

 付け加えると、所得税は12月に納税が完了し、その結果は住民票を置く市区町村に送られて住民税の額が決定、翌年6月から翌々年5月まで天引きされる。

所得税は毎月天引きされ12月に納税が完了、住民税は翌年から納税する

サラリーマンの所得税の計算方法

 年末調整の申告書を記入する際「所得」を計算する必要がある。簡単にサラリーマンの所得税の計算方法を説明しておこう。

 計算式は下の図のとおり。1行目の左が年収(給与の収入金額)。その右の給与所得控除は一定式で決まっていて、差し引いたのが右側の所得(給与所得)と呼ばれるもの。2行目は、その所得から配偶者控除、扶養控除、生命保険料控除など各種所得控除が引かれ、課税所得が算出される。課税所得に、それに応じた税率を掛けると納税額が決まる。

 2行目の各種所得控除は人により異なる。「専業主婦の奥さんがいる」「大学生の子がいる」「生命保険に加入している」など、差し引かれる(控除される)金額が多くなると納税額が減る仕組みだ。家族構成や生命保険などを年末調整で記入することは税金を減らす作業だと理解しよう。

サラリーマンの所得税の計算式

 会社は個人の控除額の算出に際し、扶養する配偶者の所得や親・子など扶養する家族の年齢・所得、支払った生命保険の内容と金額を知る必要があり、社員は年末調整の申告書を提出しなければならない。一般的に、毎月天引きされる“みなし金額”の所得税額はやや多めで、年末調整により12月の所得税は少なくなり(あるいは還付され)、少し手取り金額が多くなる傾向がある。

今年の変更点は?

 昨年(2020年)は前年から申告書のフォーマットが大幅に変更されたが、今年(2021年)は大きな変更はない。最大の変更点は押印が不要になったことだ。国税庁の解説ページに飛ぶQRコードが追加されるなど微妙なレイアウトの変更はあるが、記入欄は昨年と同じだ。「住宅ローン控除申告書」が電子化の対象になるなどの変更もあるが、多くの人は昨年とほぼ同じ内容を記入することとなる。昨年記入した申告書のコピーやスマホで撮った写真があれば、それを見て記入すれば楽になる。

「給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」はほぼ同じ

「給与所得者の保険料控除申告書」もほぼ同じ

「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」もほぼ同じ

「令和3年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」の書き方

 昨年から登場した「令和○○年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」という、ウルトラスーパーアホみたいに長い名称の申告書から見ていこう。

 名前が長い理由は「基礎控除申告書」「配偶者控除等申告書」「所得金額調整控除申告書」の3つの申告書が1枚に収められているからだ。大きく分類すると3つだが、記入作業で見ると6つのブロックに分けられる。

「令和3年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」は6つのブロックに分けられる

 上段は会社名や自分の氏名、住所などを記入する欄。この申告書の主役は中段の4ブロックで、左側が自分の所得と基礎控除、右側は上から順に配偶者の情報、配偶者の所得、配偶者控除となっている。下段は昨年・令和2年から新設された「所得金額調整控除」だ。

 昨年はフォーマットが新しくなったことに加え、「収入金額」「所得金額」の文字に、多くの人が「収入金額? 所得金額? どう違うの? どいうこと?」と頭を悩ませたようだ。分かりにくい中段の主役部分の記入の流れを下図で説明しよう。

主役である中段の記入の流れ

 ①に年収を記入し、年収から所得を計算する。ここが年末調整の天王山なので、記入・計算(・手抜きする)方法はあとで説明しよう。②に所得を記入。大半の人は900万円以下となるので、③の「基礎控除の額」は48万円と記入。④の判定にAと記入する。

 ⑤に配偶者の年収を記入する。パート勤めであれば103万円以下の人が多いと思われる。⑥に55万円を引いた額を記入する。⑤が103万円なら⑥は48万円となる。判定は「48万円以下かつ年齢70歳未満」となる人が多いはずだ。⑦に判定結果を記入し、縦軸の区分Iが「A」、横軸の区分IIが「②」なら金額は38万円。下段の適用が「配偶者控除」なので、右側の⑧「配偶者控除の額」の蘭に38万円と記入する。

年収から所得金額を算出する方法=適当でいいんじゃね

 各欄を細かく見ていこう。中段の左側は自分の年収から所得を算出し、区分と基礎控除の額を求める欄だ。真面目に記入しようとすると面倒な計算が必用だが、所得900万円以下=年収1095万円以下の人は区分A、基礎控除の額は48万円となるので、大半のサラリーマンは「区分A、基礎控除の額は48万円」と計算する前から決まっている。

 「以上」、で終わらせたいが、不毛な説明をしよう。まず知りたいのは今年の年収。まだ11月の給与、ボーナス、12月の給与をもらっていないので、残業代などで毎月の給与が変動する人は年収を正確に把握するのは難しい。とはいえ「年収1095万円以下」の人は区分は決まっているので、実際の年収と記入する年収に100万円の差異があっても問題はないので、ザックリとした予想で年収を記入しよう。

 もし1月の給与と一緒に受け取った源泉徴収票がすぐに見つかる人はこれを参考にしよう。前年の年収と所得が記載されているので、そのまま書き写すもよし、年収を多少増減させて記入するもよし、それらしい額を記入しよう。

 源泉徴収票も毎月の給与明細もすぐには見つからない人はどうするか。一般的に毎月の給与は支給額から所得税、住民税、社会保険料が引かれるので手取りは2~3割少なくなる。通勤手当が加算され、ボーナスは企業の業績などにより変動するが、100万円の差異が気にならない人は「手取り額の15~20倍」=年収としよう。

 このあとの計算を考慮すると、年収はできるだけ細かな数字を避けたい。年収458万2530円よりは460万円、あるいは500万円と記入した方が所得の算出は楽になる。年収400万円の人が800万円と記入しても問題はないが、総務や経理の担当者が見たときにクスッと笑うかもしれないし、几帳面な担当者は確認に来るかもしれない。

 年収が決まったら、次は所得の算出だ。いくつか方法はあるので、不毛な順に紹介しよう(笑)。年収から「所得金額」を計算するのは真面目にやると微妙に面倒くさい。「令和3年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者……」と長い名称の申告書の裏に、収入金額から所得金額を計算する方法が記載されている。

 年収を11段階に区分してそれぞれの計算方法が記載されている。そもそも正確な年収を把握するのが困難な時点で161万9000円、162万円、162万2000円、162万4000円……と細かく区分して多くの国民に不毛な計算を強いるのは、律儀なのか几帳面なのか生真面目なのかアホなのか理解しがたい。できればこの方法はスルーしたい。

 年収660万円未満の人は「令和3年分の年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」を利用する方法がある。例えば年収650万円の人は「650万円以上650万4000円未満」の右側の記載された476万円が所得金額となる。

 お勧めなのは国税庁の給与所得控除のサイトの下段にある給与収入から所得を計算するサービスだ。これなら年収の金額が1円単位まで細かくなっていても、サクッと所得が計算できる。

年収を入力して[計算する]をクリックすると所得金額が表示される

 それほど難しい計算でないのに「計算結果はあくまでも、目安としてご利用ください」という弱気な記述は気になるが、簡単に年収から所得を算出することができる。

 最後に筆者が最もお勧めするのは、年収を100万円単位で以下の表から選び、右側の所得をそのまま記入する方法だ。これなら数秒で作業が完了する。

 中段右側の「給与所得者の配偶者控除等申告書」の配偶者の収入金額(年収)と所得金額も同様の手順で記入しよう。「年末調整等のための給与所得控除後の給与等の金額の表」か国税庁の計算サービスを利用すれば、簡単に年収から所得金額を算出できる。

 もし配偶者がパート勤めで年収を103万円以下に調整しているなら所得金額は48万円以下となる。年齢が70歳未満なら判定は「48万円以下かつ年齢70歳未満=②」となる。配偶者が正社員で働いていて年収が201万6000円以上なら配偶者(特別)控除を受けることはできない。

 左側の区分IがA、右側の区分IIが②となったら適用が「配偶者控除」なので、下段の表の該当欄の金額38万円を右側の「配偶者控除の額」に記入すると完成となる。

「令和3年分 給与所得者の基礎控除申告書 兼 配偶者控除等申告書 兼 所得金額調整控除申告書」の記入例

年収850万円を超える人は「所得金額調整控除」

 最下段の「所得金額調整控除申告書」は注意書きに「収入金額が850万円以下の場合は、記入する必用がありません」とあるように、年収850万円以下の人はスルーしよう。

 年収が850万円を超え、自分自身、配偶者、扶養親族に特別障害者がいる人や、平成11年1月2日以降に生まれた23歳未満の子がいる人は、この「所得金額調整控除」が受けられるので記入しよう。

 この「所得金額調整控除」は注意する点がある。この控除で興味深いのは、旦那さんも奥さんも年収が850万円を超える場合、旦那さんも奥さんも控除が受けられることだ。国税庁の「所得金額調整控除」の記載をそのまま引用すると、「この控除は、扶養控除と異なり、同一生計内のいずれか一方のみの所得者に適用するという制限がありません。したがって、例えば、夫婦ともに給与等の収入金額が850万円を超えており、夫婦の間に1人の年齢23歳未満の扶養親族である子がいるような場合には、その夫婦双方が、この控除の適用を受けることができます」。

 以上で「令和3年分 給与所得者の……(中略)……申告書」の記入は全て完了となる。年収1095万円以下で「適当でいいんじゃね」と割り切れる人はあっと言う間に終了だ。

 初回はここまで。次回は「令和3年分 給与所得者の保険料控除申告書」の記入方法を、生命保険料控除を簡単に計算するツールの紹介などしつつ解説しよう。