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Vol.108-3

 

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はAmazonの自律走行ロボット「Astro」の立ち位置を、家庭用ロボットの歴史から紐解いていく。

↑Astro

 

家庭用ロボットは、ある意味で「夢の家電」だ。家事は面倒なもの。それをやってくれるのであれば多少の費用は負担してもいい……という人は多いだろう。だが、そこで「人間を雇える」人は限られている。だからこそ、家庭用ロボットがあればいいのに、と夢想するのだ。

 

だが「夢想」と書いたことでおわかりのように、人間と同じように家事を代行できるロボットを作るのは現実的ではない。要求があまりに複雑だからだ。

 

というわけで、実際に家庭内で使えるロボットは、現実的には「できることに機能を分割する」形で実現されている。主に進んでいるのは「掃除」だ。

 

掃除については、ルンバの登場によって状況が大きく変わった。ただこれも、ルンバが「掃除に求められる要素を変えた」から実現できた、といってもいい。

 

掃除用ロボットは昔から開発が進んでいた。日本メーカーでも試作はされていたのだが、課題は「完璧な掃除は難しい」ということだ。部屋の四隅にゴミやチリを残さず、家の中のすべてを動き回って掃除するロボットを作るのは、いまでも困難。だが、初期には「ゴミを残して、後から人間が掃除するなら不要では」と言われ、一部の業務用以外は開発がうまく進まなかった。

 

ルンバはそこで、完璧な掃除を目指さなかった。「日々の掃除を楽にするだけで、家事労働は減る」と割り切ったのだ。確かにそれは正しい。毎日100%の掃除ができる家など実際にはない。人間ががんばっても、部屋の隅やテーブルの下にホコリがあるのはご愛嬌だ。

 

ルンバは日常を自動化し、残った部分は「時々人間がやってくれればいい」という現実解をきちんと提示することで、掃除用ロボットには購入する価値がある、ということを提示したのである。

 

一方、掃除以外のロボットはどうかというと、極端にいえば「動かないロボット」になっていった。食器洗い機も全自動洗濯乾燥機も、その場に置かれていて動かないロボット、ということができる。

 

そうした組み合わせがいまの家電の現実であり、ひとつにまとめた理想的なものが作られる未来は、おそらく来ないのではないかと思われる。

 

その発想で考えれば、AmazonのAstroもわかりやすくなる。「セキュリティ」「見守り」「コミュニケーション」といった機能を実現するためには、完全なロボットがいる必要はない。ロボット掃除機から発展し、家の中をある程度自由に動ける走行ロボットがいればいいのだ。

 

家中にカメラをつけることは現実的ではないし、家の中を飛び回って監視するドローンもちょっと大げさだ。前回解説したように、スマートスピーカーが家の中に多数あり、人と協調しながら働く「アンビエントコンピューティング」の世界で、その隙間をさらに埋めるロボットを作れば十分なのだ。そしてついでに、家族のところに飲み物のひとつも届けてくれれば最高である。Astroの機能は、そんな風に組み立てられたと考えられる。

 

では、どうやってそのロボットを開発していったのだろうか? その辺は次回考察しよう。

 

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