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米テキサス州ヒューストンで5日、音楽フェスティバル「アストロワールド」の観客がステージ前に殺到して少なくとも8人が死亡、数百人が負傷する事故があり、負傷者らはフェスティバルを主催した米ラッパーのトラヴィス・スコット氏らを提訴した。弁護人が8日に明らかにした。

負傷したコンサート参加者の1人は、スコット氏と、サプライズ・パフォーマーとして出演したカナダ人ラッパーのドレイク氏が観客をあおったとして100万ドル(約1億1300万円)の損害賠償を求めた。

スコット氏とドレイク氏はいずれも訴訟についてコメントしていない。

スコット氏は事故後、被害者(最年少は14歳)の家族を支援するために動いていると述べている。

こうした中、ソーシャルメディア上では様々な人が犠牲者への思いを表している。

「死んでしまうと確信」

事故は5日午後9時15分頃、スコット氏のパフォーマンス中に起きた。観客がステージ前に押し寄せ、パニック状態になった。

当時会場にいたルーカス・ナッカラティ氏はBBCラジオ5ライブに対し、スコット氏がステージに登場してから3分で、「みんな死んでしまうと確信した」と語った。

「動けなくて、自分の顔をかくこともできないほど人が密集していた」

ヒューストン警察のトロイ・フィナー本部長はツイッターに投稿した声明の中で、イベント前にスコット氏や警備責任者と「短い時間」面会し、安全性についての懸念を伝えていたと説明した。

警察はこの事故について捜査を開始。会場で人々に薬物を注射していた人物がいたとの報告もあがっており、これについても調べている。

何人かの観客は、薬物の過剰摂取を治療する薬を投与されて回復した。その中には警備員1人も含まれ、首に注射の跡があったようだと警察は説明した。

地元警察はBBCに対し、捜査に関するコメントを拒否した。

今回の事故とは無関係の記者会見で、米連邦捜査局(FBI)のクリストファー・レイ長官はFBIがこの事故に関し「技術支援」を行っていると述べた。

訴訟の内容は

ヒューストンを拠点に活動するトニー・バズビー弁護士は8日、原告35人に代わり、今回の悲劇につながった「重大な過失」をめぐって提訴したと発表した。

原告側は、スコット氏と施設・エンターテインメント企業「ライブ・ネーション」を含むイベントのプロモーターおよび運営会社が、適切なセキュリティーおよび緊急対応策を実施しなかったとしている。

バズビー氏の事務所は、スコット氏や関係団体に対してイベントに関するメールやその他の通信手段を含む証拠の一時保全を命令するよう、当局に求めている。

原告には今回の事故で死亡したワシントン州出身のアクセル・アコスタさん(21)の遺族も含まれる。

アコスタさんの遺族と共に記者会見に出席したバズビー氏は、「窒息しないよう逃れようとしたコンサートの参加者たちが、倒れたアコスタさんの身体をごみのように踏みつけた」と述べた。

「暴動と暴力を扇動した」

同じくコンサートに参加したクリスティアン・パレデスさん(23)は別の訴訟で、スコット氏とドレイク氏が「暴動と暴力」を扇動したと非難。ライブ・ネーションが適切なセキュリティーと医療サービスを提供しなかったと主張している。

100万ドルの損害賠償を求めているパレデスさんは、一般席の前列にいたところ「突然押されるのを感じ」、「群衆が大混乱に陥り、どっと押し寄せてきた」と主張している。

「多くの人がライブ・ネーションに雇われた警備員に助けを求めたが、無視された」

パレデスさんは「重度の身体的損傷」を負ったとされる。

スコット氏、ライブ・ネーション、コンサート・プロモーターのスコアモア社は、別のコンサート参加者からも100万ドルの損害賠償を求められている。当時会場にいたマニュエル・ソウザさんは、「コンサート会場で統制のとれていない群衆に地面にたたきつけられ、踏みつけられて重傷を負った」という。

ライブ・ネーションは、この訴訟についてまだコメントしていないが、「現地当局の捜査には、可能な限りの情報と支援を提供するよう努めている」としている。

BBCは同社にコメントを求めている。

アメリカの著名な弁護士ベン・クランプ氏は7日、コンサート参加者のノア・グティエレスさん(21)に代わって法的措置を取ると発表した。

また、近日中にほかの被害を訴える人々の訴訟も起こす予定だとした。「我々はこの悲劇的で、回避可能な出来事で被害を受けたすべてのクライアントのために正義を追求していく」。

過去にもコンサートをめぐる訴訟

スコット氏がコンサートをめぐり法的措置に直面するのは今回が初めてではない。

2018年には、米アーカンソー州で行われたコンサートで、観客にステージへの突入を促したとして提訴され、公序良俗違反の罪を認めた。地元紙によると、スコット氏はこのイベントで負傷したとする2人に約7000ドルを支払ったという。

スコット氏は今回の事故後、初めて公表した声明で、「ヒューストンのコミュニティーと協力して、支援を必要としている家族を癒やし、サポートするよう取り組んでいる」と述べた。

8日には、死亡した8人の葬儀費用を負担することも約束した。

さらに、オンライン・セラピーを提供する「ベター・ヘルプ」との提携を発表し、今回の事故の影響を受けた人々に1カ月間の無料セラピーを提供することも発表した。

(英語記事 Travis Scott sued over deadly US festival crush