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いよいよ007映画の最新作「No time to die」が劇場公開されることになった。憎きコロナウイルスの余波だけではなく、製作中にも数々のトラブルが発生し、今までこんなに待たされた作品は初めてである、という007の25作目だ。
DB5が360度ターンをしながらガトリング砲を打ちまくるシーンや、マセラティ クアトロポルテとバイクに挟み撃ちにされロープ1本で橋から飛び降りるシーンなど、もう何回も見過ぎて既視感さえ抱いてしまうが、まずは映画館で公開されることになって本当にめでたい。やはり映画は家で配信を見るのではなく、徐々に暗くなった劇場でドキドキしながら観るものだし、そういう意味では本当に劇場公開にこぎつけて良かった。心から喜びたい。すでに絶賛公開されている予告編では、新型ランドローバー ディフェンダーの活躍している姿も観ることができるが、ボンド映画ではランドローバーやジャガーの活躍するシーンも多い、ということで今回はそんな観点から作品を切り取ってみよう。

 殺しのライセンスを持つ男ジェームズ ボンドの愛車「ボンドカー」といえばアストンマーティン、中でもDB5というのが鉄板ではあるが、皆さまご存知のようにロータス・エスプリに乗っていたこともあるし、「大人の事情」でBMWをQから「壊さずに返却するように」と注意を受けながら支給されていた時期もある。
 またそれだけではなく、ルノーに乗ったりアルファロメオでカーチェイスしたりマスタング・マッハワンで片輪走行していたこともあるが、女王陛下のスパイらしくイギリスの誇りともいえるランドローバーやジャガーを(敵味方両方が)活用する場面もかなり多い。

 まずは007映画におけるジャガーの活躍だが、実をいえばジェームス ボンドがジャガーを操るシーンは24本(と他のプロダクション制作の1本)中にほとんどない。ボンド映画を徹底的にギャグ映画にしたマイク マイヤーの「オースティン パワーズ」では、ジャガーEタイプがボンドカー?として使用されていたが、本物の作品ではEタイプが登場したことはないのである。
 それでもいくつかのシーンでジャガーは重要な役を授かり、優美なその姿をスクリーンで見ることができる。そうボンド映画と他のスパイ映画との圧倒的な違いは優美さ、エレガントさなのである。

  まずジャガーの活躍は「ゴールデンアイ」で、ピアース ブロスナン演じるジェームス ボンドが運転するアストンマーティン DB5と、ファムケ ヤンセン演じるゼニア オナトップ(Then you are on a top!の言葉遊び)操るフェラーリF355 とのカーチェイスシーン後にたどり着いたモナコのカジノ前のシーンでXJ300がDB5と並んで表れるシーンがあるし(そのシーンには2世代目のレンジローバーも登場する)、その後ゼニア オナトップのF355 の右隣にはXJ40(グリルから推測するとデイムラーと思われる)が置かれているなど、わき役として登場し、華を与えているシーンも本作品中には多い。

その後の作品においてジャガーは、敵役がボンドを狙って操る、対ボンドカーとして登場するようになった。最初の登場はピアース ブロスナン4作品目の「ダイ アナザーデイ」において、敵の殺し屋であるリックユーン演じるザオの専用車としてグリーンに塗られたジャガーXKR(オープンモデル)が登場する。アストンマーティン ヴァンキッシュにマシンガン、ミサイル、そして透明になる機能(!)をQが装備したボンドカーを相手に、ザオカーたるXJRはロケットランチャー、ミサイル、ガトリング砲、追撃砲などを備え、攻撃能力はボンドカーを上回るほどだった。
 アイスランドの氷上で繰り広げられるカーチェイスはそれなりに迫力はあるのだが、街中と比較するとリアリティーにかけ、氷の城内部でのカーチェイスはスタジオセット感満載で、現実にはこんなことないだろうよ、と突っ込みたくなるような雰囲気なのは残念である。もっともボンドカーが透明になる機能を筆頭に、ピアース ブロスナン時代のジェームス ボンドは、過剰でありえないだろうというアクションが売りでもあった映画なので、これぐらいのサービス演出が必要だったのかもしれない。
 なおこのシーンで使用されたヴァンキッシュもXJRも、どちらも大型4輪駆動車(おそらくフォード エクスプローラーあたり)をベースに作った車で、どちらもアイスランドでのロケ用に複数台が作られ撮影に使用された。実際にどちらもFRのままであったならば、氷上であんな速度での走行は無理である。
 蛇足ながら氷の城のシーンでは駐車場に複数のXKが見受けられるし、レンジローバーの3世代目などもそのシーン前後に発見できるので、ぜひ見つけてほしい。

(Photo: 20th Century Fox)

ダニエル クレイグボンドの3作品目である「スペクター」では、アストンマーティンDB10 のボンドカーを追撃する、スペクターの殺し屋、デビット バウティスタ演じるミスター ヒンクスの車としてオレンジ色のジャガーC-X75が登場する。ジャガーC-X75は当初限定生産で発売される予定ではあったが、景気後退の影響を受け発売を中止してしまったモデルである。今回のローマでのロケでは3台のスタントカーが新たに作られたというが、外見だけで中身はジャガーの機構ではないモデルが撮影に使われていた。(製作はウイリアムズ アドバンスド エンジニアリングによるもので、レーシングカーのように走ることができるという)。さらに数年前に、そのうちの1台が中古車市場に登場したともいわれているが、いくらで売られたのか、だれが買ったのかは明らかにされていない。

深夜にローマ、バチカンの交通を遮断して撮影されたカーアクションは、迫力満載で見ごたえも、ちょっとしたユーモアも含め、それぞれサービス精神満載で楽しめるのだが、ちょっとだけ文句を言いたい点もある。それはボンドカーたるアストンマーティンDB10も、ジャガーC-X75も正式な生産モデルではない、ということだ。映画だけのために準備されたオリジナルのモデル、というのが本来スパイ映画であるはずのボンド映画にはどうしても馴染まない。
 ボンドカーであれば、普通に発売されている車輛(DB5もロータス エスプリもそうだ)に、Qが「こっそりと目立たぬように」秘密兵器を取り付けるから現実味があるのであって、デザインも内容も特別な一点物の自動車がボンドカーであったり、敵の車輛であったりというのはやはりどうにも納得いかない、のである。そうはいってもスペクターにおけるカーチェイスシーンは、ボンド映画で久しぶりに見る景気の良いシーンで、楽しめたことは事実である。

上記の他にもここ数回は、デイム ジュディ デンチ演じる「M」の公用車輛として最新のジャガーXJ(ブラック)が使用されることが通例であるし、「スカイフォール」ではダニエル クレイグ演じる007自らがXJのステアリングを握って逃走するシーンがある。おそらくジェームス ボンドがジャガーを自ら運転するシーンは、これが最初なのではないだろうか。また同映画ではクライマックスシーンにおいてグレーのジャガーXJ300にボンド、マロリーらが乗って新情報センターを目指すシーンがあるが、ロンドン市内で敵のトラックからの襲撃を受け側面衝突をくらって大破してしまう。サイドエアバックが装備されていなかったためか、ジェームス ボンドも含めて、全員が気絶してしまうのは残念なことだ。

そういえばダニエル クレイグ2作目の「慰めの報酬」でも、オーストリアのブレゲンツで開催されたオペラ「トスカ」の会場のシーンにおいて、ジャガーXJ300(正確にはデイムラーのスーパーチャージャーV8モデル  黒・内装ビスケットにパイピングとヘッドレスト部に“D”の刺しゅう入り)が使用されている。マチュー アマルリック演じる適役のドミニク グリーンが乗る車輛がXJ300なのだが、そのボンネットめがけて、ボンドが手下の男を投げ落とすシーンがある。ボンネットはもちろんへこんでいるようで、なんとも不憫なシーンではあった。

007といえば、やっぱりショーン・コネリーでしょう、という方は世の中に多い。確かにジェームズ ボンドとはなんぞや、のイメージを作り上げたのはショーン・コネリーに決まっていて、その理由は簡単で、最初に演じた俳優だったからである。だが残念ながらショーン・コネリーのジェームズ ボンドがジャガーとランドローバーを操ったシーンは、他のプロダクションが製作した「ネバーセイ・ネバーアゲイン」も含めて一度もないし、悪役側も使用していない。(一瞬、「二度死ぬ」の時のロケット発射基地のシーンで水に転落するのはランドローバーかと思ったが、ミニ モークであった。同じように「私を愛したスパイ」の潜水艦基地のシーンでもミニ モークは水の中に転落しているから、この映画の中ではそういうちょい役のクルマなのだろう)。
 それどころかショーン・コネリーの007はアストンマーティンDB5をのべつ幕なしに乗り回しているイメージもあるが、「ゴールドフィンガー」でのデビューと大活躍の他には、サンダーボール作戦の冒頭にちょろっと出演し放水ガンで敵を威嚇している2作品のみが、全シーンに過ぎない。アストンマーティンDB5の印象は「ゴールドフィンガー」の中での大活躍によるもの、といっても過言ではないだろう。(ダニエル クレイグは5作品中4本に、アストンマーティンDB5を運転するシーンが出てくるので、今やショーン コネリーよりもよほどDB5ユーザーなのである)。
2番目のボンド俳優たるジョージ レーゼンビー、といっても「女王陛下の007」しかないが、その作品にもジャガーとランドローバーは登場せず、意外なことに初登場するのはロジャー ムーアの6作品目の「オクトパシー」からであった。

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 私の世代にとって一番なじみがあり、一番007のイメージなのはロジャー ムーア、である。(何しろ、生まれて最初に一人で見た映画が、小学校帰りに寄り道して観た「私を愛したスパイ」なのだから仕方ないだろう。)
そんなロジャー ムーアの6作品目であるオクトパシー冒頭シーンに登場の茶色のレンジローバー(3ドア オープンモデル)が登場し、娯楽映画らしいコミカルさで大活躍する。そしてそれがボンド映画内でランドローバーブランド正式デビューなのではないだろうか。
 「オクトパシー」冒頭のキューバ空軍基地に潜入するオープニングアクト(つまり、話のマクラだ)で、ボンド(ロジャー ムーア)自らが運転し、後ろに小型ジェット機アクロスターBD5を載せたトレーラーを牽引して登場。
 内装、シート(布シートに快適そうなヘッドレストがついている)から考えると3ドア(MT)前期モデル(ボンネットのロゴがシールタイプのモデルなので、正確には前期モデルの後期)のルーフをちょん切って、どこかの改造屋がオープンモデルにしたもの。(結構雑なウインドーまわりの処理)もちろんこんな改造を施してしまえば剛性は保てるはずもなく、ソリハルのテストコースに足を踏み入れた途端に脱落するに違いないが、そんなことを考えずにおしゃれで豪華な車ととらえるべき。
実際に最初に登場するボンドガール(任務の相棒として登場し、別れ際に「マイアミで会おう」とボンドが言っていることからMI6のエージェントと思われる)が、お色気で敵の注意をひきつける役で、オープンモデルとしての機能を発揮するという、そんな気楽な役だった。ダミーの馬運搬トレーラーを牽いて、しかも中にジェット機を隠し持って敵の基地近くに潜入するなど、レンジローバーもずいぶん洒落た使い方をされたわけだが、この頃のボンド映画は徹底的に娯楽映画志向だから、余計なことを考えずに楽しんでしまえば、それでいいのである。

残念ながらロジャー ムーア時代にはランドローバーブランドが活躍するシーンは「オクトパシー」1回のみで、次の活躍シーンは、4代目ジェームズ ボンド俳優である、歌舞伎俳優のように濃い顔の「ティモシー ダルトン」初登場シーンとなる。
ティモシー ダルトンが最初に決め台詞である「Bond, James Bond」とスパイにもかかわらず本名を自己紹介する大切な舞台でランドローバー ディフェンダー(というか、正確にはディフェンダーというペットネームがつく前の、タイプ3)が登場する。
「リビングデイライツ」の冒頭のオープニングアクトシーン、イギリス特殊部隊SASの車輛として登場するのだが、ジブラルタル海峡において行われたMI6のイギリス軍特殊部隊SASとの演習訓練で、潜入していた敵から奪い取ってボンド(ティモシー ダルトン)がカーアクションを繰り広げながら運転するのがランドローバータイプ3、だ。
SASの車輛、という設定のためスペインではあるが右ハンドル。グリーンにカーキの幌の車輛で、ジブラルタルの断崖絶壁をアクション満載に駆け下りながら、敵とボンドは車内で格闘するのである。そしてこのシーンで、新ボンドデビューとなるティモシー ダルトンは、かなりハードに、でも最後にはおちゃめなオチと例の決め台詞を、大見栄を切りながら演じるのである。
このジブラルタルのシーンは、そんなことはないだろう、という展開のカーアクションシーンではあるが、ハラハラドキドキのオープニングアクトとしては見ごたえ十分。深刻で暗いオープニングシーンを見せられるよりも、ジェームズ ボンドのアクトはこれぐらいの景気の良さが常に欲しいものだ。そしてモーリス ビンランの影絵と、シャーリー バッシィーのような声量のシンガーによる主題歌がそこあってほしい。若手シンガーのこじゃれた流行歌など不要である。

さて悪役側の車としてのランドローバーも最近は登場している印象が強いが、がその最初は意外なことにロジャー ムーアの最後の作品である「美しき獲物たち」で、クリストファー ウオーケン演じる「マックス ゾリン」の移動用の車として登場した、シルバーのレンジローバー4ドア(4ドアの初期モデル フロントエアダムスカートなし)であった。
 気絶したボンドの乗るロールス ロイス シルバークラウドを池に沈めた後、適役であるマックス ゾリンが運転手の運転する4ドアのレンジローバーに乗り込んでその場を去るシーンがあるのだが、シルバーの4ドアで、リアにヒッチがついたモデルだ。
これも内装(ステアリング形状とか、シート形状)、フロントスポイラーなしであることを考えるとかなり4ドアのかなり初期のモデルである。F、つまりフランスの国境ステッカーを貼られたレンジローバーは、ゾリンを乗せたあと、かなり強引に(かなり無駄に)悪路を乗り越えていくのだが、レンジローバーの走破性をあえて見せようとしたアルバートRブロッコリ プロデューサーの作戦?だったのかも・・・。
「美しき獲物たち」はロジャー ムーアにとっては最後の作品となる一本だが、全編ブリティッシュジョークにもあふれているし、適度にアクションも多く、ボンド映画本来の「大人の、男の娯楽映画」として完成された一本といえる。

  運転をしたり乗ったりしているわけではないが5代目ジェームズ ボンド俳優である「ピアース ブロスナン」3作品目の「ワールド イズ ナット イナフの中、でボンドガールであり悪役でもあるソフィー マルソー演じるエレクトラ キングが、父の葬式に参列するシーンで、ジャガーなどが並ぶ列に、2台のセカンドジェネレーション レンジローバーが2台並んで停まっているシーンがある。どちらもカラーはブラックで、残念ながら判別は難しいのだがフォグランプがなさそうなので、HSEではなく、SEではないかと思われる。
 また「ワールド イズ ナット イナフ」の中では、採掘現場のシーンや病院のシーンなどで、ディフェンダー(90と110両方)や、セカンドジェネレーションのディスカバリーなども登場するので、結構ランドローバーの車輛が登場するシーンは多い。その代わりといってはなんだが、ボンドカーたるBMW Z8はたいした活躍もしないまま、ヘリコプターのチェーンソーで真っ二つに切られてしまうのだが……。
 それにしてもボンドガールの名前は意味深なものが多いが、ソフィー マルソーもエレクトラ キングという役名に不満はなかったのであろうか……。

 ピアース ブロスナンボンド4作品目の「ダイ アナザー デイ」で、トビー スティーブシス演じるグスタフ グレーブス(北朝鮮の将軍様の息子が遺伝子整形手術をして外国人になった、という設定)のロンドンにおける移動手段としてレンジローバー Ⅲモデルのブラック・ビスケット内装(パイピングつき)のリアシートを使用している。
 バッキンガム宮殿前の称号授与式の時に、北朝鮮の将軍様の息子という設定の悪役が乗るのにレンジローバーとは決まり過ぎた設定ではあるが、この息子はスーパーカーマニアという設定でもあるのでクルマ好きなのであろう。登場したレンジローバーは映画の年代を考えるとBMWエンジンのモデルと思われ、革内装のビスケットに黒いパイピングがついているため上級モデルである。(リアゲートにエンブレムがついていないので判別できないのが残念)。そしてこの映画頃から、007・MI6側にも、悪役側にもランドローバーブランドの車を愛用するシーンが増えてくる。

ジェームズ ボンドに就任した直後は「ロシアのスパイみたい」と酷評だったダニエル クレイグも、徐々に主に女性の熱い票田を得て今や007映画の顔となった。それに伴ったわけではないが、最近の4作品においてランドローバーの車輛は映画内での露出度もアップし、すっかり準レギュラーになった感が強い。

 特にランドローバーの車輛の出演が多くなったと実感できるのはダニエル クレイグのボンドデビュー作となる「カジノロワイヤル」からではないだろうか。適役のル シャフルがウガンダにおいてミスター ホワイトのコーディネートのもと、ウガンダ軍と闇取引を行うシーンでは、ブラックのディフェンダー110が、実にいい感じで3台連ねて登場する。ハリウッドであればこういうシーンでは必ずと言ってよいほど、黒塗りのシボレー サバーバンが3台並んで登場するところだろうが、そこは007映画、ディフェンダーの当番が決まり技なのである。
 この場面のかなりぬかるんだ泥の路面で、いい感じに汚れながら登場する110は007の中でも特にディフェンダーが輝いて格好よく見えるシーンである。(さらに注意してみると、奥の方にもルワンダ軍の古い90が止まっていることがわかる)。

 さらにその後、ジェームズ ボンドがナッソー(パラダイスアイランド)に赴いたとき、高級会員制のオーシャンクラブのバレットパーキング係に扮して顧客の車を預かり、それをわざと塀とジャガーSタイプにぶつけて注意をそらす、いわゆる陽動作戦に出るのだが、その時に奪う車が初期のレンジローバー スポーツHSEなのである。バハマの裕福な顧客らしさを表現するためか、シャンパンゴールドに塗られたレンジローバー スポーツを惜しげもなく豪快に塀とジャガーにぶつけ、挙句の果てにはリモコンキーさえ投げ捨ててしまうボンド。よく考えれば英国諜報部員にあるまじきマナーの悪さではあるが、この豪胆さと景気の良さも、007映画の魅力のひとつなのである。
 またそのシーンでは同じ駐車場内にランドローバー ディスカバリーⅢが止まっていたり、映画中盤でボンドがアストンマーティンDBSを受け取ったシーンでは、向こう側にワインレッドに塗られたフリーランダーが駐車していたりと、数々のシーンで登場しており、そういう観点で見ているとカメオ出演の俳優を見つけるようで結構楽しい。

Photo: Werk

 映画撮影途中のいざこざにより、制作も脚本も二転三転してしまった、ダニエル クレイグボンドの2作目である「慰めの報酬」はイタリア・コモ湖畔の道路においてアストンマーティン ヴァンキッシュと追手の2台の159との激しいカーチェイスによって幕を開ける。ボンド映画の中でももっともはげしいカーチェイスでもあり見ごたえたっぷりではあるのだが、残念なことに編集カットが細かすぎて目がついていかないために(明らかに当時流行していたボーン アイデンティティシリーズの影響なのだろう)、いったいどのようなカーチェイスが行われているのか、見にくいのが難点だ。
 ともかくアストンマーティン ヴァンキッシュと159のカーチェイスに途中から加わるのが、イタリアの国家憲兵であるカラビニエリのディフェンダー90で、このディフェンダーもかなり激しいカーチェイスを行った後、崖から転落して大破してしまう。カラビニエリカラーの90はなかなかスタイリッシュで、ミニカーがあったら是非ほしいと思ってしまうほどのスマートさであったのだが、たいした活躍もなく残念だ。
 さらに「慰めの報酬」では、ボンドのボリビア任務のボンドカーとしてグレーのレンジローバー スポーツが登場。街中での移動や砂漠への探査任務のために結構長く登場するが、砂漠において古いダグラスDC-3 との交換条件として、あっさりとボンドはレンジローバー スポーツを双発のDC-3 を交換してしまうのであった。意外とDC-3って安いなぁと妙に感心してしまうシーンだ。
 またこの後の砂漠に建つ要塞ホテルでの攻撃の際、軍の移動用と思われる白いディフェンダー110を、燃料電池爆破の起爆装置代わりにぶつけて爆破する役として使用している。こういう細かいシーンでも車の配役に手を抜かないのも「慰めの報酬」の良い点で、ボンドの良き友でもあるマティスの隠居しているイタリアの家には、しれっと、古いマセラーティ3200GTが止まっていたりして、なかなかにエンスー感あふれる一本なのである。

Photo: Werk

 最近のボンド映画では、映像の美しさとシナリオの巧みさで、ダニエル クレイグの最高傑作となるであろうと言われている「スカイフォール」にも冒頭のオープニングアクトのシーンで、後に「ミス マネーペニー」となるナオミ ハリス演じるイヴの運転するグレーの110ピックアップ(左ハンドル)が登場し、イスタンブールの市街を舞台に大活躍する。このシーンでの適役はアウディA6で、さらに列車で運搬されるVWビートルも滅茶苦茶に壊されるなど、味方と敵国がはっきりしていてわかりやすい。
 さらに「スカイフォール」では爆破されてしまったMI6本部に代わって登場する地下のMI6秘密本部に移動する際、ボンドはブラック(内装もブラック本革)のレンジローバーシリーズⅢ Vougue SEのスーパーチャージャーを使用する。もっともこのシーンではボンドは運転せずにリアシートに座っているため、この車両はMI6の公用車であり、MI6上司のギガロス・マロリーの専用車、くらいの位置づけなのだろう。
 さらにこの作品では適役のハビエル バルデム演じるラウル シルヴァが、MI6から逃亡する際、ロンドン メトロポリタンポリスのパトカーであるディスカバリーⅣを使用したり、その際にグレーのフリーランダーがちらっと映ったりと大盤振る舞い。このところMの公用車はXJだし、ディムラーリムジンが登場したり、さらには登場するヘリコプターもイギリスとイタリアが共同開発したアグスタ ウェストランド101が使われていたりと、最近のボンド映画は全力でイギリス愛にあふれ、それはそれでとっても正しい。BMW7シリーズがボンドカーであった頃は、なかったかのようだ。

その後のダニエル クレイグ4作目である「スペクター」では敵味方入り混じってのランドローバー主演合戦?が繰り広げられている。
まずスイスの高級養護施設? からレア・セドゥ演じる「マドレーヌ スワン」(妙に高級洋菓子みたいな名前だ)を連れ去るデビット バウティスタ演じる「Mr.ヒンクス」一味は、レンジローバー スポーツ(ブラック・内装もブラックレザー ルーフラック付き)とディフェンダー(110 ピックアップ2台 こちらもルーフラック付き いずれもスイスナンバープレート)を使用している。
その一方、それを追うボンドは軽飛行機(ブリテン ノーマンBN-2 アイランダー)を使用し飛行機対ランドローバー組のチェイスを敢行するのだが、以前のボンド映画ではこういう場合、空からの攻撃が敵で、ボンド側が地上、というのが定番だったはずで、いやはや時代も変わったものである。結局このシーンでは、いずれの乗り物も大破して終わるのだが、3台のランドローバーの雪道走行による汚れ方がなんとも格好良く、ピカピカの車よりはるかに魅力的に見える。
その後、砂漠のスペクター秘密施設では悪役側の4WDが、いきなり2台のメルセデス ベンツゲレンデヴァーゲン(W463)に配役?が変わってしまうのは不思議だが、クリストフ ヴァルツ演じるフランツ オーベルハウザー(またの名をエルンスト スタヴロ ブロフェルド)の国籍や成り立ちを考えると、ゲレンデヴァーゲンの方が似合うという設定なのかもしれない。残念ながら2台のゲレンデヴァーゲンは一度も走行することなく、飾り物として終わってしまうのが、大活躍するランドローバーとなんとも対照的だ。
 また「スペクター」ではクライマックス近くでロンドンの街中を本部に向かって、新MたるマロリーやQ、ミスマネーペニーらを乗せて走行する車としてランドローバー・ディスカバリー(Ⅳ グレイ イギリスナンバー)が使用されている。新しく開設された情報収集センターに移動の途中、敵からの銃撃を受けディスカバリーは被弾するが、大破することなく走行していた。その際、ちゃんと被弾しているので防弾ガラスではないらしいし、Qが乗る車という設定なので、何かしらの秘密兵器くらいはついていたらさらに楽しかったのだが、残念である。
 ちなみにSPECTERとは固有名称ではなく
Special Executive for Counter intelligence 、Terrorism、Revenge  and Extortion(対敵情報活動、テロ、復讐、強要のための特別機関)の略である。つまり悪いことを世の中で行う組織であり、世界征服が目的ではなく、お金をせしめるための悪者集団がスペクターなのだ。そのための人選と作戦会議が、本作品中、ローマのカルデンツァ宮殿で午前0時に行われたあの円卓会議というわけ。
ちなみにカルデンツァ宮殿に集結した悪者たちがのるスーパーカーの中にランドローバーは見当たらないが、昨今のスーパーカーやロールス ロイスに混ざって、 レクサスのLF-A(ホワイト 一番奥の方に小さく見える)や、ブガッティEB110、フェラーリF355 スパイダー(白 黒幌)、ベントレーターボRなどエンスーな物件も発見できるのでぜひBlu-rayをストップモーションにして探してみていただきたい。

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 非難されることを覚悟のうえで言うが、ボンド映画というものは、年齢を問わず男子のための娯楽映画、であるべきだ。粋なスーツを着こなし、荷物も持たずに世界中を駆け巡り、すてきな車に乗って美味しいお酒を飲み、楽しい秘密兵器で世界を救った後で、絶世の美女を抱く……。そんな男子向けの娯楽映画こそボンド映画の醍醐味であって、そこに現実をひきずるような出生に秘密も、勤務する組織内のごたごたもあってはならない。
 そしてもう一本のポップカルチャーの雄たる「スター ウォーズ」の大きな違いは、あくまでもボンド映画は、我々の生活の延長線上にある、ということだ。つまりいくら頑張ってもミレニアムファルコン号の本物を手にすることは不可能だが、ジェームズ ボンドの使っていた小物や時計や車は、実際に購入することができる。残念ながらそれらにはQが改造してくれた秘密兵器は装備されないが、男の子らしく、ごっこ遊びに心酔することは可能なのである。
 だから映画を観終わった後に、アストンマーティンやジャガー・ランドローバーのディーラーにそのまま向かい、つい勢いで契約書にハンコをついてしまったとしても、それはとっても良くわかる心理なのである。

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ダニエルクレイグ最終作となった「No time to die」には、彼の花道を飾るかのように多くのアストンマーティンも各種登場するし、ランドローバーも大活躍する。そして次のボンドは?そんな話題もそろそろ聞かれるが、まずはそんな今作品を劇場で心から愉しんで、James Bond will return……をまた指折り待つことにしたい。

Text:大林晃平