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この記事は  Sundar Pichai による Google The Keyword Blog の記事 “Being helpful in moments that matter” を元に翻訳・加筆したものです。詳しくは元記事をご覧ください。


 
今年、Google I/O デベロッパー カンファレンスを再び開催できたことを嬉しく思います。5 月 18 日の朝(日本時間 5 月 19 日早朝)、マウンテンビューのキャンパスに車を停めると、日常に戻ったような感覚を覚えました。もちろん、デベロッパー コミュニティの皆さんと対面でお会いしていないので以前と同じとは言えません。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、この 1 年、グローバル コミュニティ全体に多大な影響を及ぼし、今もなお、大きな被害を与えています。ブラジル、そして私の母国であるインドでは、現在もパンデミックの中でも最も困難な時期を迎えています。Google は、COVID-19 の影響を受けたすべての人に思いを馳せ、前途に良い日が訪れることを願っています。
この 1 年で多くのことが見えてきました。その中で Google は、世界中の情報を整理し、世界中の人々がアクセスできて使えるようにするというミッションに、新たな目標が加わりました。私たちは、「すべての人にとって、より役立つ Google になる」というたった 1 つの目標を掲げ、このミッションへの取り組みを続けています。つまり、大事な場面で人々の役に立ち、すべての人に知識、成功、健康、幸福を高めるためのツールを提供するということです。

大事な場面で役に立つこと

Google Classroom が昨年 1 億 5,000 万人の学生と教師によるバーチャル学習を支援したように、大規模で役に立つこともあれば、小さな支援を積み重ねることで、すべての人に対して大きな変化をもたらすこともあります。たとえば、Google マップでは、より安全な経路を提案する機能をリリースしました。Google マップに組み込まれたこの AI による機能で、急ブレーキをかける可能性が高い経路や天気、交通状況を特定できます。この機能で、リスクを年間 1 億件ほど減らすことを目標としています。

働き方の未来を再定義する

私たちが支援できる最も大きいことの 1 つは、働き方の未来を再定義することです。この 1 年で、Google は前例のない方法を取り入れながら働き方が変わるのを見てきました。オフィスはキッチンのカウンターになり、ペットが同僚になりました。Google をはじめ、多くの企業は、再びオフィスで働けるようになったとしても、引き続き柔軟な働き方を続けることになるでしょう。そんな状況の中、コラボレーション ツールがこれまでになく重要になっています。そこで、5 月 19 日(現地時間 5 月 18 日)、Google は、Google Workspace でより豊かなコラボレーションを可能にする新しい スマートキャンバスを発表しました。 
Google Meet に統合された smart canvas

信頼できる次世代の AI

Google は、翻訳、画像、音声など、AI の中でも最も困難な分野に注力し、過去 22 年間で目覚ましい進歩を遂げてきました。その結果、アシスタントの通訳モードを使って別の言語で相手に話しかけたり、Google フォトで大切な思い出を振り返ったり、Google レンズを使って難しい数学の問題を解いたりすることが可能になり、Google の製品全体が改善されてきました。
また、AI を活用して自然言語を処理するコンピューターの能力を飛躍的に向上させ、何十億におよぶユーザーの検索体験を改善しました。しかし、コンピュータが理解できないこともあります。それは、言語が果てしなく複雑だからです。私たちは、言語を使って物語を語ったり、冗談を言ったり、アイデアを共有したりしますが、その中には私たちが人生の中で学んだ概念が織り込まれています。豊かさと柔軟性があるからこそ、言語は人類にとって最大のツールである反面、コンピュータサイエンスにとっては最大のチャレンジでもあるのです。
5 月 19 日、自然言語理解に関する最新の研究 LaMDA について発表しました。LaMDA は、対話アプリケーション用の言語モデルです。LaMDA はオープンドメインで、どんなトピックでも会話できるように設計されています。例えば、LaMDA は冥王星についてかなりのことを理解しています。生徒が宇宙のことをもっと知りたいと思ったときに、冥王星のことを聞けば、モデルが適切な答えを返してくれるので、より楽しく、興味を持って学習することができます。また、生徒が「紙飛行機の上手な作り方」など、別の話題に切り替えても、LaMDA は再教育をすることなく会話を続けることができます。
このように、LaMDA は情報やコンピュータをより身近で使いやすいものにすることができると考えています(詳細については、こちらをご覧ください)。 
Google は、長年にわたって言語モデルの研究・開発を行ってきました。LaMDA に関しても、公平性、正確性、安全性、そしてプライバシーに関する非常に高い基準を満たし、Google の AI 原則に従って一貫して開発するよう注力しています。この会話機能を Google アシスタント、Google 検索、Google Workspace などの製品にいずれ組み込むことを楽しみにしています。また、デベロッパーの皆さんやパートナー企業へこの機能を提供する方法も検討しています。
LaMDA は、自然な会話を実現する大きな一歩ですが、まだテキストに対する訓練しか行われていません。人が誰かとコミュニケーションをとるときは、画像、テキスト、音声、動画を使います。そのため、さまざまな種類の情報を使って自然に質問ができるようなマルチモダール モデル(MUM)を開発する必要があります。MUM を使って Google に「美しい山並みを見ながら走れるルートを見つけて」と話しかければ、日帰りのドライブ旅行を計画できます。これは、検索機能の操作をより自然かつ直感的な方法で行えるようにするための取り組みの一例です。

コンピューティングの限界に挑む

翻訳、画像認識、そして音声認識は、LaMDA や MUM のような複雑なモデルの基盤を築きました。Google のコンピューティング インフラストラクチャは、このような進歩を促進して維持する手段であり、Google のカスタムビルドの機械学習プロセスである TPU はその大きな部分を占めています。
5 月 19 日、Google は、次世代の TPU である TPU v4 を発表しました。この TPU は、前世代の 2 倍以上の速度を持つ v4 チップを搭載しています。1 つのポッドで 1 エクサフロップ以上の性能を発揮することができ、これは 1,000 万台のノート PC の計算能力を合わせたものに相当します。これは、Google が今までに開発した最速のシステムであり、当社にとって歴史的な出来事です。これまでは、1 エクサフロップを達成するためには、カスタム スーパーコンピュータを構築する必要がありました。また、間もなく数十台のTPU v4 ポッドがデータセンターに設置され、その多くが 90% 以上のカーボンフリーエネルギーで運用される予定です。これらのポッドは、今年後半には Google Cloud を利用するユーザーに提供される予定です。
左:TPU v4 チップトレイ、右:オクラホマ データ センターの TPU v4 ポッド 
このように急速なイノベーションペースを目の当たりにできることはとてもエキサイティングなことです。将来を見据えると、従来のコンピューティングでは合理的な時間で問題を解決できないタイプの問題があります。そのような場合には、量子コンピューティングがそれを支援します。量子コンピューティングのマイルストーンを達成したことは非常に大きな成果でしたが、長い旅はまだ始まったばかりです。Google は、次の大きなマイルストーンである、「エラー訂正が可能な量子コンピュータの構築」に向けて引き続き取り組んでいます。これを達成すれば、バッテリー効率の向上、より持続可能なエネルギーの創出、創薬の向上が実現します。その実現に向けて、最先端の Quantum AI campus を新たに開設し、Google 初の量子データセンターと量子プロセッサ チップ 製造施設を備えました。
新施設 Quantum AI campus の内部

Google でより安全に

Google は、Google の製品は安全であってこそ役立つものであると考えています。そして、コンピュータ サイエンスと AI の進歩は、製品をより良いものにしていくための手段です。Google は、世界中のどの企業よりもマルウェア、フィッシング詐欺、スパム メッセージ、潜在的なサイバー攻撃をブロックすることで、ユーザーの安全性を確保しています。
また、データの最小化に注力することで、より少ないデータでより多くのことができるようにしています。私は 2 年前の I/O で、自動削除機能を発表しました。これは、ユーザーのアクティビティ データが自動的かつ継続的に削除されるよう促すものです。それ以来、自動削除機能は、すべての新しい Google アカウントでデフォルト設定になっています。現在では、ユーザーから早期削除の申し出がない限り、アクティビティ データは 18 カ月後に自動的に削除されます。今では、20 億アカウント以上が対象になっています。
Google の全製品が次の 3 つの重要な原則に従っています。第一に、世界で最も先進的なセキュリティインフラを持つ Google の製品は、デフォルトで安全に保護されています。第二に、 責任あるデータ慣行を厳守し、Google が構築するすべての製品は設計上プライベートになっています。そして第三に、ユーザーが自分でコントロールできるようにプライバシーとセキュリティの設定を使いやすくしています。

長期的な研究:Project Starline

この 1 年にわたり、テレビ会議を使うことにより、家族や友人と連絡を取り合ったり、勉強や仕事を進められたことは素晴らしいことです。ですが、誰かと同じ場所で一緒にいることの代わりにはなりません。数年前、Google では、テクノロジーの可能性を模索するため、Project Starline と呼ばれるプロジェクトに着手しました。このプロジェクトでは、高解像度カメラと特注の深度センサーを使用して、複数の視点から姿形をキャプチャし、それらを融合して、非常に繊細なリアルタイムの 3D モデルを作ります。生成されたデータを送信するには毎秒数ギガビットが必要となり、既存のネットワークを介してこのサイズの画像を送信するために、データを100分の1以下にする新しい圧縮・ストリーミング アルゴリズムを開発しました。さらに、実際に相手が目の前に座っているかのように見える画期的なライトフィールド ディスプレイも開発しました。極めて高度なテクノロジーではありますが、ユーザーはそれを意識することなく、最も大事なこと(一緒にいるように見える相手とのコミュニケーション)に集中することができます。 
Google のオフィスで何千時間もかけてテストを実施しており、これまで得られている素晴らしい結果に期待を寄せています。また、主要な企業パートナーからも期待されており、Google では、医療やメディア分野のパートナーに協力を仰ぎ、すでに初期のフィードバックを得ています。リモート コラボレーションの限界を押し広げることで、私たちは一連のコミュニケーション製品の品質を向上させる技術的な進歩を遂げることができました。今後さらに詳しくお伝えできることを楽しみにしています。
Project Starline を介して相手と会話が可能に

複雑なサステナビリティの課題を解決する

もうひとつの研究分野は、サステナビリティを推進することです。サステナビリティは、20年以上前から当社の主要課題となっています。2007 年には、大手企業として初めてカーボン ニュートラルを達成しました。また、2017 年には消費電力の 100% を再生可能エネルギーでまかなう最初の企業になり、以降、それを持続しています。昨年、Google は、カーボン レガシー全体を排除しました。 
Google の次の目標は、2030 年までにカーボンフリー エネルギーを達成するという、これまでで最も野心的なものとなっています。これは、現在の取り組み方から大幅に変更することを意味し、量子コンピューターと同じくらいのムーンショット目標です。カーボンフリーエネルギーをすべてのオフィスで確保し、それを 24 時間 365 日運用できるようにするまで、解決するべき困難な問題もあります。
昨年発表したカーボン・インテリジェント・コンピューティング・プラットフォームをベースに、Google は間もなく、データセンター・ネットワーク内の時間と場所の両方でカーボン・インテリジェントによる負荷シフトを実施する最初の企業になる予定です。来年の今頃には、非生産的なコンピューティングの 3 分 の 1 以上を、カーボンフリーのエネルギーをより多く利用できる時間帯や場所にシフトする予定です。また、来年からネバダ州のデータセンターを皮切りに、地熱発電をより多くの場所で提供するために、新しい掘削技術や光ファイバセンシングへのクラウド AI の応用に取り組んでいきます。
このような投資は、24 時間 365 日体制のカーボンフリー エネルギーを達成するために不可欠で、カリフォルニア州のマウンテンビューでも行われています。Google は、最高のサステナビリティ基準に基づいて新しいキャンパスを建設中です。完成したら、この建物には、今までに類を見ない、銀に輝く龍の鱗のような 9 万枚のソーラーパネルが設置されることになり、約 7 メガワットの発電が可能になります。また、北米最大の地熱発電システムが設置され、建物を冬は暖かく、夏は涼しくすることができます。この取り組みが実現することを目の当たりにできることは、大変素晴らしいことだと思っています。
左:マウンテンビューの新しい Charleston East キャンパス。右:龍の鱗のようなソーラーパネルの模型。

テクノロジーの祝典

I/O は単なるテクノロジーの発展を祝う場ではありません。それを使い、開発する人の祭典でもあります。今日、バーチャルで参加した世界中の何百万人ものエンジニアの皆さんもその一人です。この 1 年、私たちは人々がテクノロジーを非常に素晴らしい方法で利用するのを目の当たりにしてきました。極めて困難な状況の中で、健康と安全を維持し、学習して成長し、繋がり合い、他者を助けるために。このような状況を体験し、私たちはこれまで以上に、大事な場面に役立つことを心がけていきます。
来年の I/O で皆さんに直接お会いできることを楽しみにしています。それまで、ご自愛ください。
Reviewed by Takuo Suzuki – Developer Relations Team and Hidenori Fujii – Google Play Developer Marketing APAC