様々なバーチャルタレント事務所が次々に発足し、着実にその裾野を広げ続けているバーチャルタレント(VTuber)シーン。牽引する二大事務所に注目が集まるなかにあって、数年来に渡って活躍を続けるタレントも非常に多い。この連載コラム「バーチャルタレント名鑑」では、様々なカルチャーシーンで奮闘を続けるバーチャルタレント(VTuber)一人一人にスポットライトを当て、これまでの軌跡とこれからの望見について書いていきます。今回紹介するのはFPS×バーチャルタレント×αのシーンを切り拓く「ぶいすぽっ!」の一ノ瀬うるはさんです。
初ツイートは2019年3月20日、その後2019年4月19日にYouTubeに『【PUBG】弾を撃ちたい一ノ瀬うるは【新人VTuber】』を投稿し、一ノ瀬うるはさんは現在のぶいすぽっ!の一員としてデビューしました。彼女の外見を描いたのはイラストレーターのAちきさんです。2018年10月20日にデビューしていた花芽なずなさん・花芽すみれさんの2人、彼女の前日にデビューした小雀さんと共に、Lupinus Virtual Gamesの一員として活動していきます。外見を描いたのはイラストレーターのAちきさんです。
彼女ら4人は人気FPSゲーム『PUBG: BATTLEGROUNDS』を得意としており、それぞれがプレイ時間で3000時間以上していたハードなFPSゲーマーでした。Lupinus Virtual Gamesに所属していたうるはさんは、同グループの一員として『PUBG SCRIM JAPAN』に参加。プロも混じってプレイすることもある本格的なスクリム大会で勝ち上がるのは容易ではなく、プロ選手などを対象にコーチを募集。現在eスポーツチームIGZISTで『VALORANT』のプロプレイヤーとして活躍しているPepperさんをコーチ役に起用し、本格的な指導を受けていくことになります。
VTuber/バーチャルタレントシーンも今のような活況に入る前の群雄割拠のなか、それ以上に、ゲーム配信者の世界やプロゲーマー/eスポーツの世界ともまだ隔たりがあった時期です。現在ではストリーマーやバーチャルタレントがカジュアル大会の参加に向けてプロからのコーチングを受けることは珍しくないですが、2019年の夏頃にこういった動きをすることは前例がなく、話題を呼ぶことになります。
「当時のわたしはそもそも配信の業界がイマイチ分かっていなかった」とうるはさんは後々に語っており、「ケンカすることもあった」と花芽なずなさんは語っています。さまざまな問題をひとつひとつ乗り越えながら、8月末には見事Group Bで総合優勝を果たし、彼女らの努力は結実することになりました。
現在のうるはさんは『Apex Legends』『VALORANT』を中心とした様々なタイトルのゲーム配信をしつつ、Lupinus Virtual Games以外のVTuberともコラボ配信やリスナーとの雑談配信も週に1~2回のペースで絶えず配信しています。
『PUBG』から『Apex Legends』『VALORANT』と頻繁にプレイするゲームが時節によって変わりましたが、そのスタイルはデビュー時から大きく変化することなく活動を続けてきました。
どこか近寄りがたさすら感じるクールなムードを漂わせ、口調やテンションはどことなく低体温ぎみかつサバサバ、「部屋からずっと出たくない」と何度となく口にするほどの超インドア派であり、リスナーや他の配信者もツッコミたくなるほどのルーズな生活感。多くの方が想像できる「典型的なゲーマー/オタク像」をまとっているのが一ノ瀬うるはさんだと言えるでしょう。
「昔のアタシはジャックナイフだった」と自虐するほどにトガっていた彼女、会話のネタとしてたまに上がってくる学生時代などの逸話をあげてみましょう。
・両親が医者ということもあり厳しく教育され、それまでは勉強を苦としていなかったが、医者を目指して中学受験で入学した学校と合わずにドロップアウト、後に料理学校へと進学する。
・「学校成績は一切悪いわけではないのになぜ授業に出なくていけないのか?」かが分からず授業をサボる。
・夏休みに金髪を染め、そのまま登校し教員らに叱られるなど、度重なる校則違反によって8者面談の後に退学する。
・運転免許取得のために教習所に通うも、知らない人たちしかいない空間でご飯を食べられず、トイレでご飯を食べていた。
・「狭いコミュニティで生きてきた」「新しく友達が入ってくるのも嫌」と話すこともあり、デビュー当初は特にコミュニケーション力に難があり、いまから振り返れば失礼な態度を取っていたと反省することも。
・自身の住む部屋が汚すぎることを会話でもネタにすることがあり、「業者が来て清掃してもらう」レベル。コラボ相手は絶句し、リスナーらからもツッコまれる。
トゲのある言葉使いや低体温気味なテンションで誤解されることが多いですが、ひとたび仲良くなればコラボ相手ともフレンドリーに会話を進め、ゲームに勝てなくなると「ぜってー勝つ」の一言で何度もトライしていく光景が多く見られます。
その光景は、「どこにでもいそうなありふれた人間」として親近感を覚える姿ともいえます。落ち着いた口調でありながらも困惑したり興奮したり、同じ「ぶいすぽっ!」のメンバーにはニヤニヤしつつも辛辣な言葉を投げかけてみたり、ゲーム中の緊張感あるシーンのなかで「あ、やっべ」と思いがけないミスを犯してみたりと、「ありふれた一人の人間」の姿を見つけることができます。
VTuberやストリーマーの配信というと、人間離れしたスペシャルなエンターテイメントを期待してしまうところ。ですが、うるはさんの配信の独特のムードや雰囲気は、どこかシャイで照れ屋、飾り気のない人柄がリードする「一ノ瀬うるはの配信」としてしっかりと受け入れられていきました。
長らくスクリムやカジュアル大会には出場していませんでしたが、2020年7月に開催された『Rage×Legion Doujou Cup』((Apex Legends))には渋谷ハルさんと白雪レイドさんとともにチームVTuberのメンバーとして出場して見事優勝を果たすと、その後は数多のカジュアル大会に出場し続け、大会の好成績を収めたり、チームとして印象的な配信を届け続けました。
2020年9月に小森めとさん、白雪レイドさんらと組んだ「BIG STAR」は彼女をブレイクさせたコラボ配信であり、数多くのコラボ配信をし続け、プレイとしてもトークとしてもかみ合ったトリオとして人気を博します。翌年1月の『VTuber最協決定戦 ver.APEX LEGENDS Season2』に3人で出場し、惜しくも3位となるものの、「負けず嫌いな気質」「ゲームへの意欲旺盛ぶり」でウマが合った3人はその後も事あるごとに絡み、お互いを支え合う盟友ともいえます。
もう一つのカジュアル大会であるCrazy Racoon Cupには第二回から登場。先の大会で優勝を果たした白雪さん、渋谷さんとのトリオ「K2ARK」として出場するも、成績は振るわず11位。第3回ではゲーム配信者としてスーパープレイを連発し続けるNIRUさんと、にじさんじのラトナ・プティさんとの「ニルファーナ625」として出場。初顔合わせとは思えないほどの息の合ったプレイングでスクリム中は上位を席巻し、プレイ中の3人の雑談はゆるい会話とホッコリとしたムードで包まれている、他に類を見ない配信となっていました。
このチームがきっかけとなり、ラトナさんとはその後も数多くのゲーム配信を行うようになります。「この日にコラボ配信するけども、お互い起きたタイミングでテキトーに始めよう」というアバウトなスケジュールで配信したこともあると語っており、お互いに気兼ねなくマイペースに付き合えるパートナーとして感じているのが分かります。
2021年12月23日には自身の誕生日配信を行い、2万人近いリスナーが生配信に集まりました。途中からは親しい人からの電話突撃を受けつけることになり、同僚の花芽なずなさん、空澄セナさん、橘ひなのさん、ホロライブの常闇トワさん、にじさんじの叶さんやラトナさん、小森めとさんや白百合リリィさんなどが登場、電話以外にもこれまでに関わってきた多くの配信者らもコメントを残すなど、まさに彼女を祝う配信になりました。
「活動当初は暗かった」「なんだコイツって思った」「怖い先輩だと思っていた」などの初対面の印象から、ガラリと変化した彼女の現在。語られる人物像をなぞれば、まさに人としての成長をしっかりと感じられます。
彼女のデビューから2年以上が経過し、FPSを得意とする女性のバーチャルタレントやストリーマーも多く登場し、うるはさんが当初所属していたLupinus Virtual Gamesも2020年7月からは「ぶいすぽっ!」と変わり、現在では14名のタレントが在籍しています。
加えて、VTuber/バーチャルタレントだけでなく、プロチームに所属するプロゲーマーや、ゲーム配信者/YouTuberといったインフルエンサーらも加わり、ネットカルチャーに親和性のある方々ならば誰もがゲーム一つで繋がり合える特異で新しいシーンが形成されつつあり、大きな注目を集めるようになってきました。うるはさんがデビューした当初とはシーンの状況は大きく変わってきており、これからも状況は刻一刻と変わっていくところです。
そんな中にあって、2021年12月末現在でYouTube登録者数30万人を超え、ぶいすぽっ!のなかでも随一の登録者数を誇る彼女は、バーチャルタレント×ゲーム×αと掛け合わせて広がっていくシーンにおいて活躍していきそうです。