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TVシリーズ、劇場長編、そしてWeb動画やライブ映像などの新たなコンテンツ。アニメ作品の多角化が加速している。アニメCGの制作現場では、完パケデータはもちろんのこと、キャラクターモデルなどのアセットやシーンデータ、各種設定資料など膨大な制作データが日々、蓄積されていく。こうしたデータは今後のプロジェクトにも活用される貴重な財産であり、システム運用的には高い信頼性・安全性を確保しつつ、できるだけコストパフォーマンスにも優れたかたちで保管する必要がある。日本のアニメCGシーンをリードするサンジゲンが選んだのが、富士フイルムが開発・発売するHDDと磁気テープを組み合わせたハイブリッドストレージ「ディターニティ」だった。

TEXT_高木貞武 / Sadamu Takagi
EDIT_山田桃子 / Momoko Yamada
PHOTO_弘田 充 / Mitsuru Hirota

<1>導入経緯と現在の運用法

総数250名、東京近郊の数か所の拠点に加え、京都や名古屋、福岡などにもスタジオをかまえる、サンジゲン。3Dと2Dのどちらもフルデジタルの制作体制を構築しており、各拠点を専用線やVPN接続でつないでいる。そうした先進的なワークフローを自社開発で確立するサンジゲンだが、アーカイブデータの管理・運用には課題を感じていたため、2018年5月に磁気テープとHDDをハイブリッドした富士フイルムのディターニティ オンサイト アーカイブ[スタンダードモデル](以下、ディターニティ)を導入した。



▲立川スタジオ(東京都立川市)内観



▲富士フイルム ディターニティ オンサイト アーカイブ [スタンダードモデル]

そもそもサンジゲンでは、「ディターニティ」導入以前からアニメ制作会社で浸透している磁気テープによるバックアップ、およびアーカイブ化を行なっていた。それぞれのデータの定義は次のとおりだ。


サンジゲンにおけるバックアップとアーカイブの定義

  • バックアップ
  • 主に現在進行形の作品の制作データに関して、甚大な災害や障害対応のために、月次/週次で自動保管されるものを指す。各カットやシーンにおいての最終データだけでなく、制作過程における中間チェック物を含む。

    例)・2020年X月における制作データ一式
    ※チェックデータを提出したりレンダーファームにジョブを投げたりする際、一度システムを通るしくみになっており、自動的にバックアップが生成される

  • アーカイブ
  • テレビや劇場放映を終えた作品における、最終成果物を構成する制作データや完パケデータを、長期保管する目的で作成されるもの。

    例)・CG、撮影、デジタル作画など、各部門の最終工程におけるプロジェクトやシーンデータ、アセット、作業履歴など

このうち、サンジゲンにおいて特に課題となっていたのが、アーカイブの管理・運用方法だ。当時、データが書き出されたテープメディアは棚に物理保管されており、検索性や再稼働性に難があった。制作部からシステム・開発部に対して、「いつ頃のどの作品にこんなデータがあるはずだから探してほしい」といったリクエストが舞い込むと、テープをライブラリ装置に入れて、該当データを探し、HDDへ書き戻す必要があったのだ。

「書き戻してみないと中身はわからないため、せっかくHDDに戻してみてもちがったり、また一度戻すと面倒だからとそのまま全部ストレージに置かれたままになって、領域を圧迫する原因になったり……。何より、そもそもの作品データ総量が年々増加していることもあって書き戻し時間もかかり、システムサイドにかなり負荷がかかるようになってきていました」とふり返るのは、システム・開発部長を務める金田剛久氏だ。

  • 金田剛久/Takehisa Kaneta


    サンジゲン システム・開発部 部長
    ゲームソフトウェア開発会社のモデリング担当デザイナーとしてCG業界に入る。以降フリーランスCGデザイナー、CGアプリケーションエンジニアを経て2010年サンジゲン入社。主な参加作品にTVアニメ『ブラック☆ロックシューター』(2012)、映画『009 RE:CYBORG』(2012)、『ブブキ・ブランキ』(2016)など

そうした課題を解消すべく導入されたのが「ディターニティ」というわけだ。現在、アーカイブデータの運用は下図のように行われている。



▲データアーカイブ専用テープストレージシステム「ディターニティ」のシステム構成図

「磁気テープとHDDをハイブリッドしたシステムなので磁気テープによるコストメリットの高さと長期保管における優れた信頼性に加え、全テープの中身を"見える化"することができました。ネットワーク上のPCを使い、ファイルエクスプローラー画面からデータをプレビューしつつアイコン選択する感覚のまま、直接制作サイドでアーカイブデータを参照し、書き戻しまでを行えます。これによって、システム・開発部の作業はほぼゼロになりました」と、システム・開発部のシステムセクションマネージャーを務める中村公栄氏は語る。

なお、2020年4月上旬から5月末にかけての緊急事態宣言中はサンジゲンもリモートワークを導入していた。そうしたリモートワーク時もディターニティに保管されているアーカイブデータには問題なくアクセスできているとのこと。



▲モデル制作部が直接過去データ(教室モデルの最終版)の「教室モデル」を取得した例。「x」がついているデータはテープ上のデータ。取得するとHDD上に自動で書き戻され、xが消える

さらに中村氏は、これまで使ってきた”テープベースである”という安心感と信頼性も大きいと語る。

「われわれが長年使ってきたテープメディアがベースなので、安心して運用できます。独自フォーマットのメディアではないので今後の互換性に悩まされるリスクも低いです。棚保管もでき、常時通電の必要性もなく消費電力まで含めた運用コストも安価です」と、コスト面でもリスク面でも非常に高く評価する。「いかに活用するアーカイブとはいえ、利用率を数字で出すと1%程度。そこに対してどのようにコストをかけるのか? と考えれば、自然とテープライブラリに落ち着きます」(中村氏)。

  • 中村公栄/Kouei Nakamura


    サンジゲン システム・開発部 システムセクションマネージャー
    IT業界でSEを経験した後、2015年に入社。「いわゆる情シスとして、社内のあれこれを取りまとめています」

また、HDD/テープライブラリ/ソフトウェアが統合されたアプライアンス製品で、構築負荷が低く、全体的なサポート体制があることも大きなメリットだと中村氏は語る。

「導入時の作業も特別なこともなく、ネットワークの接続をしたりアーカイブ用のフォルダを設けたことくらい。カスタマイズ性も高くて、HDDキャッシュには30TBを積んでもらいました。当社のように定期的にアーカイブを見に行き、かつ1作品あたりのデータ容量が30~50TBにも達する場合は、HDDキャッシュが大きい方が好都合なので」。

サンジゲンでは、LTO7フォーマット(※1)のテープを採用し、1巻あたり6TB(非圧縮時)、全390TBのシステムとなっている。ここから、拡張して最大265巻1.5PBまで拡張することも可能(※2)だし、従来のようにシステムからテープを取り出し、物理的に保管することもできる。もちろん、システムから抜いた場合も中身のデータのサムネイルは検索上にしっかりと上がるため、テープを抜いても十分にアーカイブとしての活用は可能だ。


※1 現最新はLTO8フォーマット 1巻あたり12TB(非圧縮時)。LTOはHewlett-Packard社、IBM社、Quantum社が共同策定した磁気テープ記憶装置のフォーマット。Linear Tape-Open、LTO、LTOロゴ、UltriumおよびUltriumのロゴは、Hewlett-Packard社、IBM社およびQuantum社の米国およびその他の国における登録商標です
※2 LTO8フォーマットの場合、最大265巻3.1PBとなる

<2>アーカイブデータの傾向と運用における展望

「ディターニティ」を導入することで、「より積極的にアーカイブデータ活用が行なえるようになった」という声が、実際にサンジゲンの制作現場から上がっている。「特に我々モデル班は、アーカイブデータの利用率が高いのです」と語ってくれたのが、制作部でモデルの制作管理を行う田邊佳大氏だ。

「続編制作のためのひな型となるモデルを探したり、過去作品で使われていた構造を参考にするためにもち出したり、はたまた流用可能な素材を探したり……といったニーズは、以前から日常的にありました。しかし「ディターニティ」導入前は、アーカイブから取り出して確認するまでに時間も人手もかかってしまうため、あきらめたり妥協することも度々起こっていました」(田邊氏)。

  • 田邊佳大/Yoshihiro Tanabe


    制作部所属。2015年にサンジゲン入社、2018年からモデル制作として、モデルの制作管理業務を担当している。モデル制作としての主な参加作品は、『新サクラ大戦 the Animation』(2020)、『D4DJ First Mix』(2020)

実際、システム・開発部が制作部からの要望を受けて、その都度必ず当日に書き戻しができるとは限らなかった。書き戻す時間も、1巻あたり30分~1時間ほど要していたという。

それが「ディターニティ」導入後は、前述の構成図で示されているとおり、システム・開発部を介さずに制作サイドの端末から直接、アーカイブデータにアクセス可能となった(データセンターに置かれており、どの拠点からも参照可能)。

「打合せや発注が急に発生することもありますし、何より自分だけですぐにアーカイブにアクセスできるのが非常にありがたい。よりフレキシブルに制作準備や管理が行えるようになりました」(田邊氏)。

アーカイブを参照して実際に必要なデータを取得する際にも、サムネイルなどのデータ情報はハイブリッドに搭載されたHDDサイドにキャッシュされているため、GUIで通常のエクスプローラー操作の延長として「特に身がまえることなく、自然に扱えています」と、田邊氏。

「必要なデータを数点ほど、といった単位なら数分で取得できますし、すでにデータ自体がキャッシュされているものなら本当にすぐです。点数が多いと1時間ほどかかる場合もありますが、最初から大容量のデータと理解して扱っているので問題ありません。くり返しになりますが、自分で全てのデータにアクセスできるのが何よりもありがたいです」(田邊氏)。


アーカイブデータの活用ニーズ例(CGモデル制作の場合)

  • モデル開発参考
  • 新規のキャラクターCGモデル制作にあたり、キャラクターデザイン画のイメージに近しい過去作品のモデルを当たり、レンダリングイメージや実際のモデルデータを複数種をもち出して打合せを行なったり、また方針の決定以降は実際のモデルデザイナーがDCCツール上で参照しながら作成を行なったりする。
  • モデル制作流用
  • 昨今のアニメーション作品では、”現代の日常風景”がプロップとして用いられることが多くなっている。そうした、いわゆる汎用的な風景に使われるモデルデータ(街並み、宅内、およびそれらのシーン内の小物など)を、過去に作成された作品から流用したり、そのままでなくとも低い制作工数で調整して使えないか、といったかたちでアーカイブに当たる。
  • モデル発注管理
  • モデルの外注管理において、発注するものと似た要件のモデルデータを参照して以前の発注仕様などを確認したり、またそうした仕様を参考にして、新たな仕様を固めたりするのに用いる。

さらに、サンジゲンがつくり出すアニメーション表現は、年を追うごとに表現がリッチなものへと進化を続けており、1作品あたりでアーカイブされるべきデータ容量も増え続けている。「2020年現在の作品制作においては、ざっくりCGデータ:10TB/撮影:10TB/編集:10TB、作画:0.5TB……etcで、1作品あたりで約30~50TBになります。2、3年前の作品では、1作品あたり全体で10~20TBでしたから、大幅に増加していますね」(中村氏)。

CGや撮影データなどにおいては、重ねる画素材の多層化や、純粋な高解像度化(4K対応や劇場用サイズ化など)が、データ容量増大化の要因と考えられるが、CGデータが2年あまりでここまで増大化する要因は何か。

「モデル制作ではCGデータにおいては書き出すマテリアルの増加やモデルのハイポリゴン化、骨格構造の複雑化などがデータ量が増えている背景にあります」と説明するのは、京都スタジオの創造部モデルセクションに在籍し、モデラ―チーフを務める原岡大輔氏だ。

  • 原岡大輔/Daisuke Haraoka


    創造部モデルセクション所属。モデラーチーフ。キャラクターのモデリング、ディレクションなどを主に担当。主な参加作品は、『新サクラ大戦 the Animation』(2020)、『D4DJ First Mix』(2020)



▲図は原岡氏が参加しているTVシリーズ『D4DJ First Mix』(2020)のメインキャラクターモデル(Aスタンス)。数年前に比べてポリゴン数が増えているほか、衣装の発光部であったり質感の撮影処理用の素材も増えた。また表情を豊かに表現できるよう、フェイスリグやモーフパターンも新規に追加がなされ、同じシリーズの続編で同一キャラクターであっても、モデルデータとしては別物といえるものに進化している
©bushiroad All Rights Reserved.

「デザイナーの観点から言えば、アーカイブされているデータはシーンにまとめられていたりするもののため、直接アーカイブに触れる機会は少ないかもしれません。制作部を通して、必要なモデルのみ抽出されたものをベースとして、制作を始めますので。ただ、その立場でも、以前よりは活用度が高まったなと実感しています。過去のデータを参照しながら打合せたり、つくり始める機会が確実に増えています」(原岡氏)。



▲ポージングと質感調整が施された『D4DJ First Mix』メインビジュアルより
©bushiroad All Rights Reserved.

制作作業に集中するモデルデザイナーの立場としては、まだアーカイブデータは1アクション先にあるという認識だが、それはサンジゲン内におけるモデルやマテリアルといったデータの分類と、その最適なライブラリ構築といったシステム上の課題と捉えられる。アーカイブアクセスが容易になったことで、逆説的に必要となり始めた新たな今後のテーマと言えるだろう。

「データの増大化に伴い、現在はライブラリの分類やタグ付けなど、アーカイブデータを専門で扱うアーティストを配置するようになりました。ディターニティのGUIが使いやすく、より使い勝手の良いライブラリを構築できたことが大きいです。アーカイブデータへのアクセスが容易になったことで制作現場への付加価値提供はもちろんのこと、制作工数の最適化やコンテの尺の自動分析といった研究開発/経営分析にも使える存在となっています」(金田氏)。

ただ眠らせるだけのコールドデータとしてのアーカイブではなく、積極的にアクセスして利用する。アニメCGの先駆者サンジゲンならではの"攻めの姿勢"が見える磁気テープアーカイブシステムの活用事例である。

Information

データアーカイブ専用テープストレージシステム
「ディターニティ オンサイト アーカイブ」

サンジゲンが導入した「スタンダードモデル」に加え、既存ストレージに簡単に追加でき、少ない業務負荷と低コストでテープアーカイブが導入できる「アタッチモデル」もラインナップ。



ディターニティ オンサイト アーカイブ [アタッチモデル]

問:富士フイルム株式会社 記録メディア事業部
TEL:03-6271-2084 (受付:平日 9:00~18:00 ※土日祝日を除く)