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日本政府は2050年までにカーボンニュートラルの実現を目指している。そのためには、大小あらゆる企業のCO2排出削減や、クリーンエネルギーの活用、イノベーション創出などの協力が不可欠だ。ではスタートアップはこの問題にどう取り組んでいるだろうか。

Energy Tech Meetup共同設立者であるAmanda Ahl(アマンダ・アール)氏をモデレーターに、経済産業省 環境政策課総括係長の太田優人氏、Plug and Play エネルギープログラムリードのKathy Liu(キャシー・リュー)氏、MPower Partnersマネージング・ディレクターである鈴木絵里子氏、U3 Innovations ダイレクター川島壮史氏、Energy and Environment Investment Inc マネージング・ディレクター山口浩一氏が語り合った。

本記事は8月25日、オンラインで開催されたイベント「How can startups help Japan’s energy sector reach net zero?」をまとめたものとなる。

スタートアップを巻き込んだオープンイノベーションの重要性

菅義偉内閣総理大臣は2020年10月、2050年までのカーボンニュートラル実現を目指すと宣言。2021年4月には、2030年度までに温室効果ガスの排出を2013年度比で46%に削減すると話した。

しかしカーボンニュートラル実現までの道のりは長い。2019年時点での二酸化炭素排出量は消費者、産業、交通、電力セクターを合わせて10億3000万トン。これを2050年までにゼロにするのだ。

経済産業省 環境政策課総括係長の太田優人氏

太田氏は「実現のために何をするのか。まず電力供給源を脱炭素化します。同時に、水素やバイオマスの活用を進めます」という。

電力のカーボンニュートラル化に関し、太田氏は4つの主要なアプローチを挙げた。

1つ目は再生可能エネルギー。洋上風力発電、バッテリー活用、地熱産業が注目される。2つ目は水素発電。需要と供給両方を増やすことと、インフラの整備が必要だ。3つ目は二酸化炭素回収と合わせた火力発電。火力発電の活用は最小限に抑えらえるべきだが、太田氏は炭素リサイクル産業も視野に入れるべきだという。そして4つ目が原子力の活用だ。安全性が最優先事項であるという。

太田氏は「こうした状況で日本のスタートアップはどんな立ち位置にいるのでしょうか。国内のオープンイノベーションの状況を見ると、大学や研究機関、既存の企業の取組は活発なのですが、スタートアップを巻き込んだオープンイノベーションは下火です。米国と比べると非常に顕著です」と現状を分析する。

二酸化炭素の排出はさまざまなプロセスで発生する。製造業であれば、製品を製造する過程や製品を運ぶ過程で発生する。運輸業であれば、ビジネスを走らせることそのもので二酸化炭素が発生する。物理的な製品やプロセスが発生しない産業であっても、ビジネスプロセスの中での移動や電力利用まで考慮すれば、CO2排出と無縁ではいられない。

太田氏は「カーボンニュートラルには、産業を超えたコラボレーションやイノベーションが必要です。日本では特にスタートアップを巻き込んだオープンイノベーションが遅れています」と警鐘を鳴らした。

閉鎖的なエネルギーセクターにどう入り込む?

アール氏は「スタートアップはどうエネルギーセクターに貢献できるのでしょうか?」と質問を投げかけた。

環境・エネルギーに特化したベンチャーキャピタルであるEnergy and Environment Investmentの山口氏は「エネルギー産業はこれまで大手や大企業が中心でしたが、今ではスタートアップも参入しています。大企業はマーケティングが上手くないところが多いので、スタートアップはメッセージングの強さで存在意義をアピールできるのではないでしょうか」という。

スタートアップとリーディングカンパニーのマッチングなどを行うベンチャーキャピタル、Plug and Playのリュー氏は「海外のスタートアップがエネルギーセクターに参入する際、3つの壁があります」と話す。

1つ目はエネルギーセクターの閉鎖性だ。特に海外のスタートアップにとって、現地のステークホルダーとリレーションのある日本企業とのコラボレーションは難しい。2つ目は日本のコミュニケーション方法と意思決定の複雑さだ。日本企業の意思決定は複雑で時間がかかるため、海外のスタートアップには理解が難しいという。3つ目は日本企業の高い期待だ。日本企業のスタートアップへに課せられるのはハイスタンダードであることが多く、それを満たせない海外スタートアップも多いという。

太田氏も日本企業にありがちな時間のかかる意思決定と硬直したプロセスに危機感を抱いている。同氏は「多くの日本企業がアジャイルな意思決定に慣れていません。市場トレンドにも迅速に対応できないので、変えていく必要があります」と話す。

アール氏は「スタートアップがエネルギーセクターでビジネスを行う際の国からの支援体制はどうなっていますか?」と太田氏に質問した。

太田氏は「国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)がグリーンイノベーション基金事業という支援を行っています。ですが、これには10年分の事業プランが必要です。スタートアップ向きとは言えないかもしれません。NEDOには研究開発型スタートアップ支援事業というものもあります。これはシード期のスタートアップに向けたものなのでこちらを検討してもらったほうが良いかもしれません」と答えた。

カーボンニュートラルはエネルギーセクターだけの問題ではない

ESG重視型グローバル・ベンチャーキャピタルファンドであるMPower Partnersの鈴木氏は日本の消費者のリテラシーの低さに言及した。

「カーボンニュートラルはエネルギーセクターだけの話ではありません。どのセクター、企業にも関わることです。しかし、日本国内では、自動車業界のように明らかにCO2排出に関わっている業界に対してはカーボンニュートラルに責任があるとみなされますが、CO2排出のイメージが薄いセクターや企業は責任がないかのように認識されています。エネルギーセクターだけでなく、その周辺のセクターや企業からのソリューションも重要性なのです」と鈴木氏は話す。

U3 Innovationsの川島氏も「エネルギーセクターではない企業もカーボンニュートラルに貢献できる」として、建設業界を例に出した。

日本国内には多くの建設業事業者がいる。小規模の事業者も多い。川島氏によると、こうした小さな事業者はソーラーパネルの設置など、環境に優しい設備の設置のノウハウがないことが多いという。

「大手の建設業者がこうしたノウハウのない企業にソーラーパネルの設置ノウハウなどを提供すれば、カーボンニュートラルに向けた動きと見なすことができます」と川島氏。

最後にアール氏が「カーボンニュートラルに関わりたいスタートアップにアドバイスはありますか?」と質問すると、リュー氏が回答した。

リュー氏は「海外のスタートアップ向けのアドバイスになりますが、日本のエネルギーセクターに入るのが難しければ、スタートアップの支援をしている組織の力を借りても良いでしょう。また、文化の違いや言語の違いを克服するため、日本にカントリーマネージャーを置いても良いでしょう。日本市場には大きなポテンシャルがあり、日本の企業も変わってきています」と話し、ディスカッションを終了した。

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