基本的にオンラインイベントとして行われている「東京ゲームショウ2021」であるが,幕張メッセにはオフライン会場も用意されており,様々な展示や実演が行われている。「広島市立大学×Movere」ブースに展示されていたのが,「VR用歩行装置 Crus-TypeC」(以下,Crus)だ。
VR向けの歩行デバイス自体は珍しいものではないが,このCrusは,価格が9万9800円(税および送料込)と比較的安価なうえ,体を固定するハーネスや,足に履く専用シューズを必要としないところが魅力となっている。
VR用歩行装置Crus
[embedded content]
VR世界において,移動をどう扱うかは一大テーマである。プレイヤーの身体が動かないのにゲーム世界だけが動くと,VR酔いが発生しやすい。であれば,実際に身体を動かしてもらえばいいのだが,HMDで視界を遮られているため,本当に歩いたり走ったりするのは危険だ。ゲーム内では野原が広がっているのに,身体のほうは部屋の壁に激突する……なんてことも起こり得る。
こうした問題を解決するのが,擬似的に移動感を再現するVR用の歩行デバイスだ。腰をハーネスで固定して,滑りやすい専用シューズを履いた状態で,デバイスの床上で足を動かすなどして,歩行したような感覚を得るのである。
現在は小型化,低価格化が進んでいるものの,かつては100万円近くする製品も存在していた。また,依然として機器の設置スペースや重量といった問題があるのも確かだ。
こうした中で,簡便さと省スペース性,そして低価格を謳うのがCrusである。開発者である脇田 航氏の,「机の前にクッションを当てて目をつむり,歩く風景を思い浮かべながら前に進もうと足踏みすると歩行感覚に近い感覚が得られた」という実体験をもとに作られたデバイスで,「机の前に当てたクッション」に当たる機器が本体である。
プレイヤーの身体にセンサーやハーネスを接続する必要がなく,本体のみの最小構成だと重量はわずか約4.2kgで,机に設置することが可能だ。専用スタンドにセットしても,高さ約50cm,スタンドの直径は約60〜70cmで,本体含む総重量は約13.7kgとコンパクトだ。
会場には,スタンドに本体をセットしたタイプのものが展示されていた。
使い方は簡単で,「凹」の字型をした本体に足を揃えて入れ,進行方向に体重をかけながら,その場で足踏みをするだけ。本体に内蔵されているのは,体重計にも使われている加重センサで,「どの方向に体重がかかっているか」や「足がどれ位上がっているか」を検知して,VR空間内での移動(歩行)方向を制御する。脇田氏いわく,「体重計を横にしたようなもの」だそうだ。
足踏みのときに「進行方向に体重をかける」のがポイントで,この動きに移動しているゲーム画面が組み合わさると,自分で足踏みしていることもあって,実際に歩行しているような感覚を味わえた。
デモンストレーションで体験できる専用ゲームは,「煮えたぎる溶岩の上に渡された,岩の橋を歩いて渡る」というもので,橋の細い部分を渡るときなどは,思わず緊張してしまった。ハーネスや専用シューズの着脱が必要なく,スタンドの上に乗って「凹」の字に足を入れるだけという手軽さも,魅力に感じられた。
現在は「開発者向け評価版」の段階であり,ゲームエンジンの「Unity」や「Unreal Engine 4」向けソフトウェア開発キットの配布が予定されているそうだ。VRプラットフォームとしては,今のところ「SteamVR」に対応しているが,歩行動作をキーボードやマウス操作に置き換える常駐ソフトも提供されているため,知識がある人ならば,自分で設定することにより,既存のVRゲームやほかのVRプラットフォームでも,Crusを使える可能性があるという。
Crus-TypeC常駐ソフト動作テスト@Cluster
[embedded content]
VR用歩行装置Crus-TypeC 6点トラッキング動作テストwith ValveIndex and Crus-TypeC@ClusterVR Cluster Lobby
[embedded content]
気になる価格は,Crus本体が9万9800円で,「専用スタンドΦ600」が3万9800円,「専用スタンドΦ750」が4万9800円(いずれも税,送料込)。目から鱗の感があるこのVR用歩行デバイス,今後のソフトウェア開発キットや開発ツールの充実も期待したいところだ。