東京オリンピック、個人で9個の金メダルを獲得した日本柔道。躍進の要因はオリンピック1年延期の影響を最小限にとどめ、逆にこの期間をプラスに捉えたことでした。
延期の1年の過ごし方が躍進に
個人の7階級を終えた30日夜、女子の増地克之監督は「1年延びて苦しかったと思うが、選手たちは気持ちを切らさずによくやってくれた」とねぎらいました。
男子の井上康生監督も「さまざまな障害を乗り越えて彼らはこの場に立って試合をしてくれた。すべての選手がよく頑張ってくれた」とたたえました。
両監督の総括からはオリンピックが延期された、この1年の過ごし方が躍進につながったことがうかがえます。
オンライン活用 選手と情報共有
この状況の中で、積極的に活用したのがオンライン。合宿で集まれない代わりに定期的にオンラインでのミーティングを開きました。1週間に1回のペースで、選手の稽古の現状や体調を把握したほか、海外勢の傾向などの情報やオリンピックに向けた心構えなどについてもこの場で共有してきました。
さらに日本代表の担当コーチを選手の練習拠点に派遣する個別での合宿を中心に据え、監督も練習拠点を訪れて視察しました。
女子 海外選手のデータにない新たな得意技を
今大会、金メダル4個を獲得した女子の増地監督は選手に対して「得意技をもう1つ増やすこと」を課題として与えました。海外勢のデータにはない技を増やすことで、選手たちのもともとの必殺技も使いやすくなると考え、新たな技の習得に時間を使いました。
52キロ級の阿部詩選手は得意だった担ぎ技に加えて、この期間で強化してきた足技と寝技も有効に使って金メダルにつなげました。
また、寝技が得意の78キロ級の濱田尚里選手は寝技につなげるパターンを増やし、準決勝では取り組んできた担ぎ技から寝技につなげる形で勝って金メダルにつなげました。
男子 本番同様の体重調整や体のケアに
一方、金メダル5個を獲得した男子は、この期間をコンディション調整に活用し、大会にピークを合わせた選手が活躍する姿が見られました。
60キロ級で金メダルを獲得した高藤直寿選手は、これまで最も減量に苦しんできた選手です。高藤選手は本番と同じような日程を組み、減量のための合宿をしました。去年12月に国立スポーツ科学センターのサポートを受けて、栄養バランスを考えた食事と稽古による消費カロリーを計算、大会日前日に見立てた日に実際に計量をしました。この経験を生かして、本番でも同じように長い時間をかけて体重調整を行いました。
100キロ級のウルフアロン選手は、手術したひざのケアを最も重視して、この期間を過ごしました。海外での試合や合宿の参加は控えて、自身のひざの状態と向き合いながら稽古と治療のバランスを取り、試合当日にピークを合わせて金メダルにつなげました。
開催国のメリット最大限に
海外の選手が選手村と練習会場の東京 文京区の講道館を行き来し、練習時間も厳しく管理される中、日本選手は道場が併設された施設で、調整の時間を十分に取ることができ、開催国のメリットを最大限に生かしたといえます。
こうして日本柔道はオリンピック延期の期間と地の利を躍進につなげました。
最大の要因は選手たちの強い意志
ただ両監督が語ったとおり、決して忘れてはいけないのは選手たちの強い意志です。
感染拡大という先の見通せない厳しい状況の中でも、選手たちが目標を見失わずにひたすらに続けてきた努力がメダル量産の最大の要因であることは言うまでもありません。