ジェイソン・ステイサムとガイ・リッチー監督が16年ぶりにタッグを組んだことでも話題の映画『キャッシュトラック』が10月8日(金)より全国公開する。このクライム・アクションの魅力を、ジェイソン・ステイサムとガイ・リッチー監督が歩んできた道のりを振り返りつつ、徹底解説する。
2分で出演を快諾したジェイソン・ステイサム。ガイ・リッチーとの16年
『トランスポーター』(02年・05年・08年)では、黒のBMW735i(E38)を華麗に操る謎の運び屋。『エクスペンダブルズ』(10年・12年・14年)では、シルヴェスター・スタローン率いるチームの一員となるナイフ術のエキスパートの元SAS(イギリス陸軍特殊部隊)隊員。そして、『EURO MISSION』(13年)以降の出演となる『ワイルド・スピード』では、ドウェイン・ジョンソン演じる捜査官の良きライバルとなる格闘術に長けた元SAS大尉……。次々と人気アクション・シリーズに出演し、間違いなく現代を代表するアクション・スターの1人と言えるのがジェイソン・ステイサムである。水泳飛込競技のイギリス代表選手から、ファッションモデルに転身。そんな意外な経歴を持つ彼が、ギャングからの大金強奪計画を企てる主人公の一人として抜擢された俳優デビュー作が、『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(1998年)。そして、この作品で長編監督デビューを果たし、“第二のクエンティン・タランティーノ”として一躍注目を浴びたのがガイ・リッチー監督である。
これを機に、コンビを結成した2人は、ステイサムが主人公の裏ボクシングのプロモーターを演じた『スナッチ』(00年)で、共にハリウッド進出。ブラッド・ピットの出演も大きな話題を呼ぶ中、ステイサムはカリスマ性のある主演俳優として、リッチー監督は斬新なテクニックで撮影を行う独創的な監督としてハリウッドから世界中に認知されることに。だが、ステイサムがすご腕ギャンブラーを演じた『リボルバー』(05年)を最後に、お互いの道を歩き始め、ステイサムは先に挙げた人気シリーズを担うスター俳優に。リッチー監督も誰もが知る名探偵の活躍を大胆解釈した『シャーロック・ホームズ』シリーズ(09年・11年)やディズニーアニメを実写化した『アラジン』(19年)など、幅広いジャンルを手掛けるヒットメイカーになっていった。
そんな2人の16年ぶりのタッグ作に選んだのが、『キャッシュトラック』である。制作初期段階から、「主人公にはステイサムしかいない!」と考えていたリッチー監督に対し、脚本に魅了されたステイサムは監督と会って、2分ほどで出演を快諾したという。現在のステイサムの活躍を、「ステイサムが映画のスター俳優になることをいつも望んでいたので、それが今や現実となっていてとてもうれしい」と語るリッチー監督。そんなエピソードからも、2人の関係性が分かるだろう。
リアル至上主義を徹底し、フィルムノワールのスタイルを貫いた2人の新境地
本作でステイサムが演じているのは、LAにある現金輸送専門の警備会社に雇われた新人警備員、パトリック・ヒル。通称“H”と呼ばれる彼は、周りから気に留められる存在ではなかったが、彼の乗った現金輸送車(キャッシュトラック)が強盗に襲われた際に、驚くほど高い戦闘スキルでそれを阻止。さらに、彼の顔を見た犯人たちは、なぜか金も奪わずに逃げてしまう。どんな絶体絶命の場面に直面しても、常に寡黙で、全く表情を崩さない“H”。だが、物語が進むうちに、“ある目的”のためには手段を選ばないキャラクターだと判明する。英雄(ヒーロー)なのか、悪党(ヒール)なのか分からない、謎多きダークヒーロー的な魅力にあふれているのだ。
そんな先の読めない展開の脚本も手掛けているリッチー監督だが、本作では自身の持ち味でもあったスタイリッシュな演出や編集を完全封印。ステイサムの動きに対しても、滑らかさや格好良さを求めないリアル至上主義を徹底し、息詰まる銃撃シーンなどでは非情さを物語るなど、フィルムノワールのスタイルを貫いている。つまり、これまでの2人のコラボ作とは大きく異なり、コミカルなシーンは一切なし。まさに、新境地とも言える激シブな雰囲気に包まれている。
【映画『キャッシュトラック』メイキング写真】
全米公開時『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』から興収1位を奪取!
ステイサム演じる“H”とコンビを組む相棒役のジョシュ・ハートネットや、会社の車庫管理責任者を演じるエディ・マーサン。強盗団役ではジェフリー・ドノヴァンやスコット・イーストウッド、裏社会を牛耳る謎の男“ザ・キング”にはアンディ・ガルシアなど、主演級のキャストの共演も見どころの本作。また、人気ミュージシャンのポスト・マローンもサプライズ・ゲストとして登場する。
そんな本作のオリジナルは、フィルムノワールの傑作として評価も高い、フランス映画『ブルー・レクイエム』(04年)。早い段階からハリウッド・リメイク権が獲得され、一時は主人公を女性に変更し、サンドラ・ブロックが主演するプロジェクトも動いていたが、ステイサム&リッチー監督コンビの手によって、実に男臭い作品に仕上がった。
そして、今年5月に全米公開された際には、前週トップだった『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』から首位を奪還するほか、同日に公開された『モータルコンバット』をも撃破した。また、世界の映画ファンから絶大な信頼を得ている映画サイト「ロッテントマト」では、観客評価90%の高評価を獲得している。
ステイサムの魅力が存分に生かされたアクションと、謎の男の目的と大金強奪計画が絡み合うリッチー監督ならではの構成の妙。2人の長年にわたる友情と魅力が集約された『キャッシュトラック』は今秋、見逃せない一本といえるだろう。
【映画『キャッシュトラック』場面写真】
映画『キャッシュトラック』
2021年10月8日(金)より全国ロードショー
(STAFF&CAST)
監督・脚本:ガイ・リッチー
出演:ジェイソン・ステイサム、スコット・イーストウッド、ホルト・マッキャラニー、ジェフリー・ドノヴァンほか
(STORY)
LAにある現金輸送専門の警備会社フォーティコ・セキュリティ社。日々、現金輸送車(キャッシュトラック)を運転するのは、特殊な訓練を受け厳しい試験をくぐり抜けた強者の警備員たち。そこに雇われた新人パトリック・ヒル(ジェイソン・ステイサム)、通称“H”。試験をぎりぎりで合格した彼は周りから特に気に留められる存在ではなかった。しかし、彼の乗ったトラックが強盗に襲われた時に驚くほど高い戦闘スキルでそれを阻止する。彼は一体何者なのか? 周囲が疑心暗鬼に陥る中、全米で最も現金が動く日“ブラック・フライデー”に集まる1億8,000万ドルの大金を狙う強奪計画が進行していた。
2021年/アメリカ、イギリス/英語/119分/原題:「WRATH OF MAN」/
カラー/シネマスコープ/5.1ch/DCP/字幕翻訳:平井かおり/配給:クロックワークス
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(執筆:くれい響)