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パナソニックから、掃除する“前”から掃除した“後”までのあらゆるストレスを大幅に軽減してくれる画期的な掃除機が登場しました。それがセパレート型コードレススティック掃除機「パワーコードレス MC-NS10K」です。商品名に「セパレート型」と表記されているように、なんとスティック掃除機から「ダストボックス」を分離し、ゴミ収納機能を充電台に移してしまったのです。

↑セパレート型コードレススティック掃除機「パワーコードレス MC-NS10K」 SPEC●集じん方式:紙パックレス式(スティック)/紙パック式(クリーンドック)●集じん容積:0.05L(スティック)/0.8L(クリーンドック)●運転時間:HIGH約6分/AUTO約10~15分●充電時間:約3時間●運転音:72dB~約64dB(スティック掃除機使用時)/約69dB~約27dB(クリーンドック)●サイズ/質量(スティック時):W213×H1030×D130mm/1.5kg

 

画期的な進化を果たした新クリーナーの誕生秘話を聞く!

これにより掃除機はこれまでになくスリムになり、部屋にすっきり設置可能に。掃除中の取り回しも断然スムーズで、吸引力(ゴミ取り能力)も文句なしです。さらに注目なのは掃除後。掃除機本体をクリーンドック(充電台)に戻すと、掃除機の中のゴミをドックが吸引して内部の紙パックに自動回収。掃除後の面倒なゴミ捨てが不要になり、ゴミ捨ては約1か月に1回の紙パックの交換だけで済むようになりました。

 

ダストボックスを分離することで、これだけのブレークスルーを成し遂げたのはまさに画期的といえます。これは開発者の方にぜひ同モデル誕生の裏話をうかがいたい! ということで、MC-NS10Kのデザイン担当の藤田和浩さん、技術部門を担当した堀部 勇さんにお話をうかがいました!

 

【お話をうかがったのはこの方たち】

パナソニック デザインセンター AD1部

藤田和浩(ふじた・かずひろ)さん

1992年入社。掃除機、アイロン、炊飯器など同社の白物家電全般のデザインを担当。2014年からは掃除機全体のデザインを統括している。MC-NS10K開発の立ち上げ時からプロジェクトに携わり、同機のメインデザインを手がけた。

 

パナソニック  クリーナー技術部 主任技師

堀部 勇(ほりべ・ゆう)さん

2010年入社。入社後から一貫して掃除機の開発に従事。2015年頃から同社の新型掃除機の要素開発を担当するようになり、キャニスター掃除機 MC-JP800Gのアタッチメントや「からまないブラシ」の開発を担当。2019年からMC-NS10Kの開発に携わる。

 

若手社員の何気ない一言からアイデアが生まれた

本機の開発が始まったのは2019年。パナソニックのコードレススティック掃除機の共通コンセプトは「ラクに使えて、しっかりキレイ」で、これは掃除機の使い勝手の良さと吸引力の強さを兼ね備えるという意味。デザイン担当の藤田和浩さんによると、新モデル開発に当たってはさらに「心まで軽くしたい」という目標があったそうです。

 

「掃除は長年嫌いな家事の1位2位に入ります。その『やりたくない』というハードルをできるだけ下げたい。それをデザインで実現できないかというのが開発のきっかけです。今回は掃除をしていない時間も含めて『使う人のストレスにならない』とはどういう掃除機なのか、ということをメインに考えました」(デザイン担当・藤田さん)

 

そのなかで、藤田さんたちがイメージしていたのは「箒(ほうき)」だそうです。

 

「箒みたいに軽くできないかという思いが昔からありました。できれば1本の棒にノズルがついているだけ、といったものを実現したいと思っていましたが、モーターも必要、ダストボックスも必要、と考えていくと普通の掃除機になる。『棒にするにはどうしたらいいか』というのが長年の課題でした」(デザイン担当・藤田さん)

↑クリーンドック(充電台)に収まっている姿はまさに1本の“棒”。マットな白のカラーリングは幅広いインテリアに溶け込みます

 

そんななか、デザインのアイデアを検討するミーティング中にちょっとした“奇跡”が起きます。「箒のような掃除機」というテーマからいったん離れ、「どんな掃除機が使いやすいか」をブレインストーミングしていたとき、デザイン部の若手社員がふと「充電台にダストボックスを持っていったらどうなりますか?」と聞いてきました。彼は日頃からゴミ捨ての際、ホコリが舞うのがとにかくイヤで、それをなくせないかと思っていたそうです。

 

「『これはひょっとしたら使えるぞ』と思いました。ダストボックスがなくなれば、本体を“棒”に近づけることができる。充電台は少々大きくても、ゴミ捨ての手間やホコリが舞う不便が解消できるならいいじゃないか! ということで、その2つをセットにし、弊社のデザインセンターで毎年行う『先行デザイン提案』の場で発表しました」(デザイン担当・藤田さん)

↑充電台(クリーンドック)の紙パックにゴミを溜めるしくみ

 

このアイデアが社内で大きな反響を呼び、従来の開発では「このデザインだと既存のパーツをどう配置するか」というパーツ優先の流れになるところを、今回は「棒状のデザインを実現するため、各部品の小型化をどう進めるか」という、デザイン優先の流れになったそうです。つまり、アイデア優先のコンセプトモデルが、商品化に向けて本格的に動き出したということ。その高いハードルに対し、技術チームも静かに燃えていたようです。

 

「最初のイメージモデルを開発スタッフに紹介した3、4か月後のこと。事業部に行ったら、すでに技術試作ができていたんです。そのとき『あ、技術部も本気なんだ!』と感じて、とても感動したのを覚えています。試作品を囲んでワイワイしゃべる時間は楽しかったですね。いいものができるぞ! という高揚感がありました」(デザイン担当・藤田さん)

 

本体のゴミをクリーンドックにうまく移動できない!

こうしてスタートした本機の商品開発。なにしろ初めての試みばかり。クリーナー技術部の堀部 勇さんも「こんなに細い本体の中にどうやって部品を入れるのか……何度も何度も試行錯誤しました」と語ります。

 

「今回はモーターも新しく製作し、電池も小型化しました。しかも弊社のモットーは『ラクに使えて、しっかりキレイ』ということで、『吸引力』にこだわりがあります。その絶対条件を守りながら小型化しなければならない。一度積み上げては壊し、また積み上げては壊し……を繰り返し、ムダな部分を省いて製品を作っていきました。プロトタイプは少なくとも数十個は作っていますね」(技術部・堀部さん)

 

特に難しかったのは掃除機で取ったゴミをクリーンドック(充電台)にどうやって移送するか。吸引力の強いキャニスター掃除機のモーターをクリーンドックに搭載することは決まりましたが、試作機を作るとモーター吸引力を上げても本体のゴミを十分に移送できなかったのです。

 

「これを解決するには、3つのポイントがありました。ひとつはクリーンドックの吸引に強弱をつけること。一度吸引をかけただけだとどんなに吸引力が強くてもフィルターに引っかかるゴミがあります。そこで釣り針の“根がかり”を外すときに一度引っ張る力を緩めて引っかかりを取りやすくするように、吸引力を一度弱めてからまた強くする『2ステップ吸引』を採用しました。2つめは本体のノズルから空気が入り、クリーンドックの吸引力が落ちる問題を解決するため、収納時にノズルが90度の状態になると風が通らない機構を開発したこと。3つめは、本体内のフィルターを、プリーツフィルターからゴミ離れが良いコップ型のフィルターに変えたことです」(技術部・堀部さん)

↑ノズルの角度が90度になると、ノズル側からは風が通らない仕様に。つまり、収納時は風が通らない状態になります

 

↑従来型のヒダのあるプリーツフィルターではなく、ゴミ離れがいいコップ型のフィルターを採用

 

本体重量よりも手元を軽くすることにこだわった

一方で、ダストボックスの分離で掃除機本体のデザインの自由度も一気に上がりました。本機では装飾的な要素をなくし、使わないときは一切掃除機に見えないようにしたそうです。

 

「今回の商品は短時間でサッと掃除することにフォーカスし、ハンドルは握りやすさに配慮しながら掃除機本体の凹凸も最小限にしました。クリーンドックも前から見たときにできるだけ薄く見えるようレイアウト。本体をいかに簡単に、本当に“置くだけ”のイメージで充電台に戻せるかにも注力しています」(デザイン担当・藤田さん)

↑スリムなクリーンドック

 

本機の重さは1.5kg。他社ではより軽いモデルも登場していますが、これらを超える軽さを追求するより、重視した点があったそうです。

 

「『ラクに使えてしっかりキレイ』が我々の目指す掃除機。特に『しっかりキレイ』の部分、つまり、吸引力やノズルの性能にこだわり続けているため、これを担保できる性能を込めた結果、この重さになりました。一方で、ユーザーが実際に感じる「軽さ」は、すなわち『手元にかかる負担』です。つまり、本体全部を軽くしなくても、手元を軽くすれば掃除はラクになる。ということで、なんとかペットボトルより軽くしたい! と思い、手元重量0.45kgを実現しました」(技術部・堀部さん)

↑掃除機自体が軽量なのに加え、主要パーツがすべて掃除機の下部に集中することで下重心に。手元にかかる負担がより軽くなり、まさに箒を使うような軽快感で掃除機がけができます

 

本体をクリーンドックに装着するシーンにもこだわりが

さらに、本体をクリーンドックから外すときやクリーンドックに戻すときの装着感にもこだわったとか。ノズルをどの方向から入れてもキレイに装着できるよう、ノズルが入る斜面の角度を工夫したうえで、密かにノズルが外れないための突起も設けられています。

 

「当初、技術部からは『ノズルを完全にホールドしたい』といろいろな突起やフックの提案をされたのですが、それはやめたい、と伝えました。デザイン部からは、極力何もなくして『本体を戻すだけで良い』とわかるようにしてください! とお願いしたんです」(デザイン担当・藤田さん)

 

「今回は、掃除機を収納する向きを変えたのも大きなこだわり。従来はスティック掃除機を充電台にセットするとき、一度掃除機の向きをユーザー側に向けるひと手間がありました。しかし本機は掃除した向きのまま、ノズルをスライドさせるだけでクリーンドックにセットでき、掃除を始めるときも、ドックから外してそのまま掃除できる。着脱のときに手元にかかる負荷もかなり少なくなっています」(技術部・堀部さん)

↑掃除が終わったら、そのままヘッドをクリーンドックにスライドさせます。真正面からだけではなく、多少斜めからスライドさせてもOK

 

↑ワンタッチでクリーンドックにピタリとハマります。掃除を始めるのもカンタン

 

「ナノイーX」と「からまないブラシ」も搭載

メンテナンスのしやすさにもこだわりが。本体をクリーンドックに戻すと、1日あたり約4時間、微粒子イオン「ナノイーX」が放出され、紙パック内に集めたゴミを除菌・脱臭。紙パック内でのニオイの発生を抑制します。掃除後のゴミは紙パック内に約1か月留まるので、特にペットユーザーには大いに役立ちます。

↑クリーンドックの天面には「ナノイーX」のロゴが

 

さらに本機に搭載の「からまないブラシ」は、その名の通り毛がからみにくく、面倒なブラシの毛がらみ除去がほとんど不要。2020年発売のパワーコードレスから採用され、大好評を得ている技術です。今回、本機への「からなまいブラシ」の搭載にあたって、最も苦労したのはブラシの小型化。ノズルはブラシの角度や内部の形状を少し変えただけで空気の流れが変わり、十分な吸引力を得られなくなるそうです。

 

「実は今回の『からまないブラシ』は円錐型ブラシの角度はほとんど変えていません。変わったのはブラシの直径で、径を小さくしたことでゴミが取りにくくなる問題をどう解消するかが課題でした。個人的にも『からまないブラシ』のノズルを少しでも軽くしたいと考えていたところ。ノズルの構成そのものを見直してリメイクし、なんとか課題をクリアできたのは本当に良かったです」(技術部・堀部さん)

↑「からまないブラシ」は長さもブラシの径も小型化

 

↑ノズルの横幅は21.3㎝とコンパクト。取り回しがラクになり、汚れを見つけてサッと掃除するのには最適です

 

「従来のような塗装や加飾は一切やめよう」と最初から決めていた

↑余計な線や突起を配し、流麗なデザインを実現。表面にはシボ(凹凸)加工を施してマットな質感に

 

まさに1本の棒のようなシンプルなデザインでどんな部屋にも圧迫感なく置ける本機。その“部屋なじみの良さ”に寄与しているのがマットな質感と白のカラーリングです。

 

「本機では、従来のスティック掃除機のような塗装や加飾は一切やめようと最初から決めていました。本当に棒のようなシンプルな外観を目指していたので、開発現場では本機のことを『棒』と呼んでいましたね(笑)。色に関しても、シャンパンゴールドや赤ではなく、白ベースで考えましょう、と。質感に関しては、インテリアの中に置いて違和感がないマットな質感に仕上げています」(デザイン担当・藤田さん)

 

しかし、デザインにこだわるあまり、開発の過程では技術部への注文がどうしても多くなってしまったようです。

 

「デザイン部と技術部のやりとりは3D CAD(3次元コンピュータ支援設計)で行ないますが、ほんの少し内側の面を調整するだけでも何度もやりとりしました。技術部が作ってくれた3Dデータに対して『この線を一本減らしてほしい』『この穴を移動してほしい』 というような要求を投げ返すと、また条件が変わるので、技術部がそれを基に試験機を作って問題がないかを検証する。そんな途方もないステップを繰り返す中で、もちろん何度も衝突もありました。しかし、『使う人のストレスにならない掃除機を実現する』という目標に向かって、開発に携わる全員が思いを一つにしながら開発を推進できたことが大きかったと思います」(デザイン担当・藤田さん)

 

インタビューを通し、改めて「特別な存在」だと知った

こうして若手社員の何気ないひと言から始まったMC-NS10Kは、約2年の試行錯誤の日々を経てついに完成。2021年の10月、商品として世に送り出されることになりました。アイデア優先の、いわばコンセプトモデルをパナソニックが本気で商品化したという点、開発過程で「デザインを実現するために、パーツそのものを開発する」というモノづくりの醍醐味を経ている点で、本機がいかに特別な存在であるかがうかがえます。

 

また、本機は冒頭で藤田さんが語った「掃除のハードルをできるだけ下げたい。サッと掃除できる、使う人のストレスにならない掃除機を作りたい」という思いが実現したもの。デザイナーが突き詰め、技術者が形にした「掃除の理想形」のひとつでもあるわけです。なるほど、今回のインタビューで開発の裏側を知り、なぜここまでトガった製品ができたのか、大いに納得ができました。これは掃除機と掃除の歴史を変えるかも……そんな予感すら抱かせる、ワクワクする製品だと感じました。