株式会社ラックは8月26日にウェビナー「日本のDX最前線」を開催した。
日清食品ホールディングスのCIOだった喜多羅滋夫氏が4月にラックの執行役員 IT戦略・社内DX領域担当CIOに就任したこと、また、日清食品時代の喜多羅氏も取材を受けた酒井真弓氏の著書「ルポ 日本のDX最前線」が6月に発売されたことを受けて開催されたものだ。
DXにおけるIT部門の役割は、イノベーションで事業に積極的に貢献していくこと
喜多羅氏のセッション「事業成果につながるDXへのアプローチ」では、同氏の経歴や日清食品での施策などを通して、DXが語られた。
喜多羅氏は2013~2021年の間、日清食品ホールディングに勤務し、執行役員・CIOを務めた。それ以前はP&Gやフッィリップモリスジャパンに勤務した。
同氏は、日清食品時代に取り組んだデジタル活用の例として、「需要予測と販売計画BPRによるサプライチェーン最適化」「社内サービスデスクのチャットボット移行」「kintoneを活用した社内決済プロセス簡素化」「COVID-19禍でのTeamsを利用した事業継続」「RPAによる経理事務作業効率化」を紹介した。
これらに取り組むにあたって喜多羅氏がまず考えたのが「大きなゴールを見据えながら、小さな石をまず動かしてみる」という方針だ。そして「デジタルをトランスフォーメーションするのではなく、ビジネスをトランスフォーメーションする(事業改革)、そのツールがデジタルだと考えた」と語る。
重視したポイントとしては、まず廃棄資材と過剰在庫への対応など「事業の課題と正面から向き合うこと」、Teams活用やペーパーレス推進など「COVID-19下における事業継続の重要性」、社員の価値を最大化するような仕事をしてもらうための「採用難における社員の業務削減」、状況を見ながらまず動いてみるという「アジャイルな対応とOODA(Observer-Orient-Decide-Act)」、現場から「お前、うちの麺の作り方知らないじゃないか」と言われないような「社内のベストプラクティス理解と適用」が挙げられた。
さらにDXの成功パターンとして、経営とITの両方の目線を持つこと、つまり企業戦略としてDXをどう使っていくかということと、ITというツールで今までできなかったことをどうカバーするかの両輪が必要だと語った。
そこにおけるIT部門の役割として、「言われたことだけをするのではなく、周りの業務を理解し、イノベーションを使って事業に積極的に貢献していくことが求められるのではないか」と述べた。
最後に喜多羅氏はラックでこれから進めていきたいことについて説明。「社内でまだまだ改善していく余地がある。ITを使って社内を変えていきながら、社外のお客様にも『こんなことできているから一緒にやりませんか』と訴えかけるようなことをやっていきたい」と語った。
DXで取り組む上では「現場と絶対に対立してはいけない」
パネルディスカッション「明日のDX:ユーザー企業、ITベンダーはこれからDXにどう向き合っていくか!?」では、喜多羅氏と「ルポ 日本のDX最前線」著者のノンフィクションライター酒井真弓氏、株式会社ラック代表取締役社長の西本逸郎氏がDXについて話し合った。司会は株式会社ラック執行役員SIS事業領域担当CTOの倉持浩明氏。
1つ目のテーマは「DXって何?」。これは「B to Bに取り組む企業には、DXと言われてもピンとこないんじゃないか」という話から出された。
これについて西本氏は、スマートフォンが普及して使いやすいUIが広まる一方で、企業ではPC上の決められた入力フィールドで定型業務をしていることに対して、働き方改革を支える動きが出てきたと説明。その上で、DXでやらなくてはいけないのは「儲け方改革」なのではないかと語った。
また、ラックではDXはまだはっきり見えないとしながら、「まずは動くことで成長でき、小さな成功と失敗を繰り返していくのがDXなのではないか」とまとめた。
2つ目のテーマは「DXにどのように取り組むか」。現場の抵抗をどう乗り越えるかという話題が出た。
喜多羅氏は、まず「現場の人たちはそれで成果を出してきたという成功体験がある。それに対して、DXを語る人は、外から来て分かったようなことを言うので、『おまえに何が分かっているんだ』となる」と状況を整理した。
同氏が強調したのは「現場とは絶対に対立してはいけない」ということ。共通のゴールを作ることでアプローチする方法が重要になることを説明した。さらに、奥の手として、経営状況に多角的に対応する視座をもったトップに号令をかけてもらうという方法も紹介した。
トップの号令というパターンは、酒井氏の「ルポ 日本のDX最前線」の中にもあった。例えば、トップがSlackを使うと号令をかけると役員もSlackを使わざるをえなくなるということで、「上下関係がはっきりしている組織ではそういうやり方が向いているかもしれない」と酒井氏はコメントした。
西本氏はラックでの事例として、チャットツールに偏見があったものの、社外へのメール誤送信の対策として社内の連絡をチャットにしたところ、ツールの良さに気付き「早く入れておけば良かった」と思ったことを紹介した。
3つ目のテーマは「情報システム部門 ITベンダー それぞれの課題」。これは「情報システム部門は疲弊している」と言われる現状に対するものだ。
喜多羅氏は日清食品に入ったときに、情シス部門が受け身で作業をこなすだけになっていたことを課題と感じたという。そこで、メールが届くことや、情報共有、コストダウンなど、自分たちの仕事が会社にどう貢献しているかをクリアにして意識させたと語った。
その上で、例えば資材のデータが資材部門任せだったのを、喜多羅氏を経由して提案するようにしたことを語った。
「うまくいかないこともあるが、まずやってみる。それでうまくいけば、向こうから声がかかるようになる。さらにそうしたことを考えるために、システムの標準化と簡素化に力を入れた。それによって、できなかったことができる時間ができるようになった」(喜多羅氏)
ITベンダーの道として、酒井氏は、経産省に取材したときに聞いた、受託開発を脱してサービス会社になるか、ユーザー共創でDXを進めるパートナーになるかという2つの道を紹介。後者について、DXでユーザー企業の内製が言われるようになったことに触れ「ユーザー企業がいきなり一人でやってくださいと言われても無理。ベンダーだけがんばるのではなく、ユーザー企業も主体性を取り戻さないといけない」として、お互い自立した関係での共創が必要になると語った。