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コロナ禍での隔離生活は、人と会えない寂しさと外出できないストレスをもたらすもの。その結果、よく眠れなくなったり、食べる量が増えたり、いろいろな影響が出ていますが、私たちの身体は社会的隔離に対してどのように反応しているのでしょうか? 米国の研究チームがハエを使って、そのメカニズムを解明しようとしています。

↑ヤバい、ひとりぼっちだ! 寝ている場合じゃない! できるだけ食べておかないと……

 

隔離生活が、動物の行動や遺伝子の発現、神経の活動にどのような変化をもたらすかを調べるため、米国・ロックフェラー大学で遺伝子を研究するチームがショウジョウバエを使って実験を行いました。ショウジョウバエは集団で行動しており、同研究チームの1人によると「その遺伝子システムを深掘りすると、哺乳類や人間と同じような原基を見つけることがよくある」とか。

 

実験では、最初にショウジョウバエの集まりが、ロックダウン(都市封鎖)のような条件下でどのような行動を取るのかを7日間、観察します。その後、これらのハエを「集団のまま観察を続けるグループ」と「1匹だけで隔離されたもの」「2匹で隔離したグループ」に分け、それぞれの行動の変化を観察しました。

 

その結果、集団の大きさが変わっても集団で行動し続けたハエや、2匹だけで隔離されたハエには大きな変化が見られなかった一方、1匹で隔離されたハエだけは食事量が増え、睡眠時間が短くなったのです。

 

さらに研究を進めたところ、ハエの食事と睡眠の変化には「P2ニューロン」という脳細胞が関連していることが判明しました。P2ニューロンは受容体(細胞の表面や内部に存在し、外界や細胞外の物質や光を受容して情報に変換する物質の総称)の一種と考えられています。そこで、1匹だけで隔離されたハエのP2ニューロンの働きを止めると、食べる量が正常に戻り、睡眠が回復しました。また、1日だけ集団から隔離されたハエのP2ニューロンを刺激すると、1週間隔離されていたハエと同じように食事量が増え、睡眠時間が減少したのです。

 

また、ハエを不眠症にさせるだけでは過食は引き起こさないことが確認されたことから、ハエの睡眠時間減少と過食は、P2ニューロンの働きと社会的な孤立によって引き起こされた模様。「P2ニューロンは社会的隔離の時間的長さや孤独感の認識の仕方と関連しているようだ」と同研究チームは述べています。

 

身体はアラート状態

コロナ禍で体重が増加した人が多いと言われていますが、その原因がP2ニューロンの働きにあると断言することはできません。社会的隔離で睡眠が減り、体重が増える理由を特定するには、より多くの研究が必要ですが、「人間は困難な状況になると警戒心が高くなり、できるだけ起きていようとしたり、食べられるときに、できるだけ食べようとしたりするので、社会的に隔離された身体は、そのような『不確実な状況』にいることを脳に信号で送っているのではないか」と研究チームは推測しています。

 

【出典】Li, W., Wang, Z., Syed, S. et al. Chronic social isolation signals starvation and reduces sleep in Drosophila. Nature (2021). https://doi.org/10.1038/s41586-021-03837-0