もっと詳しく

NHKの大河ドラマ『青天を衝(つ)け』のVFX映像の制作過程や裏話、現場の様子などをご紹介するシリーズ企画。10回目となる今回は「江戸日本橋大通り」のシーンについて解説したいと思います。


関連記事
VFXチームがわかりやすく解説! 大河ドラマ『青天を衝け』で学ぶ、VFXのつくり方<5>渋沢家スタジオセット
VFXチームがわかりやすく解説! 大河ドラマ『青天を衝け』で学ぶ、VFXのつくり方<6>江戸城能舞台
VFXチームがわかりやすく解説! 大河ドラマ『青天を衝け』で学ぶ、VFXのつくり方<7>甲板上のシーン
VFXチームがわかりやすく解説! 大河ドラマ『青天を衝け』で学ぶ、VFXのつくり方<8>大海原を行く蒸気船~海の表現~
VFXチームがわかりやすく解説! 大河ドラマ『青天を衝け』で学ぶ、VFXのつくり方<9>Day for Night

TEXT_『青天を衝け』VFXチーム(NHK

EDIT_海老原朱里 / Akari EBIHARA(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada

[青天を衝け] VFX編 | 激動の幕末をダイナミックに描く舞台裏 | 青天を衝けの世界 | NHK

© NHK

ミッション<10>「にぎわう江戸の街をつくりだす!」

第3回の放送では渋沢栄一と市郎右衛門の父子が商いで江戸に行きます。にぎやかな江戸の街を目の当たりにすることで、血洗島とはちがった商人のつくった街「江戸」が栄一の心に刻まれるシーンです。その大都会「江戸」をどうやってつくったのかをご紹介します。



▲完成した江戸日本橋大通り

茨城県に「ワープステーション江戸」というオープンセットがあります。江戸時代や昭和初期の建物セットが多くあり、NHKや民放ドラマ、映画などでもよく撮影が行われています。



▲ワープステーション江戸

この江戸の建物が建っているオープンセットに美術飾りをすることによって当時の江戸の街並みを再現しています。美術飾りが施されることで、とても華やかになりました。



▲美術飾りを施した街並み

オープンセットの限られた範囲だけではなく、より大きな江戸の街を表現するため、当時とてもにぎやかっだった日本橋大通りを再現することにしました。リアルサイズの「日本橋」をCGでつくり、規模の大きい江戸の街を映像化します。撮影では下記のオープンセットの図面のように、通りの突き当たりにグリーン幕を貼りました。そのグリーンバックにCGの日本橋と街並みを合成します。



▲江戸日本橋大通りの平面図

グリーン幕はイントレ(組み立て式の足場)に結びつけていますが、風が強いと布が揺れてしまいます。できるだけ強く結んで固定しますが、逆に風の逃げ場がないとイントレが倒れてしまう危険性もあるので注意が必要です。



▲イントレに設置したグリーン幕

人物がかかる高さまでグリーン幕を貼り、それより高い部分は手でマスクを切ります。



▲クレーンで撮影した映像

下の画像はロケハン時に撮影した写真を元に、美術部が手描きでつくったイメージ図です。撮影ではこのように通りの奥に大きな日本橋があると想像しながらお芝居を撮っていきます。



▲美術部による江戸日本橋大通りのイメージ図

日本橋のCGモデルは別番組で制作したものを流用しています。



▲日本橋CG

日本橋以外にも奥には建物をたくさん合成する必要があります。1軒ずつ用意するは大変なので、NHKのCGライブラリに登録している汎用モデルを配置していきます。NHKは毎年大河ドラマの放送がありますし、多くの番組を制作しているので汎用的なモデルをつくった場合はライブラリに登録し、再利用できるようにしています。



▲NHKの汎用モデルライブラリ

多くの建物をMayaに読み込むとシーンがとても重くなるため、V-Rayプロキシで配置しています。



▲Mayaで建物を配置


▲撮影プレートに合わせて奥に建物を配置

この江戸シーンはV-Rayでレンダリングをしています。また、建物の奥の山や空は視差がほぼないので、写真ベースのマット画にしています。



▲建物をV-Rayでレンダリング



▲遠景のマット画

次は人物です。グリーンバックに合成する日本橋や通りを歩く人たちは、「追鳥狩り」のときにフォトグラメトリをした江戸庶民のCGモデルを使い、MayaのGolaemにより増やします。



▲フォトグラメトリした江戸庶民のCGモデル

これら人物のフォトグラメトリモデルをMayaのGolaem用に設定をし、橋や道などのインタラクションモデルを入れてシミュレーションを行ないます。また、できるだけ和服などが身体に食い込まないようにクロスシミュレーションもGolaemで行なっています。


▲Golaemによる群衆シミュレーション

こうした通りを歩く人々の動きはモーションキャプチャを収録しています。男性女性それぞれ20モーションほど収録し、それらをGolaemにより割り当てています。


▲モーションキャプチャの様子

ちなみにこの時代はまだ着物などの和服がほとんどなので、動きによっては膝の上にゴムバンドを付け、股が広がらないようにある程度の拘束をしています。


▲膝上にゴムバンドを付けてのモーションキャプチャ


▲通りを歩く人物たちをレンダリング

よく見るとモーションの不具合があったり若干、身体が食い込んだりしていますが、大きく映らないのである程度は許容しています。


▲江戸日本橋カットのVFXブレークダウン



▲グリーンバックで撮影した映像



▲完成した映像

このようにしてにぎやかな江戸日本橋のシーンをつくりました。今後もNHKの大河ドラマ『青天を衝け』のVFX技術をたくさん紹介していきますので、ぜひ放送をご覧ください。(『青天を衝け』VFXチーム)

※現在発売中のCGWORLD vol.277(2021年9月号)では、連載「VFXアナトミー」にて大河ドラマ『青天を衝け』の第22回から第24回までのパリ編のVFXを解説しています。こちらもぜひご覧ください。

info

  • 大河ドラマ『青天を衝け』


    【放送情報】

    NHK 総合 毎週(日)夜 8:00~/[再放送]毎週(土)午後 1:05~

    NHK BSプレミアム 毎週(日)午後 6:00~

    NHK BS4K 毎週(日)午後 6:00~

    公式HP www.nhk.or.jp/seiten

    © NHK