実力派アーティストやEpic Gamesスタッフなど、UE4に造詣の深いクリエイターが登壇して実践的なテクニックを披露するUE4 Art Diveシリーズ。大好評のシリーズ第3弾「UE4 Character Art Dive Online」はキャラクター制作をテーマとして、7月25日(日)にオンラインで開催された。大ボリュームの全4講演は、注目のHair Groomをはじめ、フォトグラメトリーや映像に使えるTIPSなどなど盛り沢山で、業務で使っている人はもちろん、使ってみようと考えている初心者にも参考になる内容だった。講演の概要をレポートしよう。
TEXT_石井勇夫 / Isao Ishii(ねぎぞうデザイン)
EDIT_小村仁美 / Hitomi Komura(CGWORLD)
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<1>「Hair Groom入門」by 藤田 祐一郎(ちろナモ)
1人目の登壇者はSAFEHOUSE,inc のキャラクターモデリングスーパーバイザー藤田祐一郎氏。映像系からキャリアをスタートしゲーム会社を経て、現在はリアルタイムエンジンを使ったキャラクター制作をメインとしている。
今回の講座では、MayaのXgenで作られた髪や眉などをエクスポートし、UE4にHair Groomとしてインポートして利用する方法が解説された。映像業界やゲーム業界で働いてきた藤田氏は「リアルタイムとプリレンダーの表現の差として一番大きいものの1つが髪の毛の表現だと感じていましたが、Hair Groomの登場でリアルタイムの方の表現力が一気に上がったと感じます」と高評価。今回もHair Groomの楽しさを伝えるために登壇を決めたとのことだ。
講演はMayaでのエクスポートの方法、UE4へのインポートの方法の順に解説された。まずMayaで作ったXgenを書き出すには2つのやり方がある。Xgenで制作したものはXgen Interactive Groomに変換してAlembicで書き出し、直接Xgen Interactive Groomで作られたものを書き出す場合はTransferを実行してAlembicで書き出す。双方、操作はそれほど複雑ではなく、書き出すときの設定に注意すれば比較的簡単にエクスポートできるようだ。
次に、UEにインポートして、Hair Groomとして使用する手順が説明された。まずUE4の設定の「スキンキャッシュの計算をサポート」をONにし、プラグインのAlembic Groom ImporterとGroomを有効にしてUEを再起動することが必要だ。インポートしたヘアはXやYを回転して合わせていく。
インポートすればヘアはHair GroomとしてUE4上で長さや太さを調節してボリューム感を変えたり、マテリアルで色の変化を変えたりと様々な表現が可能になる。調整はノードを使って行うため容易にトライ&エラーで試行錯誤できるので、作業自体が楽しいということだ。
また、インポートしたXgenをUE上でカードに自動変換して、使用することも可能。どちらを使うかはケースバイケースだろう。
このように革新的ともいえるHair Groomだが、これによって従来のヘアカードがすぐになくなるということでもないという。「Hair Groomはリアルな表現が以前に比べて簡単になる反面、デフォルメとしてできることはちょっと少ない気がしました。今後もヘアカードが表現の手段として選択されることはあるかと思います」と藤田氏。適材適所で使い分けていくのが大事とのことだった。
●講演スライド
<2>「UE4 Hair & Groomでのリアルタイムファーレンダリング」 by 小林浩之(はのば)
Epic Games JapanでUDNライセンシー向けサポート担当しているTechnical Artistの小林浩之氏が、今回はUE4のHair Groomについて、踏み込んで詳細なワークフローや最適化、画づくりに関するノウハウなどを解説した。
具体的には猫のキャラクターを題材に、1.セットアップ、2.Groom Asset、3.ライティング、4.最適化に分けて講演された。
まずセットアップでHair GroomをHoudiniで作成。Groomアセットは部位ごとに管理しエクスポートしたが、頭部の41万本、370万頂点でも5~6分でUEに読み込めるという。
インポートした後のGroom Assetの設定方法は機能が豊富な分、アトリビュートが多い印象。本セッションではアトリビュートに関してかなり詳細に説明されたので、実際に使う興味ある方はぜひスライドや動画を見ながら確認してほしい。
ライティングのパートは図を使ってわかりやすく用語や機能の説明がされ、UE4での画づくりのためのより深い理解の助けになるものだった。最近ではリアルタイムのレンダラが高性能になり、影の表現やレイトレーシングの表現方法が大切になってきているので、ぜひ参考にしたい。
最後の最適化は、具体的な設定方法を教えてくれているので、すぐに活用できるだろう。リアルタイム描画は表現力と表示の軽さのバーターなので、最適化は必須だ。
今回のまとめとして、「Hair&Groomは全体的に負荷が大きくなりがちなためリアルタイムコンテンツなどでの運用には注意が必要ですが、コンソールコマンドなどを使ってクオリティとパフォーマンスのトレードオフを柔軟に選択できるようになっています。映像作品や静止画用途の処理負荷を気にしない場面では非常にパワフルな機能になっているかと思います」と小林氏は述べた。
●講演スライド
<3>「UE4で”MetaHumanを使わずに”耳なし芳一になる10の方法」 by 斎藤 修(ずし)
毎回、ユニークな視点から実践的な技術を披露している斎藤氏だが、今回は「誰でも生まれて一度は耳なし芳一になってみたいと思ったことはあるだろう」という、ちょっと変わったテーマの講演だ。MetaHumanを使わずゼロから自分の顔モデルを作成しUE4で実装、Niagaraエフェクトをのせて耳なし芳一になるという方法が解説された。
内容はフォトグラメトリー、写真撮影、モデル、テクスチャ、モーフ、グルーム、マテリアル、シーケンス、エフェクト、ポストプロセスという10のステップ。フォトグラメトリーされた斎藤氏が耳なし芳一となっていく過程がわかりやすく説明された。
全てのステップを斎藤氏が1人で制作したが、特に写真撮影の気合の入りようは素晴らしく、髪を短く切り、ひげ、うぶ毛、眉毛、睫毛なども可能な範囲で全て剃って撮影された。「耳なし芳一になるためには覚悟が必要でした」と斎藤氏。
Epic Gamesには3LaterialやQuixel、Capturing Realityというフォトグラメトリーに関係するグループ企業があり、今後もフォトグラメトリは重要性を増していくだろう。こういったツールを連携すれば、個人から企業まで様々なスケールのプロジェクトでフォトグラメトリーが可能だ。
また、今回、他の講座ではあまり触れられていないNiagaraについても解説されている。Niagaraでつくられたエフェクトは、Houdiniでベースのテクスチャを作成。
今回の一連のフローをふり返ってUEでのキャラクターづくりにEpic GamesのデジタルヒューマンやMetaHumanの公式ドキュメントが非常に丁寧で役に立ったと斎藤氏。今回の講演で紹介した内容の他にも様々な技術が説明されているという。これらは日本語訳もされているので、ぜひ一読してほしいとのこと。
また、サンプルやマーケットプレイスも積極的に活用してほしいという。今回の講演でも参考資料として紹介されているので、その有用性がわかるだろう。これらを利用してより良いものを作ることを常に視野に入れて制作するのが大事だということだった。
●講演スライド
<4>「UE4を使った映像制作」 by 祭田俊作
最後は、UE4を使った映像制作というテーマで祭田俊作氏が登壇。個人制作の作品をもとに、UE4の映像制作での基本的な使い方やキャラクターの実装方法、独自の画づくりの工夫が紹介された。
キャラクターアセットの制作工程、シーケンサー設定、ライティング・ポストプロセス、MovieRenderQueue、UE4での映像制作に使える機能が紹介された。普段はDCCツールを使っていて、新たにUE4で映像を作りたい人などにも向いているセッションであった。
キャラクターの制作には、モデリングにZBrush、DCCとしてMayaが使用された。UEにもっていける情報はスキニングウェイトとブレンドシェイプなので、モデルはメッシュとジョイントを一括してFBXでエクスポート、アニメーションはジョイントだけを全て選択してFBXでエクスポートされた。背景にはMegascansを使用。岩場に草を生やしてスケール感を出している。
最後にUEからexrのシーケンスをレンダリングするのが、プリレンダーとリアルタイムとの大きな違いだろう。映像制作業務で使いやすいMovieRenderQueueでのレンダリング設定が細かく説明された。今回の作例では300フレーム程度のカットでおよそ30分程度とのこと。
今回の作品では、フォグを入れてゴッドレイを足し、一般的なプリレンダーのような品質なレンダリングを高速で制作している。さらに、最終的にAfter Effectsでコンポジットして仕上げられた。
●講演スライド
今回の4つのセッションはいずれも濃密な内容で、具体的な手法やアトリビュートが詳細に解説されているものだった。現在、UE4を使用している人はもちろん、これから始めてみようと思っている人にも大きな助けになるものだろう。
リアルタイムCGの表現力は日進月歩で上がっているため、制作する側も新しいものへの理解や適応が常に求められている。UE4 Art Diveシリーズはそのようなユーザーのニーズに迅速に応えるイベントだ。講演動画や資料も公開されているので、ぜひ視聴してみていただけたらと思う。