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編集部注:本稿の著者Uwe Horstmann(ウーヴェ・ホルストマン)氏は、ベルリンを拠点とするベンチャーキャピタルProject A Venturesの共同設立者兼パートナー。

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現在ドイツは、世界的な競争力を持つベンチャーキャピタル市場の構築において、ヨーロッパの近隣諸国に遅れを取っていると言える。しかし、今後の5年間はドイツのベンチャーキャピタルセクターにとって大変に大きな影響をもつと予想され、その将来は非常に明るいと筆者は考える。

ドイツのスタートアップが2020年に調達した金額は64億ユーロ(約8400億円)にのぼり、これはフランスの57億ユーロ(約7500億円)を上回っている。もう1つの好ましい点は、初期段階の市場に対する国内からの投資と国外からの投資のバランスが健全であることである。シードおよびシリーズAの段階では、ドイツのファンドがドイツのスタートアップへの投資のほとんどを占める。企業が成長すると、海外からの投資重要な役割を担う。5000万ドル(約55億円)以上の資金調達ラウンドの半分は完全に外国人投資家が主導しており、ドイツの投資家によるものはわずか5%で、残りの45%は外国人投資家と国内投資家の混合による投資となる。

筆者はこれをドイツVC市場にとって理想的な状態と考える。優れたイノベーションは、国内のファンドから資金を得、支援を受けている。これらの企業が成長して頭角を表すと、最高の投資家を世界中から引き付けるようになり、ドイツのローカル企業という立場から国際化への道が開かれる。これにより初期段階のスタートアップに投資を行うVCは報酬を獲得し、引き続きドイツ国内のスタートアップに投資する。今後市場が成熟していけば、初期段階だけでなく、成長段階に対しより多くのドイツのVC資金が投資されると筆者は確信している。

見通しは良好である。ドイツ市場は現在大変活発に発展しており、パンデミックでさえ、テクノロジーセクターの根本的上昇傾向にほとんど影響を与えなかった。

ドイツ市場は現在大変活発に発展しており、パンデミックでさえ、テクノロジーセクターの根本的上昇傾向にほとんど影響を与えなかった。

ドイツテックに対する国内外からの投資レベルの高まりに加え、政策立案者はドイツでスタートアップやVCファンドが発展できるような好条件を作り出している。

ドイツ連邦政府は100億ユーロ(約1兆3000億円)の未来基金を立ち上げ、ディープテック未来基金に追加で資金を投入した。これにより、ただちに成長段階の市場により多くの資本が投資されるだけでなく、このような政策はドイツが「ビジネスにオープンであることを示してもいる。イノベーションが社会における具体的な改善につながる、ということをドイツが理解していることを世界に伝える明確なシグナルになるのである。これは、世界中のファンドにとって力強い、歓迎すべきシグナルである。

ドイツは投資家にとってだけではなく、技術者にとっても大変魅力的な国である。ドイツが未来のモデルを提示する中、ますます多くの技術者がドイツへの移住を望むようになっている。

長期的視点からみても状況は良好である。ドイツは製造およびエンジニアリング部門で世界的に有名であり、国内生産を通じて貿易黒字を生み出している数少ない国の1つである。製造およびエンジニアリング部門はイノベーションを通した大々的な飛躍をまだ遂げていない。従って、ドイツのスタートアップは高まりを見せる「インダストリー4.0」イノベーションの活動から、メリットを享受できる大変有利な立場にあり、ドイツの製造業の中心地で生まれたスタートアップが、ベルリンとミュンヘンで増え続ける技術者のプールと融合する準備が整いつつある。

シェアオプションとスピンオフはドイツのスタートアップにとってのアキレス腱だ

ドイツのVCとテック市場は新たな飛躍を遂げる準備が整っている。しかし、大幅な改善が求められる領域が2つある。それは社員株オプションとスピンオフをめぐる規制である。

ドイツは官僚主義に陥っており、それはイノベーションにとっては脅威である。テルサの新しいギガファクトリーの例は、煩雑な行政プロセスがいかにあらゆることをスローダウンさせるかの最新の例である。

ドイツのスタートアップにとって、スタートアップで働く社員が会社の成功から利益を得、またスタートアップエコシステムが自力で発展していくためにも、従業員ストックオプションプラン(ESOP)の 改革は今すぐにも実行する必要がある。

税制上の優遇措置に関する現行法案は、業界のニーズを反映しているとは言えない。例えば、免税措置が適用されるのは設立から10年未満の会社の従業員のみである。従業員が別の会社に移る場合、事前に会社の株式に対する税金を払う必要があり、これは重大な破産のリスクをともなう。これは10年以上が経過していても利益をだすことができないでいるスタートアップが多いからであり、税金は従業員が持ち株から実際に利益を上げたとき、つまり株式を売却したときにのみ支払う形にすべきである。こうしたこともあり、スタートアップは従業員に対し新たなESOPを提供しない。

もう1つの問題はスピンオフである。ドイツはヨーロッパで最も特許出願数が多い国である。しかし、スタートアップが革新的テクノロジーを製品市場に適合させることができない場合が多い。ドイツの大手研究機関からのスピンオフを実行する場合、高額の機関固定費とライセンス料が課されるため、足場を固めるには非常な困難をともなうのだ。ドイツはもっと柔軟に対応し、スタートアップが必要とするスペースと資金を与えるべきである。

スピンオフ時に創設者が直面する固定費や膨大な行政手続きを削減すべきであるし、また投資家は、研究者から創設者に転向した人々に対して、より多くの運営上のサポートや組織上のサポートを提供する必要がある。さらに、VCは、成功するまでに多少時間がかかると目される革新的なアイデアやテクノロジーにもっと投資する勇気を持つべきである。BioNTechは、そうした長期間にわたるサポートが報われた最良の例といえる。

ドイツのユニコーン企業について

現状では、2021年にはすでにドイツで多数の新しいユニコーン企業が登場しておりPersonioMambuSennderGorillasTrade Republicは数十億ドル(数千億円)の評価を得ている。そしてこうしたユニコーン企業の数は今後も増える見通しである。

規制当局が最終的にストックオプションとスピンオフにまつわる官僚的形式主義を取り払うことができれば、ドイツの技術とVC業界は新たな高みに到達することができるだろう。筆者は今後数年間で前向きな変化が起きることを期待し、ドイツにたくさんのユニコーン企業が生まれることを楽しみにしている。

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カテゴリー:VC / エンジェル
タグ:ドイツVCコラムユニコーン企業

画像クレジット:Jorg Greuel / Getty Images

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(文:Uwe Horstmann、翻訳:Dragonfly)