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この記事は Chrome デベロッパー、Olivier Li Shing Tat-Dupuis による Chromium Blog の記事 “Faster and more efficient phishing detection in M92” を元に翻訳・加筆したものです。詳しくは元記事をご覧ください。

ウェブをブラウジングする Chrome ユーザーの安全を確保することは、Chrome にとって非常に重要です。実際、セキュリティは 4 つの基本原則の 1 つであり続けています。ときに、セキュリティのためにパフォーマンスが犠牲になることがあります。パフォーマンスの探求シリーズの次の投稿では、オンラインのユーザーの安全を確保するフィッシング検知アルゴリズムをどのように改善したかについてお伝えします。ここで紹介する改善によって、現在のフィッシング検知は 50 倍高速になり、電池使用量も少なくなっています

フィッシング検知

Chrome は新しいページに移動するたびに、ページの一連のシグナルがフィッシング サイトのシグナルと一致するかどうかを評価します。これを行うため、アクセスしたページのカラー プロファイル(ページで表示される色の範囲と頻度)と、通常のページのカラー プロファイルを比較しています。たとえば以下のイメージでは、ほとんどがオレンジ色で、緑と少しばかりの紫が含まれていることがわかります。

サイトが既知のフィッシング サイトと一致した場合、Chrome は警告をし、個人情報を保護して認証情報が漏れることを防ぎます。

フィッシングの試みが検知された場合に表示される画面

プライバシーを守るため、Chrome のセーフ ブラウジング モードは、デフォルトでブラウザ外にイメージを送信することはありません。これはプライバシーにとってはよいことですが、マシンはイメージを分析する作業をすべて自力で行わなければならないことになります。

多くの場合、イメージ処理は重いワークロードになる可能性があります。イメージの分析には、一般的に「ピクセルループ」と呼ばれる処理をし、各ピクセルを評価する必要があるからです。最新のモニターの中には最大で 1400 万ピクセルを超えるものもあります。そのため、各ピクセルで単純な操作をするだけでも、積もり積もってかなりの CPU 使用量になります。フィッシング検知で各ピクセルに対してするのは、基本色を数える操作です。

この操作は、次のようになります。この数は、ハッシュマップと呼ばれる連想データ構造に格納されます。各ピクセルについて RGB のカラー値を抽出し、その数を色ごとに 1 つずつ、3 つの異なるハッシュマップのいずれかに格納します。

効率の改善

ハッシュマップに 1 つの項目を追加するのは高速ですが、この操作は何百万ものピクセルに対して行う必要があります。分析の質が損なわれないように、ピクセルの数を減らすことは避けますが、計算自体は改善できます。

次のようにパイプラインを改善します。

  • このコードでは、3 つのハッシュマップで RGB チャンネルを追跡するのではなく、ハッシュマップを 1 つだけ使って色ごとにインデックスを管理します。これで、数える回数が 3 分の 1 になります。
  • 連続したピクセルは、ハッシュマップで数える前に合計します。これにより、均一な背景色のサイトでは、ハッシュマップのオーバーヘッドがほぼゼロになります。

その結果、色を数える操作は次のようになります。ハッシュマップの操作が大幅に減っていることに注意してください。

高速化の成果

Chrome M92 以降のイメージベースのフィッシング分類は、50 パーセンタイルで最大 50 倍高速に、99 パーセンタイルで 2.5 倍高速に実行されます。平均で、ユーザーがフィッシング分類結果を取得するまでの時間は 1.8 秒から 100 ミリ秒に短縮されます。

これにより、Chrome を使ううえで 2 つのメリットがあります。1 つ目かつ最大のメリットは、同じ作業をするために消費する CPU 時間が減り、総合的なパフォーマンスが向上することです。CPU 時間が減れば、電池の消耗もファンが回る時間も少なくなります。
2 つ目は、結果を早く取得できるため、Chrome が警告を早く表示できることです。この最適化により、処理に 5 秒以上かかるリクエストの割合が 16.25% から 1.6% 未満に下がりました。この速度の改善により、特に悪意のあるサイトでパスワードの入力を防ぐという点で、セキュリティに大きな違いが生まれます。 

総じて、今回の変更により、Chrome のレンダラー プロセスとユーティリティ プロセスが使用する合計 CPU 時間を約 1.2% 削減できました。

Chrome の規模では、わずかなアルゴリズムの改善であっても、全体では膨大なエネルギー効率の向上になります。つまり、何世紀分にも相当する CPU 時間を節約できます。

今後もさまざまなパフォーマンスの改善についてお知らせしますので、ご期待ください。

すべての統計情報の出典 : Chrome クライアントから匿名で集計した実データ

Reviewed by Eiji Kitamura – Developer Relations Team