アストンマーティンのミッドエンジン・ハイブリッド・スーパーカー、ヴァルハラ(Valhalla)コンセプトカーが日本でもお披露目された。ところで、アストンマーティンのミッドエンジンハイパーカーって言えば、ヴァルキリーもあったような気がするけど、ヴァルハラってなんなんだっけ?っていう人もいるかと思う。では、まずは鮮やかな記憶から。ジェームズ・ボンド最新作「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」で、開発中のボンドカーとしてMの後ろに映ってたヤツよ。ああ、ああ、アレね!走行シーンはなかったね。あとは、ミッドエンジンハイパーカーとしては、お父さん的存在なのが、1,160hpのヴァルキリー、次がこの950psのヴァルハラになる。ヴァルキリーだと本気モードが強すぎる、って人向けに、乗りやすく、公道走行可能で、日常使いもできるハイパーカーとして仕上げたのが、このヴァルハラだ。例えば、ヴァルキリーがカメラ式ミラーなのに対して、ヴァルハラは物理的なミラーを使っているというところも工夫がなされている。
価格は1億200万円で、2023年後半から最長2年をかけて生産され、999台まで製造する予定となっている。つまり、現在受付中とのこと。すでに日本の顧客からも、強い関心を持たれているというのだ。
ヴァルハラの心臓部には、3つのモーターを備えたまったく新しいPHEVパワートレインが搭載されている。そのもっとも重要なコンポーネントは、リアにミッドマウントされた専用の4.0リッターツインターボV8エンジン。このユニットは、これまでアストンマーティンに搭載されたエンジンの中で最も先進的でレスポンスが鋭く、最高のパフォーマンスを発揮するV8エンジンだ。また、レスポンスを高めるために、フラットプレーンと呼ばれるクランクシャフトを採用している。このエンジンの最高出力は750PS/7,200rpmで、そのパワーをリア・アクスルにのみ伝達する。調整可能なアクティブ・フラップを備えた軽量エキゾースト・システムは、アストンマーティンならではのサウンドを奏で、視覚的および聴覚的な印象を最大限に高めるため、エキゾーストパイプはルーフエンドに装着されている。
この新しいV8エンジンは、2基の電気モーターを備えた150kW/400Vのバッテリー・ハイブリッドシステムによって補完される。電気モーターは、フロント・アクスルとリア・アクスルにそれぞれ1基ずつ搭載。このエレクトリック・システムは、合計出力950PSに対して、さらに204PSのパワーを上乗せすることができる。
EVモードで走行する場合、バッテリー電力はフロント・アクスルにのみ供給される。それ以外の走行モードでは、バッテリー電力はフロント・アクスルとリア・アクスルに分割され、各アクスルに送られる割合は走行条件によって常に変化する。特定の状況では、バッテリー電力の100%をリア・アクスルに送ることができ、最大のパフォーマンスを得るためにV8エンジンのパワーを補完する。
このパワートレインには、まったく新しい8速DCTトランスミッションが組み合わされている。アストンマーティンのために特別に設計および製造されたこの新しいパドルシフト・ギアボックスは、ハイブリッドの時代に対応するために特別に開発された。e-リバース(PHEVの電気モーターを利用し、従来のリバースギアの必要性をなくすことで重量を削減)を備えたトランスミッションは、リア・アクスルにエレクトロニック・リミテッドスリップ・デファレンシャル(e-デフ)を備え、最大のトラクションと俊敏なハンドリングを実現している。
電気モーターのパワーは、低速走行時のコントロールとレスポンスを強化し、リバース(後退)時にも使用される。さらに、電気モーターの瞬時に立ち上がるトルクにより、このハイブリッドシステムはV8エンジンをサポートして、センセーショナルな発進加速とレスポンスを提供する。電気モーターとV8エンジンは、DCT内で異なるギアを同時に選択できるため、パフォーマンスがさらに向上し、1,000Nmの最大トルク伝達が可能になる。
EV専用モードで走行する場合の最高速度は130km/hで、航続距離は15kmだ。予測されるCO2排出量(WLTP)は200g/km未満。950PSのパワーを解き放った場合は、ヴァルハラは0-100km/hをわずか2.5秒で加速し、最高速度は330km/hに達する。サーキット走行に関して、ニュルブルクリンク・ノルドシュライフェ(北コース)のラップタイム目標は、6分30秒に設定されている。
ヴァルハラのボディ構造は、最小の重量で最大の剛性を実現する新しいカーボンファイバー製コンポーネントを中心に構築されている。サスペンションでは、フォーミュラ1®スタイルのプッシュロッド・フロントサスペンションが特徴で、インボードに取り付けられたスプリングとダンパーがバネ下重量を減らし、優れたパッケージングを実現している。
また、リアエンドのマルチリンク・デザインとともに、マルチマチック・アダプティブスプリングおよびダンパーユニットを使用し、走行時の不快な振動を調整して、公道およびサーキットにおける卓越したパフォーマンスを実現している。より剛性の高いサスペンションに加えて、サーキット・モードを選択すると、ダウンフォースを最大化するために車高が大幅に低下する。公道走行用のモードでは、フロントアクスル・リフトシステムがノーズを持ち上げて、アプローチ・アングルを改善している。
また、カーボン・タブの優れた剛性により、サスペンション負荷を絶対的な精度で制御することが可能になり、パワー・ステアリングのインプットを連続的に調整することにより、直感的なハンドリングが実現した。
高性能なカーボンセラミック・マトリックスブレーキ(ブレーキ・バイ・ワイヤー・テクノロジーを採用)は、並外れた制動力を発揮し、ヴァルハラのために特別に開発された特注のミシュラン・タイヤ(フロント20インチ、リア21インチ)が、パワーを路面に伝達するという、最後の非常に重要な役割を担いる。ドライバーとクルマの一体感は、ヴァルハラ体験の中心的な要素であり、高度な素材やエレクトロニクスは、走る楽しさを実現し、ドライバーの自信を高め、完全なコントロール性を確保するためだけに機能を発揮する。
アストンマーティン ジャパンのオペレーションズ ディレクター、寺嶋正一氏にお話を伺った。「おかげさまで、アストンマーティンは現在、絶好調です。トビアス ムアースCEOの体制になり、むやみに生産台数を増やすことなく受注生産ベースにしたことと、コロナの影響で減産せざるを得ず、結果として在庫がとても少なくなっています。欲しくてもすぐには手に入らない、ということですね。私も長い間アストンマーティンにおりますが、アストンマーティンにとっては、本来もっていたラグジュアリーブランドとしての価値が上昇しており、ある意味では正常化したといえるのではないでしょうか。そういったところに、今回のヴァルハラが加わるわけです。ヴァルハラは、新世代のアストンマーティンを象徴し、新しいドライバー&ドライビング体験を定義するクルマです。日本のお客様の評判もよく、2025年の年間1万台販売に向けて目標達成に、また一歩近づけたのではないかと自負しています」