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11月上旬から劇場とNetflixで同時公開されている映画『ボクたちはみんな大人になれなかった』(主演・森山未來/監督・森 義仁)が話題になっています。同名の原作はcakesでの連載から2017年に書籍化、翌年には文庫版も出版された大ベストセラーです。

 

私は映画の予告編を見てからこの小説を読みました。なんとなくおしゃれな表紙が小っ恥ずかしく、「30代にもなって、恋愛話を読むのもねぇぇ〜。ねぇ!」と一歩引いていたのですが、予告編を見て「え、これって私の話!?」と妙にシンクロしてしまい、本屋さんへダッシュ! 毎日のように持ち歩き、少しずつ読み進め日に日にエモくなる自分と向き合っていました。今回は、恋していた全ての人に読んで欲しい1冊『ボクたちはみんな大人になれなかった』(新潮社・刊)をご紹介します。

 

 

Facebookで昔好きだった人の名前、検索しちゃうよね

この小説の舞台は、90年代の東京。岩手で小中学生だった私は、毎朝「めざましテレビ」を通じて届けられる「渋谷ではルーズソックスが流行っています!」なんてニュースに心躍り、都会への憧れを強めていたころでした。

 

書籍版の『ボクたちはみんな大人になれなかった』の始まりは、43歳になった主人公・佐藤がそんな90年代に恋していた「かおり」をFacebookで見かけ、気がついたら友達申請していたことから物語が動きはじめます。

 

人波に巻き込まれて不意に押してしまったこの状況をまだ受け入れられないでいた。言葉が見つからない。何体もの亡霊が、立ち尽くしたボクの周りをすり抜けていく。時間が止まったように“友達リクエストが送信されました”の画面を眺めていた。

(『ボクたちはみんな大人になれなかった』より引用)

 

私も、昔好きだった人をFacebookで検索、したことがあります!(笑)というか誰もがやったことあるのではないでしょうか。物心ついたころからSNSがある世代とは違い、社会人になってからFacebookを使う世代は、どこまで「友達」なのかが難しいところ。今やツールとして使うものなので、その「友達」の定義はなんとなくフォーマット化されてきましたが、最初のころは私もよくドキドキしていたものです。

 

誤って友達申請してしまった佐藤が、90年代に生きた自分を回想しながら物語は進んでいきます。

 

あぁ〜恋って、これだよなぁ……

恋愛小説や恋愛映画と聞くと、韓流ドラマやティーン向けコミックように誰もが主役で誰もがヒロインのキラキラ世界を思い浮かべるかもしれませんが、『ボクたちはみんな大人になれなかった』は、そのキラキラ感とは別の輝きがある恋愛観が描かれています。

 

個人的には「うわぁ〜、これぞ日本の恋愛!」と唸ってしまったのですが(笑)、自分ごとに置き換えられるようなシチュエーションが満載で、読み進めていくうちに自分の物語にも思えてきます。

 

自分より好きな人を思い胸がいっぱいになる、仕事が忙しくて好きな人ともなかなか会えない、いつも同じ場所でデートしちゃう、離れてみてその人の存在が愛おしくなる、彼氏・彼女に言われた一言で救われるなどなど、テーマパークでのデートや高級レストランなど特別なことをした思い出より、何気ないことの方が心に深く刻まれている……。そんなことが誰にでもあるのではないでしょうか?

 

恋愛小説や恋愛ドラマでの「きゅん♪」は、憧れのシチュエーションに、羨ましいなぁ〜私もそんな恋愛してみたい〜と思いを重ねますが、『ボクたちはみんな大人になれなかった』は、自分自身の「きゅん♪」とした経験を思い出させてくれます。あのころの自分と重ねてしまうので、心の底にしまってあった思い出がパカパカと開かれ、嫌でも何気ない思い出を想起させます。それが、片想いでも付き合っていても、いけない恋だったとしても……です! 思い出したくない人がいる……そんな人は要注意ですよ!(笑)

 

そして、オザケン!!

『ボクたちはみんな大人になれなかった』には90年代のカルチャーもたくさん登場します。恋愛なんて〜という人でも、読み始めれば当時の思い出が蘇るはず!

 

特に、90年代を代表するアーティスト、小沢健二(オザケン)さんを思い出さずにはいられません。文章を読んでいると脳内でオザケンのありとあらゆる楽曲が再生されるのですが、映画では絶妙なタイミングでオザケンの楽曲が流れます。

 

本にも映画にも登場する小沢健二のファーストアルバム『犬は吠えるがキャラバンは進む』はリアルタイムで聴いていなかったのに、借りてみるとなぜか懐かしい……(笑)。完全に『ボクたちはみんな大人になれなかった』の世界に私も入り込んでしまっていました。

 

ちなみに、書籍版と映画版では主軸は同じでも若干ストーリーに違いがあります。映画版でハマった人にはぜひ書籍版の世界も楽しんでもらいたいですし、書籍を読んだ方も映画を見ることでエモさを加速させてくれます。

 

今年も残り1か月。頑張って走り抜けたこれまでの歩みをちょっと止めて、過去の自分と対話してみるのはいかがでしょうか? 忘れかけていたあんな気持ちを思い出して、来年からもう一歩踏み出す勇気をもらえるはずです。

 

 

ボクたちはみんな大人になれなかった

著者:燃え殻
刊行:新潮社

それは人生でたった一人、ボクが自分より好きになったひとの名前だ。気が付けば親指は友達リクエストを送信していて、90年代の渋谷でふたりぼっち、世界の終わりへのカウントダウンを聴いた日々が甦る。彼女だけがボクのことを認めてくれた。本当に大好きだった。過去と現在を SNS がつなぐ、切なさ新時代の大人泣きラブ・ストーリー。あいみょん、相澤いくえによるエッセイ&漫画を収録。

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