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心の性と体の性が一致しない、トランスジェンダーの選手をめぐっては、数十年にわたって議論が続けられてきました。

性的マイノリティーとスポーツに詳しい関西大学の井谷聡子准教授によりますと、最初に議論が本格化したのは1970年代で、男性として競技していたアメリカのテニス選手が性別適合手術を受けるなどして女性として公式大会に出ようとしたもののかなわず、裁判の末に出場したことがきっかけだといいます。

その後、欧米を中心にトランスジェンダーの選手の人権を求める声が高まり、IOC=国際オリンピック委員会は2004年にトランスジェンダ-の女性選手に関する規定を公表しましたが、▼性別適合手術を受け、▼自国の法律で自認する性が認められていることなどが出場条件とされました。

その後、国によって対応が異なる中で不公平が生じることや、手術まで求めるのは人権侵害だという指摘もある中、IOCは2015年に新たなガイドラインを策定しました。

この中では▼男性ホルモンの一種、テストステロンの値が大会まで12か月間にわたり一定以下であること、▼大会後4年間は宣言した性別の変更をしないことなどを満たせば出場できるようになりました。

井谷准教授は「社会全体での議論、あるいは批判の波というのは繰り返されてきたが今回もそうした状況にある。ただガイドラインはトランスジェンダーの人権に関わる人だけでなく、スポーツ組織の関係者やIOCの医事委員会が入って今あるデータの中でベストのルールを示しており、その枠組みの中で出場している選手については尊重されるべきだ」と指摘しています。

今後については「ホルモン療法の影響などは実際の選手について研究した事例が少ないので今後も検証が求められる。IOCも今回の大会後に新たな規定を示すと言っており、注視していきたい。また日本ではトランスジェンダーの人たちの人権について議論や社会の合意が進んでいない。社会がその人たちを尊重するというメッセージを出すことが必要で、競技団体はまずはルール作りに取り組む必要がある」と話していました。