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初心者レベルといってもランニングシューズの種類は多く、どれを選べばいいのかは迷ってしまうだろう。そこで紹介したいのがアシックスの「GEL-KAYANO(ゲルカヤノ)28」だ。発売から28年、常に進化を続け、初心者から上級者まで多くのランナーに愛され続けているランニングシューズである。

 

これからランニングを始める人、日常的にランを取り入れている人、フルマラソン完走~サブ5を目指すランナーにおすすめしたいGEL-KAYANOの魅力を、誕生秘話から28年の歴史、最新作GEL-KAYANO 28の特徴、さらにはインプレッションなどで、じっくりと紹介しよう。

 

【アシックス「GEL-KAYANO 28」の写真を先見せ(画像をタップすると拡大表示されます)】













 

 

積み重ねた歴史の重みに反して足が軽やかに進むプロダクト

今回、シリーズ28代目が発売されたGEL-KAYANOは、世界のランナーに愛用されているアシックスの先進的なテクノロジーを贅沢に取り入れている。結果、優れた安定感と、走る前から感じられる信頼感を実現した。

 

数あるランニングシューズのなかでも、28年というのは最も歴史の長いロングセラーモデルのひとつで、毎年、様々なアップデートが施されながら進化を続けているシリーズでもある。

 

初代モデルからランナーの足に優しいシューズを基本に、その時代にマッチした素材を採用し、先進的な機能を搭載。その忠実なコンセプトによる信頼性からリピーターは多く、その歴史を知らないランニング初心者にとっては時代に合った進化による高機能シューズとして新鮮に映っている。

↑「GEL-KAYANO 28」 1万7600円(税込)。時代に合ったカラーリングやデザインだけでなく、常に前モデルを上回る機能を搭載し、1993年から進化し続けているGEL-KAYANO

 

「GEL-KAYANO」の原点から開発にまつわる28代分の蘊蓄

1993年、クロストレーニングが流行中のアメリカで発売された「GEL-KAYANO TRAINER(ゲルカヤノ トレーナー)」。これがGEL-KAYANOシリーズの原点だが、最初はクロストレーニングシューズからスタートした。アメリカ市場でアシックスの名前を知ってもらうため、採算度外視で開発されたが、その開発チームでデザイン開発を担当していたのが1987年にアシックスに入社した若手デザイナーの榧野俊一(かやの としかず)さんだった。

 

そう。「GEL-KAYANO」の“カヤノ”は、開発中のコードネームだった榧野さんの名前が、そのままモデル名となったのだ。榧野さんには相談なくつけられたそうだが、当時の榧野さんはもちろん、名づけた担当者もここまでシリーズが続くとは思わなかっただろう。

 

着地時の衝撃を緩衝するゲルを搭載し、当時では珍しかった「クワガタ」をモチーフにした内外非対称のデザインも先進的で、その基本となる機能とデザインは現在も継承されている。

 

その後、健康ブームによってファンランナーが増加し、6代目からはアシックスのISS(スポーツ工学研究所)とともに科学的に走りを研究したことでより注目されるようになった。当初はアウトソールの改良が中心だったが、10代目前後からはアッパーも大きく進化することに。

 

海外向けに発売された9代目では、タグ部分に榧野さんの名前の漢字スタンプ柄をデザインしたことで、創業者の鬼塚喜八郎さんから「アシックスのブランド名を利用して自分の名前を売り込む気か!」と叱責を受けたそうだが、そのモデルは海外市場では好評だった。

 

10代目が発売された2004年には、その年に開催されたアテネオリンピックで日本代表選手団のオフィシャルウェアとしてGEL-KAYANOも着用された。

 

さらに2008年に発売された「GEL-KAYANO 14」が、アメリカの世界的なランニング専門誌『RUNNER’S WORLDS』において、その年に発売された最優秀シューズに選出されている。

 

以降も進化は止まることなく、「GEL-KAYANO 18」ではアメリカのマサチューセッツ工科大と提携して有害な物質を減らすなど環境問題にも取り組んでいる。革新的な進化を常に続けるGEL-KAYANO。その開発のポイントをパフォーマンスランニング開発チームの中村浩基さんに訊いた。

↑株式会社アシックス パフォーマンスランニング開発チーム 中村浩基(なかむら ひろき)さん

 

「トレンドが常に変化するなかでも、ロイヤルカスタマーからの信頼、KAYANOというブランドのベースからはブレないこと。それは、ランナーの足に優しいシューズづくり、走っているときはもちろん、走る前から信頼感を提供できるシューズづくりを心がけることです。最近のトレンドは、よりソフトなクッション・バウンズ感のあるライド感が求められていますが、KAYANOはトレンドを追いかけるだけでなく、ブランドのベースに加えてトレンドを載せるという形で開発しています」(中村さん)

↑着用カラーのエレクトリックレッド/ブラックを含めて、メンズ用カラーは計6色展開。エレクトリックレッド/ブラックは、シティーランでも十分に映えるカラーだ

 

28年の長きにわたって多くのランナーから支持される「KAYANO」だけに、ブランドを継承し続けるうえでの苦労もあるようだ。

 

「KAYANOにとっての進化の難しさは、すでに多くのお客様から信頼をいただいている弊社を代表するシューズだということです。単に新しい機能を搭載した場合、新規顧客は増えるかもしれませんが、既存顧客との距離が離れてしまう可能性があります。ですので、新規顧客と既存顧客の両方を満足させることがKAYANOには求められています」(中村さん)

 

より速く走るために反発力を強めたり、新機能を搭載するためにこれまでのイメージを一新するのではなく、既存ユーザーからのイメージを保ちながら新規ユーザーに対しては新機能をアピールする。相反する条件をクリアしながらもGEL-KAYANOの進化は続いている。

 

 

どこが進化したの?「GEL-KAYANO 28」のディテール

28代目は、多くのランナーからの信頼を誇るGEL-KAYANOに軽量で反発性に優れたスポンジ材“FLYTEFOAM BLAST(フライトフォームブラスト)”を初採用し、フラット構造のアウトソールでさらに快適な走りを実現した。その進化についても中村さんに解説をお願いした。

 

「GEL-KAYANOでは、いつも開発前にテックストーリーやデザインインスピレーションのテーマを決めますが、『GEL-KAYANO 28』のテックストーリーは、ADAPTIVE STABILITY(寄り添ったSTAVILITY、安心感)です。またデザインインスピレーションは、BIOMIME-TECH(生体の持つ優れた機能の応用)ということで、生き物の骨格やその周りにある筋肉や表皮などの構造から着想を得ています。アッパーメッシュの機能(中足部の紐締め効果が上がるようなメッシュ配置やデザインなど)やツーリングは骨とその周りの関節や筋肉をイメージし、内蔵“トラスティック”(※着地時の足のねじれを防止する素材)のアイデアにつながりました。

 

また、FLYTEFOAM BLASTはクッション性と反発性に優れた素材で、試着に参加した多くの方々からの声(体感)として、前作の“FLYTEFOAM PROPEL(フライトフォームプロペル)”以上にその良さを感じていただいています。FLYTEFOAM BLASTがコンフォートなライド感に貢献しているのです」(中村さん)

↑「GEL-KAYANO 27」(上)、「GEL-KAYANO 28」(下)。バウンス感よりもやわらかさ・快適さを追求するため、軽く、反発性とクッション性に優れたミッドソール素材“FLYTEFOAM BLAST”を採用。足入れ時の柔らかさから走りがより快適になった

 

「STABILITYモデルとして、中足部の剛性はマスト。ただその一方、市場ではコンフォートな履き心地やスムーズなライド感が求められており、ただ硬いもので足を守るだけでは顧客満足を満たすことはできない。そこで、中足部剛性をキープしたままスムーズなライド感を満たすために、アウトソールをフラットソールトラスティック内蔵型に変更しました。この構造は『GEL-KAYANO 27』のプロト段階からトライしていた構造ですが、先代では採用に至ることはできませんでした。試行錯誤した点としては、トラスティックが足側に近くなることで、変な違和感につながってはいけない。その点はサンプルステージごとに様々な方に試着していただき、位置や厚みの確認を丁寧に行いました」(中村さん)

↑「GEL-KAYANO 27」(上)、「GEL-KAYANO 28」(下)。先代からアウトソールはフラットな構造にすることで、着地から蹴り出しまでのスムーズな足運びを追求した

 

「GEL-KAYANO 27までの大きな形状のヒールカウンターを再度見直し、オーバープロネーション(※着地の際に、かかとが大きく内側に倒れ込み過ぎている状態をいう)の抑制につながる形状に変えました」(中村さん)

↑「GEL-KAYANO 27」(上)、「GEL-KAYANO 28」(下)の内側。DYNAMIC DUOMAXと、小さいヒールカウンターによって見た目をスタイリッシュに見せながら、内側のヒールカウンターを高くすることで内側への倒れ込みを抑制し、安定した走りをサポートする

 

「走る」ことは頭の整理にも繋がる

今回、アシックスとORPHEのスマートシューズ「EVORIDE ORPHE(エボライド オルフェ)」を開発するORPHE(オルフェ)CEO/Founderの菊川裕也さんに、GEL-KAYANO 28のインプレッションをお願いした。

↑株式会社ORPHE CEO/Founder 菊川裕也(きくかわ ゆうや)さん。これまで日々の健康づくりとストレス解消に、夜ジョギングをすることはあったが、今年の5月にフルマラソン挑戦を決断

 

最初に「GEL-KAYANO 28」の第一印象について伺った。

 

「普段はアシックスの『EVORIDE』を使用していますが、GEL-KAYANO 28はカジュアルで普段のランニングに使いやすいという印象。実際履いてみると、柔らかくて強いクッション性の豊かさを感じました。僕はオーバープロネーションぎみだったので膝が痛くなりやすい特徴があり、アシックスに以前『GEL-KAYANO 26』を薦めてもらいましたが、それよりも足首のグリップ感とクッション性、ホールド感ははかなり深いと思います。日本人は、オーバープロネーションを気にしている人が多いと思うので、ランニングにはすごく適していると思います」(菊川さん)

 

10月に開催予定の東京マラソン出場を目指してトレーニング中の菊川さんは、トレーニングを始めてマラソンへの印象も変わったという。

 

「僕は最近、マラソンはサウナに似ていると思っています。周りの友人もサウナに通っていて、『ととのう』というワードが流行っているのですが、サウナのあとに水風呂に入るとリラックスできて自律神経が整います。それは走る点でも同じです。ランニングしているときは息苦しかったりするんですけど、それを乗り越えてシャワーを浴びると自律神経が整う。何ならランニングはサウナよりも達成感があり、やりがいもあると感じています」(菊川さん)

↑「このときまでにこれくらい走れるようになりたいという目標に基づいて走っているので、一回一回の走りに意味づけができました」と、菊川さん

 

フルマラソンに向けてトレーニングを始め、その効果は仕事への取り組みにも変化を感じている。

 

「単純に体力的な点で体が動くようになることと、仕事に集中しやすくもなります。机に向かい座って悩み、頭がどんどん煮詰まってくる。そんな悩みを走りながら考えると前向きに捉えられる。結論付けするには走るのがいいと最近思っています」(菊川さん)

 

シューズ選びについては自身の経験から思っていることもある。

 

「ただ流行っているやカッコいいなどで選ぶよりも、自分のプロネーションがどういう形で、どういう走り方の特徴があるかを分かったうえで選んでいただければいいと思います。アシックスは足の形やフォームなどに合わせたシューズのラインナップがあるので、まずお店のアドバイザーに相談して自分に合っているシューズを選ぶことができれば一番結果が出やすい。シューズはギアだと思うんですけど、まさに自分を拡張するものだから、自分の弱点と強みに合わせてギアを選んでいけば良いと思います」(菊川さん)

↑日々のランニングを欠かさない菊川さん

 

オーバープロネーションに対応し、ランナーの足に優しいシューズを基本に新しいフォーム材やトレンドを取り入れることをやめないGEL-KAYANO。このシューズのターゲットはこれからランニングを始める人、日常にランを取り入れている人。フルマラソン完走〜サブ5を目指すランナーにもすすめたい。

 

先進的な機能を“贅沢に取り入れる”ため重さを感じるかもしれないが、それはサポートが充実している信頼感の重さ。ランナーのレベル感によって用途が異なるGEL-KAYANOだが、長く、快適にランを楽しむためのシューズとしてこれからも常に進化を起こし続けることは変わらないだろう。

 

 

撮影/松川 忍 スタイリング/宮崎 司