もっと詳しく

菅義偉首相は3日、自民党臨時役員会で総裁選不出馬を表明した。昨年9月16日に発足した菅政権はわずか1年で幕を閉じることになった。

新総裁が決まるまでの間「新型コロナ対策に専念する」ことになる。

前日の2日、夕方4時過ぎに党本部を訪れた菅首相は二階俊博幹事長と会談した。このとき、自身の総裁選不出馬を申し出ていたのだ。

この会談、各メディアには逆に「出馬表明」とリークされていた。

二階から次期衆院選挙での求心力低下が指摘され、菅はついに辞任を受け入れたという。自民党幹部が言う。

「総選挙の議席予測で、この春ごろは『自民党は負けても30議席前後』といわれていた。その後、新型コロナが拡大し第5波となってからは、予測負け幅は『50〜70議席』へと拡大。内閣支持率はぐんぐん下がり、下げ止まる要素が見当たらない。夏には菅首相の人相が変わってしまった。疲労度が増していった。限界でした」

「断ってくれ。出たくない」

菅首相の極度の疲労は、広島、長崎原爆慰霊祭での失態でも明らかになった。総裁選が差し迫るなか、総理周辺はテレビ出演などメディアへの露出を促したが…

「断ってくれ。出たくない」

心身の異変は誰の目にも明らかな状態であった。

二階派の議員たちは2日の夜、奔走した。菅首相不支持を表明した有志が各方面に駆け回り、総裁選に独自候補擁立を模索する議員、また岸田票拡大を要請する議員など、様々な思惑が錯綜していたのである。

総裁候補たちは…

総裁選に立候補を表明している岸田文雄はこう言う。

「驚いた。この1年のたいへんなご労苦に敬意を申し上げる。菅首相の不出馬表明は政治家の判断として重く受け止めなければならない」

一方、有力な候補として期待される石破茂は

「政治では、思いがけないことが起きることがあります。今はなにも言い切れることなどありません」

と言って、言葉をのみこんだ。

菅退陣の報を受け、河野太郎はいち早く反応。出馬の意向を示した。しかし党内には「河野だけは勘弁」の声も少なくない。

菅政権とは、なんだったのか

世論の大きなうねり、党内の「菅では選挙を戦えない」という声のなか、菅は退陣を決意した。

新型コロナの対策では、私権制限を極力避け、ワクチンの早期輸入に尽力した菅首相だったが、対策の不手際というよりむしろ、発信力の弱さによって、国民の信頼を得ることができなかった。

菅首相の不出馬、総理辞任という急転に、永田町は虚を突かれた。今、後味の悪い静寂と声なき声による喧噪で、極めて居心地の悪い空気が漂っている。

国民から批判を浴び続けた菅は去ることになった。しかし、新型コロナによる国民の不安、困窮はまだ続くのだ。総裁選は、あくまでも自民党内のできごとに過ぎない。

「騒動に気を取られ、これで、なにかが解決したように感じるのは危険です。これでなにも解決していないし、前進したわけでもありませんから」(自民ベテラン議員)

この国のこれからの政治がどこに向かうのか、我々は、しっかり見極めなければならない。

取材・文:橋本隆