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吉本興業と専属エージェント契約を結び、独特の芸風とマルチな才能を発揮している天竺鼠川原 克己さん。趣味の「絵本集め」に留まらず、絵本作家として「ららら」をはじめとする創作活動も積極的に行っています。

今回、OEPNREC.tvやYouTubeなどでゲーム実況配信を行う、天竺鼠 川原さんの隠し子(という設定である)「1510円ハゲくん」についてのインタビューを実施。天竺鼠 川原さんとゲームとの想い出、そしてこれからについてお話を伺いました。

――「1510円ハゲくん」とは何者なのでしょうか

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川原:僕の隠し子として……まあ否定も肯定もせず。グレーゾーンですね。中学生一年から配信を始めて三年経ちますから、もう中学生三年生ですね。もう大人です。

――中学一年生から配信を始めて……。

川原:設定に沿って、そんな細かくちゃんとしなくていいですよ、そんなまっすぐな目で。恥ずかしくなりますから(笑)。

――どのような経緯でゲーム配信をはじめたのでしょうか

川原:僕自身がゲーム好きでしたから。吉本興業が今ほど本格的にゲーム実況をする前でしたね。なので、先駆けと言えば先駆けなんですかね。

――川原さんご自身ではなく「1510円ハゲくん」が配信している理由は?

川原:純粋にゲームに集中したかったからです。僕自身が配信したとして、たぶんゲームじゃなくワイプで遊んじゃうと思うんですよね。ボケで。変なかぶり物してゲームして、ゲームがおろそかになるよりかはやはりゲームをみんなに見てほしかったというのがあるんですよ。だから息子に委ねました。

――川原さんはどんなゲームをプレイするのですか?

川原:もう41歳なので、小学校はファミコンの時代でした。ゲームボーイも四六時中やってましたね。小学校の頃は家が貧乏でしたからあまりできなかったのですが、少しずつ自分で働いたりして、高校を卒業する頃になるとゲーム機を買って、好きなだけ買って……みたいな。そのくらいずっと、家にはゲームがありましたね。

中学校・高校の時はゲーマーになっていたので、友だちが僕に勝つために毎日家に来て勝負して帰っていって。野球部だったのですが、部活が終わって夜遅いのに汚いユニフォームを着たまま野球部みんなが僕の家に来て、そのままゲームして……みたいな。でもゲームはサッカーして、みたいなよくわからない状況でした。僕がどんどん強くなるから他校のゲームが強い人が来たり。周りでは「川原はゲームが上手い」という認識をされていたと思います。

芸人になっても変わらずみんなでハマっていたのはサッカーゲームの『ウイニングイレブン』。大阪時代は、定期的に千鳥のノブさんの家に集まって「『ウイニングイレブン』が一番強いのは誰か」みたいなことをやっていました。結構強かったのでずっと呼ばれてたのですが、小籔さんも『ウイニングイレブン』にハマっていたようで「もっと強い奴はおらんのか、もっと強い奴はおらんのか」と。僕はお会いしたことはなかったのですが、ノブさんが小籔さんに「天竺鼠の川原ってやつがいて、ゲームめっちゃ強いんですよ」と紹介してくれて「そんな奴は知らんが、ゲームがうまいなら呼んでこい」という流れになって。

ゲームバーに呼ばれて、でっかいモニターのとこに小籔さんが待ってて。入った瞬間背中から「お前が噂の奴か」オーラがすごくて (笑)。「とりあえず座れ」という流れから「天竺鼠 川原?知らん知らん。勝負や」という感じで。『ウイニングイレブン』で対決したのですが、僕、色弱なんですよ。色が分からない時があって。例えば相手のチームのユニフォームが緑だとしたら芝生の緑と、あとズボンが白だったらボールも白で、もう分からなくなるんです。それを言わずに試合をした時に僕が負けてしまいまして。「まあまあ強かったけど、まだまだやな」って小籔さんに言われて。僕はゲームに自信がありましたから火が点いてしまって、そこで「ちょっと、もう一回やらせてもらっていいですか」と。「ユニフォームだけ決めさせてください」って言って、ユニフォームを決めて僕が勝って「なんだこいつは…めちゃめちゃうまい」みたいな。

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芸人同期でかまいたち、藤崎マーケットとずっとゲームをしていましたね。天竺鼠として借りていた部屋があって同期が誰でも出入りできました。そこにゲームがあって、帰ったら誰かがゲームしてるみたいな感じで誰が強いかみたいなことをやってましたね。ボクシングとか、プロ野球、サッカーとか。

『メタルギアソリッド』や『グランド・セフト・オート』とかは違う遊び方をしてしまいます。例えば『グランド・セフト・オート』ならミッションクリアせずに海でゆっくりするとか、そんなんばかりしてました。

小さい頃から大人になるまでゲームはずっとやっていますね。その影響で子供の「1510円ハゲくん」が配信している感じですね。

――小中学生の頃は、ご自身の好きなゲームをあまりできなかったのですね。

川原:できなかったですね。貧乏でしたからゲームカセットも全く無かったです。小学校の頃はファミコンのカセットをたくさん持っているそんなに仲が良くない友達がいて、彼がいない時に彼の家に行って勝手に部屋にこっそり入ってゲームして、ひとりで帰ってましたよ。家の人にバレないように。今考えると不法侵入ですけどね。でも子供の頃は家にはゲームカセットが無かったので…。

――子供の「1510円ハゲくん」には自由にゲームをやらせてあげられていますか。

川原:自由にやってもらってはいるのですが、少しだけ心配事があって…。

今のゲームって、現実と分からないくらいリアルじゃないですか。それが心配だからアホみたいなゲームをいっぱいやって欲しいなっていうのは切に願っているんですけどね。リアルすぎるとツッコミどころがないじゃないですか、完璧すぎて。映画を見てるような感じで。

『イー・アル・カンフー』で敵にくっつかれるとパワーが減っていくじゃないですか。小さい時に「これなんでパワー減って死ぬんだろう?パンチとかされているならまだしも」って考えて、「たぶん耳元で嫌なこと言われてるのかな、ストレスで減っていくんちゃうかな?」とか考えて。粗探しじゃないですけど、そう考えながら遊んでいたイメージが強くて。そういう経験があったからこそ自分の中の想像力が育ったイメージがあるので、なんだかそういうゲームに出会ってほしいですね。「なんでこうなる?」みたいな。ゲームもひとつの出会いですからね。人との出会いと一緒で、このゲームと出会っていろいろ考えさせられたとか。だからいろいろやってほしいですね。

――「耳元で嫌なことを言われている」という話もそうですが、そういった感性はどこからくるのでしょうか。

川原:人と喋りながら笑わすタイプではなかったんですよ。小さい頃から想像するのが好きで、それでこんなやつだから友達も多くなかったんですよ。なんならちょっと無視されていたというか、喋りかけても反応が薄い感じだったので。それでよく喋る人は離れて行くじゃないですか。でクラスで僕は端っこにいて、クラスのよく喋る人たちがワッと盛り上がってる。僕は端っこで彼らのことをずっと頭の中で動かしてたんですよ、ゲームみたいに。「今お前がこんな風に喋ったらおもろいねん」とか。自分の頭の中で動かしてて。

例えば、運動会の応援団みたいなのが集結してヤンチャグループで応援団の練習してる時に「おっ、いいねいいね」ってみんなの息が揃ってきた時に、教室にバケモノが来てみんなを食べたら面白いな、やっと息が揃ったのに全部食べたら…とか考えて、ひとりで楽しんでいました。

サッカーのゲームとかもみんな試合の勝ち負けだとかを見ると思うのですが、昔は観客はドットで表現されていましたから「なんで点が見に来てんやろ?」とか考えていましたね。技術が進んで観客がリアルに近づいてきても「服かぶってるやん」とか「こんだけ観客いたら知り合いいるんちゃうか」とか、そっちの想像力で遊んでいました。野球ゲームとかもアウトになってからベンチに戻る時の方が足が速い、みたいな。そのスピードで塁に走っていたらセーフだったのにな、みたいな。「1510円ハゲくん」もそんなゲームにいろいろと出会ってほしいですね。

――絵本なども創作されていますが、そういった考えはコンテンツにも反映されているのでしょうか。

川原:僕、器用ではないので。芸人としてもそうですし、絵本もそうですけど「自分の好きなこと50%、みんなが分かりやすく付いて来てもらうのが50%、これで100%」という創り方をしたら、どっちつかずになってしまいます。結局俺は何がしたかったんだ、何を伝えたかったんだ、と。単独ライブや芸風、絵本もそうなのですが「自分が100%好きなこと」をやって、それにたまたまついて来てくれたり、たまたまどこかで優勝したりとか。

何かの大会で100%自分の好きなネタをやって、決勝に出れたことがあったんですよ。二回くらい連続で。そうなった時に「だいたいこんな感じで作ったら、決勝行けるんだ」って思っちゃったんです。それで次の年にはもっとウケを増やしてやろうと思って「50%好きなこと、50%はめっちゃウケるよう」にして、会場もそこそこウケたんですけど、決勝で落ちたんですよ。結果がついて来た、ついて来ていないは別として、自分自身で考えた時に「観客に合わせようとして、何が残った?」「中途半端な気持ちが残った」、「このネタが好きか?」「好きじゃない」、「またやりたいか?」「やりたくない」という気持ちになって。もう落ちてもいいから100%好きなの作ろうって。

だから絵本とかも読み手に完全に委ねてる系のモノが好きですね。0才・1才・2才児向けの絵本のコーナーによく行くんですよ。丸があって、ブクブク文字がバラバラみたいにあって、物語はわからないけど楽しみ方は子供に委ねてる。子供がどう捉えるか、という絵本がむちゃくちゃ好きで。今日見るのと明日見るのとではまた内容が変わっている。

落ち込んだ時に見ると「このネタを見た時にさらに体調が悪くなった」と言われるかもしれない。でも別な日に見た時は「めっちゃ面白かった」とか。そういうネタの方がいいなと僕の中で思っています。ライブも「こういうネタですよ!」、絵本も「こういう物語ですよ!」って出してしまうと、答えが一個になってしまう。

僕のネタは、ある人にはめっちゃ好かれるけど、ある人にはめっちゃ嫌われるのが、理想ではないですけど、それが自然なんじゃないかと思っています。そもそも、たくさんの人に見てもらって、なるべくたくさんの人に好かれたいなんて1ミリも思ってなくて。だから「あいつ嫌いやわ」ってめちゃめちゃ言われますし、めちゃめちゃ好きとも言われますし、それがすごく「あ、ちゃんと自分の好きなことがやれてる」というか。全員僕のことが好きってなったら、「あれ?俺、ちゃんと自分が好きなことをやってるか?」って不安になってくる。こなしちゃってるんじゃないかみたいな。

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――そういう視点で物事を進めたり、創ろうとしたら、覚悟がいると思います。「売れなかったらやばい」などの恐怖などはないのでしょうか

川原:全く無いです。「自分の好きなことをやる」が目的なので、それ以外の周りの意見とか結果は二の次です。

ありがたいことに先輩方が「川原、もっとこうしたらテレビ出れるよ」「もっとこうしたら稼げるよ」と言ってくださる。だけど、そこに魅力を感じないし、それをやってしまうと僕が分からなくなって、それこそ守りに入ってしまう。そうなると「恐怖」とか「結果を残さないと」、「維持しないと」ってなるじゃないですか。だから今は全く怖いものはないですし、この先どうなるのか楽しみでしかないです。

吉本興業とはエージェント契約に切り替えたのですが、理由として「ワクワクするし、吉本興業という実家を出て、ちょっと一人暮らしさせてください」みたいな感じです。一人暮らししたいのって、意味は別に無かったりしますよね。とりあえず「自分に何ができるんだ?」みたいな。自由なものも出てくるし不自由なものも出てくるし。それを確かめたいだけ。

今テレビの仕事はなるべく受けないようにしているんです。たぶんできると思うんですよ。でも、できちゃうとまた仕事が来るじゃないですか。それを繰り返したら、断る理由がなくなって「まぁ、いっか」となって、気がつくとそういうことでガチガチになってて…これがゼロになったら確かに怖いな…という状況になるのが怖いので、最初から0か100。嫌いな人は嫌いでいいです、みたいな感じです。

でも、恐れてるっちゃ恐れてるかも知れないですね。中に入ってしまうと出れなくなるから、外でずっとひとりで、教室の隅っこでいる。中に入っても、また外に出たらいいやんって言われるんですけどね。テレビでバッと売れて。売れてから好きなことしたらええやんって言われるんですけど、僕はそれができないと思うんですよね。よく言われるんですよね、みんなに。

「1510円ハゲくん」の話、あまりできてないですね。

――川原さんご自身のこと、お伺いしすぎですよね…。

川原:僕は全然大丈夫です。

でも、「1510円ハゲくん」もやっぱり親の考えに少し似ているかもなぁ、と思ったりはします。普通、ゲーム配信を見ている人はクリアを見たいし、うまいプレイを見たいと思うんです。だからそういう人たちは「1510円ハゲくん」の配信を見ても面白くないと思います。ただ、それでいいと思っています。クリアする配信者はいっぱいいますし、うまい配信者もいっぱいいるから、他を見ればいい。

「1510円ハゲくん」なりのゲーム配信をして、本当に少ないながらも「そういうのを待ってました!」という人が一人でもいたら嬉しい。その人は「1510円ハゲくん」でしか救えなかったんじゃないかと。

僕自身「尖ってるだけ」、「天の邪鬼なだけ」で「あいつはダメだ」みたいな感じのことを言われるんですけど、それで全然構わないと考えています。認めてもらうためにやっているわけでもないし、単純にいろいろな人がいていいでしょ、と。

「野球」と「サッカー」って全然違うじゃないですか。野球好きの人が、サッカーのルール面白くないって言ってるようなもので、野球は野球で楽しめばいいしサッカーもそう。みんな合わせすぎて、全部のスポーツごっちゃにしているようなもので「それ何が楽しいの?」みたいな。野球好きにも嫌われない、サッカー好きにも嫌われないみたいなものを作ってしまった時に「あなたは誰ですか?」、「いや、けっこう嫌われないやつです」みたいな感じになると思うんですよね。誰だ、それは、と。

――そんな「1510円ハゲくん」の配信は、どんな人たちに見て欲しいですか

川原:ゲーム好きの人に見てくださいと思わないですし、お笑い好きの人に見てくださいとも思わないです。たまたま見てクスッと笑えたらいいし、次の回で笑えなかったらもう見なくてもいいし。そのくらい荒くていいかな…と考えています。

――絵本と一緒で、視聴者側に委ねていますね

川原:そうですね。本当に僕らのことが好きな人が単独ライブに来たとしても、半分以上の人がポカンとしていますし、「天竺鼠といえばこのネタだよね」というのも作っているつもりもないです。だから自分の好きなものをバンバンと。単独ライブで新ネタを6本するとしたら、僕の好きな角度で6本とも違うネタをしたりします。僕らのファンでも「あれは好きだったけど、あれは好きじゃなかった」とか。そういう感じがすごくいいなって。

――「川原さんらしくない」と言われるのが一番嫌そうですね。

川原:(笑)。僕はベタも好きですし、もちろんシュールも好きですけど「僕らしい」は自分で決めたい。「僕らしさ」を周りに言われだしたら、それこそ分からなくなるのでその辺はあまり聞かないようにしていますね。その時の好きな感じをやります。僕らしくないことをするのが面白いと思ったらやりますし。

周りに左右されず、この自分の身体と脳みそをどれだけ使って遊園地みたいな地球を遊べるか、みたいな。「あそこ人気だから乗ったほうがいい」とかではなくて「本当にこれが乗りたいから、乗る」。

そんな感じで楽しんで、たまたまそれを見て楽しい。だから僕はよく単独ライブのお客さんに言うんですけど「俺も頭おかしいって言われるけど、それをお金払って見に来ているあなたたちが一番頭おかしいですから」って。僕が気持ちいいことをただしているだけで、それを見たいというのも頭おかしいですねってよく言うんです。

――”今”を全力で楽しんでいますね。

川原:小さい頃から「過去」も「未来」もどうでもいいと考えていました。小さい頃に「俺、子供っぽくないな」という意識があったんです。「無意識に無理してるのかな」と思って、潰れたミカン工場にいって、ミカン箱の上に乗って、一回泣いてみようと思って無理やり泣こうとしたのですが、全然泣けなくて。「俺ってこんなに冷たい人間なんや」って思ったの覚えてるんですよ。だからいい意味で人も未来もどうでもいいって。「今この瞬間、何が好きか」ということは、小さい頃から重きに置いてたかもしれません。それがそのまま大人になってる感じです。

「大人になると変わってしまうのかな…」とちょっと怖かったりしたんですよね。大人になったら「上司に嫌われたくない」とか「会社クビになるのが怖い」とか嫌われたくないって思っちゃうんかな、今は思わないけどって、心配してた時期もありました。大人になっても、あの頃と何にも変わっていないですね。だから過去に戻れるとしたら、小学校の自分に「全然変わってないから大丈夫やで」「変わらなくて大丈夫やで」って言ってあげます。

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なお、9月5日(日)「1510円ハゲくん」公式チャンネルの動画配信で、スペシャルな人気者が初登場とのことです。ぜひこちらもチェックしてみてください!