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 タイで、新型コロナウイルスの感染予防のための隔離施設から旅行者が逃走し、警察が行方を追う事態が起きた。2021年12月24日のバンコクポスト紙は社説でこの問題を取り上げ、検査体制の脆弱さを指摘した。

検査の「すり抜け」

 「新型コロナ感染予防の規則を破って逃げ出した旅行者の行方を、警察が懸命に追っている」と社説が伝える事件は、2021年12月18日に起きた。29歳の男性旅行者がPCR検査の結果を待たずに隔離ホテルを抜け出し、その後、男性の陽性が判明したという。
 地元警察は男性に逮捕状を出して捜索したが、結局、男性が自らサムイ島の警察に出頭するまで見つけることができなかった。出頭時に行われたPCR検査では陰性だったものの、その後、保健省で改めて検査したところ、男性の感染が確認された。逃走中、他者に感染させた恐れもあるという。
 社説は、「この事件を通してタイの新型コロナ検査態勢の甘さが露呈した」とした上で、「残念ながらいつこのようなことが起きてもおかしくない状態だった。今回のことは驚きではない」と指摘した。
 「あきれるほど悲観的な脆弱な態勢だが、これが実態だ。実際、11月にも保健当局はオミクロン株の感染者が確認されたアフリカ南部8カ国からタイに入国した272人について追跡調査を行ったが、アプリで追跡し、PCR検査を実施できたのは44人に過ぎなかった」

新たな変異株への準備

 さらに社説は、「このデジタルイノベーションの時代に、タイ政府はマンパワーに依存している。タイ政府は“テスト&ゴー”というスキームを打ち立てて観光客を呼び込もうとしているが、このような脆弱な体制でどのようにして9万人以上の旅行者を追跡できるというのだろうか」と、首をかしげる。
 また、オミクロン株の対策についても「政府は稲妻のような速さで感染が拡大すると言われる新株に立ち向かう備えができていない」と、批判した。特に疑問視しているのが、入国者の追跡アプリがうまく機能していないのではないか、という点だ。このアプリのダウンロード数はすでに数百万回を超えているが、人権的な観点から「義務」とはされていない。政府は「アプリが機能するためには、利用者の協力が不可欠だ」としている。
 「新型コロナの感染が始まって2年が経過したが、政府がまだコロナ感染リスクが高い人々を追跡するシステムすら確立していないことは、衝撃的だ」と、社説は指摘し、つぎのように述べる。
 「オミクロン株の出現によって、新型コロナと闘う世界の努力はゼロ地点に戻ってしまう可能性がある。しかし、政府はいつまでも古い戦略に頼ってばかりはいられない。オミクロン株の追跡という新たなゲームに追いつかなければない。それは、今後出てくるであろう、さらに巧妙で強い感染力を持つ変異株についても同様だ」
 オミクロン株の後も、新たな変異株が「疑いなく出現するだろう」と、社説は予測する。そのために何ができるのか。
 「時間に猶予がない」ことも、「古い戦略にばかり頼ってはいられない」ことも、社説が主張する通りだ。そして、人命にかかわる事態に、どんな言い訳も許されない。世界共通の課題である。
 
(原文https://www.bangkokpost.com/opinion/opinion/2237039/virus-beats-weak-system)

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