菅首相が3日に不出馬を表明したことで、自民党総裁選(17日告示・29日投開票)の構図が一変し、麻生副総理兼財務相と安倍前首相が対応に苦慮している。混戦が予想される中、派閥をまとめきれるかどうかが焦点となっている。
麻生氏の悩みの種は、出馬の意向を固めた河野太郎行政・規制改革相への対応だ。
麻生氏はかねて、「河野氏に本格的な長期政権をやらせるのはまだ早い」との立場だった。新型コロナウイルス対応に加え、来年には参院選も控えており、麻生派としては「首相候補カード」として温存する方が得策との声が根強かった。麻生氏は3日の河野氏との面会で、こうした考えを伝えたものの、「最後は自分で決めろ」と出馬に理解を示した。
ただ、ベテランを中心に「支援する気にはなれない」といった声もある。脱原発や女系天皇の検討といった主張をしてきた河野氏への反感があるためだ。3日夜には、甘利明・党税調会長と森英介・麻生派会長代理が麻生氏のもとを訪れ、今後の方針について協議した。
河野氏には、菅首相や小泉環境相が支持する意向を周囲に示している。知名度も高く、「派閥に頼らずとも勝てる」(河野氏周辺)と強気の声もあり、派閥
の麻生氏は難しい対応を迫られそうだ。
一方、安倍氏は出身派閥の細田派(96人)に絶大な影響力を持つ。衆院選後に同派に復帰するとみられている。
細田派は派閥としての対応を週明け以降に協議する方針だが、安倍氏は同派議員に対し、無派閥の高市早苗・前総務相を支援するよう働きかけを始めた。高市氏は3日のBSフジの番組で、首相に就任した場合でも靖国神社を参拝する考えを示すなど、保守派として知られる。保守系議員が多い細田派内に一定の支持はあるが、過去に同派を飛び出した経緯から反感を持つ議員も少なくない。
安倍氏は脱原発を主張する河野氏とは距離があるとされるが、細田派内の中堅・若手には「選挙の顔」として河野氏を推す声もある。
「盟友」と評される安倍、麻生両氏の力の源泉は、党内第1、2派閥(細田派、麻生派)の国会議員票の数だ。自民党議員の4割近くに達し、過去2回の総裁選では両派が歩調を合わせ、主導権を握ってきた。今回、両派は一致結束した対応をとることは困難な情勢で、自民党内では「今回の総裁選を機に、2012年の政権復帰以降続いてきた党内力学が変わる可能性がある」との見方も出ている。