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 菅義偉首相の辞意表明で政界は持ちきりだが、解散・総選挙を前に、政治資金の改革も待ったなしだ。政党から政治家に支出され、自由に使える「政策活動費(組織活動費)」が2019年、与野党5党の幹部らに約22億円支出されていた問題。「こちら特報部」の集計で分かったが、そもそも何に使われていたのだろうか。公開されている政治資金収支報告書に手掛かりを求め、金額が最も大きい二階俊博・自民党幹事長の地元に飛んだ。(木原育子)

 政策活動費 政党から議員個人に支出される政治資金。政治資金収支報告書に記入する政治活動費の一つで、組織活動費と呼ぶ党もある。政治資金規正法は政治家個人への寄付を禁じ、資金管理団体や政党支部で受けて収支報告書を提出するよう義務づけているが、政党がする寄付は例外として認められている。受け取った議員は収支報告書に記載する必要がなく、使途は分からない。2019年は自民党、国民民主党、日本維新の会、社民党、れいわ新選組の幹部ら30人に約22億円が支出された。

◆和歌山県御坊市では「政策活動費?知らないね」

 2019年の収支報告書を見ると、5党の「政策活動費」など約22億円のうち、6割の13億円余が自民への支出。その8割近い10億円余が二階氏に出されていた。自民党が政権を奪還した直後の2013年からの7年間でみると、計約38億円にも上る。

 自民党の収支報告書の支出欄には、議員が代表を務める政党支部や資金管理団体の事務所ではなく、本人の住所が記されている。7月上旬、「こちら特報部」は和歌山県御坊市の二階氏の住所に向かった。東京から新幹線と特急に揺られ5時間余。紀伊半島の潮風香る緑豊かな街は、風力発電の風車がゆっくりと回っていた。

二階氏ら地元議員が写った自民党のポスター=和歌山県御坊市で

 二階氏はこの地で生まれ、中央大卒業後、衆院議員秘書に。和歌山県議を経て、1983年に衆院和歌山2区(現3区)で初当選した。以来連続12回当選を果たし、党内ナンバー2の幹事長を務めている。

 記載された住所を訪ねたが不在。300メートルほど離れた公民館には「祝二階俊博先生 自民党幹事長就任」の看板がかかっている。街の至るところに、二階氏らの写真が入った自民党のポスターが貼られている。

 「二階さん? 今はめったに帰ってこないよ」と、近くで商店を営む50代の男性。政策活動費について聞いてみたが、「政策活動費? 何ですか、その費用…」と首をかしげるばかりだった。

 政治家なら分かるかも…と、柏木征夫・前御坊市長に取材したが、やはり「政策活動費? 知らないね」という答え。二階氏の支援を受けて市長になり、昨年6月まで全国最長の7期務めた人だ。

 「(災害時などに国から臨時に交付される)特別交付税は人口の割に多く配分された」と感謝しつつ、「二階さんから直接(お金が)動くという話ではない」ときっぱり話す。「選挙では全面的にバックアップしてもらったが、二階さんが市政にもの申すことは一度もなかった」

◆「街並み見て、恩恵受けていると思う?」

 二階氏は自民党の国土強靱化推進本部長でもある。選挙を手伝う製造業の男性は「公共事業は確かに盛んだよ」と話す。地場産業が乏しい地域の企業にとって、国土強靱化の一環である紀伊半島の高速道路事業は頼みの綱。港には、道路建設で使うセメントの材料となる土砂の山が連なる。

 二階氏自身、2014年の本紙の取材で「財政再建は重要だが、財政が厳しいから必要なことができないのは本末転倒だ」と国土強靱きょうじん化にかける思いを強調。防潮堤や食糧備蓄の必要性も説いたうえで「知恵を絞って命と国土を守るのに必要なことを進めるのが重要だ」と語っていた。

 ただ、市の人口約2万2500人は減少傾向。高齢化率は全国平均の28・8%を上回る31・6%だ。19年度、数値が高いほど財政に余裕がないことを示す「経常収支比率」は、全国の市で北海道夕張市に次ぐワースト2だった。

 前出の男性は苦笑いする。「若者も戻ってこない。政策活動費が何か知らないが、元気がないこの街並みを見て。地元が二階さんから何か資金面で恩恵を受けていると思う?」

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