NHKの大河ドラマ『青天を衝(つ)け』のVFX映像の制作過程や裏話、現場の様子などをご紹介するシリーズ企画。6回目となる今回は「江戸城能舞台」について解説したいと思います。
関連記事
VFXチームがわかりやすく解説! 大河ドラマ『青天を衝け』で学ぶ、VFXのつくり方<1>お蚕ダンス
VFXチームがわかりやすく解説! 大河ドラマ『青天を衝け』で学ぶ、VFXのつくり方<2>追鳥狩り~人増やしとフォトグラメトリ~
VFXチームがわかりやすく解説! 大河ドラマ『青天を衝け』で学ぶ、VFXのつくり方<3>追鳥狩り~キジと矢~
VFXチームがわかりやすく解説! 大河ドラマ『青天を衝け』で学ぶ、VFXのつくり方<4>血洗島オープンセット
VFXチームがわかりやすく解説! 大河ドラマ『青天を衝け』で学ぶ、VFXのつくり方<5>渋沢家スタジオセット
TEXT_『青天を衝け』VFXチーム(NHK)
EDIT_海老原朱里 / Akari Ebihara(CGWORLD)、山田桃子 / Momoko Yamada
[青天を衝け] VFX編 | 激動の幕末をダイナミックに描く舞台裏 | 青天を衝けの世界 | NHK
© NHK
ミッション<6>「江戸城の能舞台を再現する!」
第2回の放送では大人になった徳川慶喜が第12代将軍・徳川家慶に能を披露しました。慶喜の内面を描く重要なシーンです。この能舞台は江戸城二の丸にあった水舞台を想定しています。
下記の画像は江戸城能舞台のイメージボードです。このイメージボードには美術チームの壮大な野望が描かれています。それは「水面に建つ能舞台」です。当時、江戸城二の丸にあった水舞台の水面をぜひ表現したいという美術部の熱い提案に演出もすっかり乗り気になってしまいました。しかし、水面上にある能舞台は現存しておらず、VFXで再現する必要があります。VFXチームとしてはいろいろ悩む部分もありますが、見たこともない水舞台をつくってみるのも面白いだろうと思いました。
▲江戸城能舞台のイメージボード
撮影は横浜市にある「横浜能楽堂」で行ないました。人物がかかる背景はブルーバックで覆い、かからない部分は手でマスクを切ることにしました。「横浜能楽堂」でブルーバックを設置しての撮影は異例なことであり、ブルーバック、撮影・照明機器のセッティングなどは、能楽堂の設備を傷つけないように細心の注意を払って行ないました。
▲撮影を行なった横浜能楽堂
▲撮影当日の様子
▲撮影したひき映像
▲完成したひき映像
水面に浮かぶ幻想的な能舞台になったと思います。イメージボードでは鵜飼の船のように灯り船がたくさん描かれていましたが、さすがにそれは難しいので篝火を水の中に並べることにしました。実写素材ライブラリから選んだ炎をNUKEのCardにTimeOffset をかけて読み込み、複数個配置します。
▲炎素材
▲NUKE上でCardを配置
3Dで配置したCardはNUKEのScanlineRenderでレンダリングし、Houdiniで制作した水面の映り込みはRayRenderでレンダリングしています。NUKEのRayRenderで炎の映り込みをレンダリングすることにより、合成時の調整が容易になりました。
▲NUKEでレンダリング。篝火のみ
▲水面の映り込みを追加
続いて能舞台上の慶喜ごしに観客席が映るカットです。トラッキングにはPFTrackを使いました。まずはAutoTrackでトラッキングしますが、ブルー幕が近すぎて視差が出ないのに加え、床を含めて特徴点が少なく、上手くとれませんでした。そのため、画面が暗くてよく見えないのをEnhanceでガッツリ明るくして、”心の目”でUserTrackをうっていくしかありません。
▲撮影した慶喜ごしの映像
▲PFTrackでのUserTrack
▲”心の目”でUserTrack をうっていく
なんとかトラッキングがとれたのでMayaにカメラデータを入れ、CGモデルに合わせてみます。プレビューしたところ上手くいきそうです。
▲トラッキングしたカメラデータにCGを入れ込む
座っている家臣たちや建物はCGです。このように多くの家臣たちが慶喜の舞を見ています。この裃を着て座っている武士たちはフォトグラメトリでCGモデルをつくりました。
▲観客と建物のCGワイヤーフレーム表示
▲裃を着た武士たちのCGモデルのバリエーション
通常のフォトグラメトリではAポーズなどで撮影しますが、このシーンでは微動だにせず正座しているCGしか必要ないため、あえて正座の姿勢で撮影しました。また、ほかのポージングをする必要がないため、スキニングもしていません。裃を着た武士をAポーズでつくり、その後、正座のポーズをとらせるにはクロスシミュレーションが必要になり、非常にコストがかかってしまうため、今回はこのような手法を採りました。こうして衣装の色を変えたエキストラの方々で複数バリエーションのCGモデルを作成。撮影したデータをRealityCaptureで形状化し、ZBrushでリメッシュ、Mayaでテクスチャ設定、ライティングをしています。
▲フォトグラメトリ撮影をする裃を着た武士
▲裃を着た武士のCGモデル
下記のブレークダウン映像にあるように、能を見ている徳川家慶と周りのキャストは実際に撮影して、その映像をはめ込んでいます。
▲VFXブレークダウン
このようにして幻想的な水面に浮かぶ能舞台での慶喜の舞のシーンがつくられました。今後もNHKの大河ドラマ『青天を衝け』でのVFX技術をたくさん紹介していきますので、ぜひ放送をご覧ください。(『青天を衝け』VFXチーム)
info
-
大河ドラマ『青天を衝け』
【放送情報】
NHK 総合 毎週(日)夜 8:00~/[再放送]毎週(土)午後 1:05~
NHK BSプレミアム 毎週(日)午後 6:00~
NHK BS4K 毎週(日)午後 6:00~
公式HP www.nhk.or.jp/seiten© NHK