Vol.110-2
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマは2021年のテック業界振り返り。あらゆる製品に響いた半導体不足について解説する。
2021年、あらゆる製造業は半導体不足に泣かされた。自動車からガス給湯器まで、本当にあらゆる製品に影響を与えた。
いうまでもなく、IT機器・デジタルガジェットにも影響が顕著だ。ソニーは年末になり、多数のデジタルカメラ製品の短期受注が困難になっていることを公表している。アップルも、iPhoneやiPad、MacBook Proなどの納期が3週間から4週間に伸びており、年始に手に入る製品が枯渇している。
こうした製品の枯渇は、次の製品に向けた生産計画が関係する部分もあるので単純に半導体不足だけが理由ではないかもしれない。だが、受注に応じきれない、納期が長くなるとメーカーが警告を発する状況はやはり、かなり異例な事態と言える。
原因は複数ある。コロナ禍で物流が滞ったこと、米中対立の関係で一部中国メーカーでの生産が行えなくなったこと、見通しが効かなくなったために必要以上の受注が行われ、結果的に手に入りにくくなったこと。それらが複合的に影響して、俗に「半導体不足」と呼ばれる状況が生まれた。
「2021年も後半になれば落ち着くのでは」「2022年には深刻な状態を脱するのでは」など、いろいろな説が唱えられているが、実際のところ、問題は長期化傾向にある。完全な解決は2023年になっても難しいのではないか、という印象を持っている。
といっても、あらゆる半導体が常に不足しているわけでもない。実は、我々が「半導体」で思い浮かべやすいCPUやスマホ用のSoC、GPUなどの「高性能半導体」の生産はそこまで逼迫していない。足りないのは、ディスプレイコントローラーや電源コントローラーなど、最新の製造設備を求められない、比較的安価な半導体だったりする。
パーツは1種類でも足りなければ、製品を作ることはできないことに変わりはない。実際、部品メーカー側からの話によれば、iPhoneではSoCは十分にあり、足りないのはディスプレイコントローラーなどだという。
もうひとつ面倒なのは、「当初の生産計画分」は部品調達済みだから作れるとしても、人気になっても増産に応じられない、という点。PlayStation 5はまさにこの渦中にある。世界中で「出荷すれば売れる」状況なのに増産もままならず、結果として日本に回ってくる台数も増えず、いつまで経っても買いづらいままだ。専用ソフトの販売計画にも影響が出かねず、ビジネス全体への影響も懸念される。
国が出資し、熊本にTSMCの半導体工場を作ることになったが、これは明確に、今回の半導体不足を受けて、という部分がある。新しい工場で作るのは22から28nmプロセスという、最新ではない半導体である。そのため「古いものに税金を使う」と批判する人々もいるのだが、これは的外れだ。
新工場の操業開始は2024年で、今回の半導体不足は解消している可能性も高いのだが、この種の半導体は自動車からデジカメまで、非常に利用範囲が広いものである。また「部品がないと作れない」状況は、EVが増えていく自動車産業を直撃しかねない。そのことは日本国内の景気全体を左右する要素になるので、あえて「古い技術でも、産業の安定のために誘致する」発想が出てくるのだ。
国家戦略に見直しを強いるくらい、今回の半導体不足は大きな影響を与えたといってもいいだろう。
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